表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青の年代記〜山奥で仲間とひたすら修行した少年が、いつか英雄になる話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
104/144

陽暦1490年9月〜ライデル動乱⑤

 “月闇”ナジームが捕えられたことは、瞬く間に広められた。



 翌日の昼間、騎士団本部隊舎に、ウェイトレスの娘が一人、配達に来た。


「ライリー副団長へのお届け物です。渡せば分かるわ」

 

 そう言ってその娘は、名も伝えず、酒瓶と、金貨の詰まった小袋を門番の騎士に預けて帰った。


 その話を聞き、少し苦笑いするライリー副団長。

 小袋の中身は金貨90枚以上あった。


「乾杯しろってことかな」

 めったにない程の高級酒を見ながら、ライリーは呟いた。



 ナジームは、騎士団の取調べを受けた。


 当初は完全黙秘だったが、雇い主を喋れば死罪にはしないという司法取引を受諾し、一部内容を話し始めた。


 案の定、雇い主はギニウス・ライデル伯爵その人で、暗殺対象はオード師だった。

 なお、目的達成後、次はジェイナス王子が標的となっていた。


 取調べた結果、今回の目論見はライデル伯爵の独断専行のようで、証言の中にレオニード公爵の名前は一切出て来なかった。


 オード師は、病床に有りつつもギニウス・ライデル伯爵を内乱罪首謀者として断罪した。


 そして、王命によりライデル伯爵家の「家名取り潰し」の処分が下されることとなった。


 傘下にいるライデル伯爵家の取り潰し問題に関して、レオニード公爵は沈黙し続けており、結果、手続きに横槍が入ることはなかった。



「……ライデル()、なんと浅はかな……」

 テリスイースト州の州都ヨーク市の中心、一際立派な城の一室で、レオニード公爵は窓の外を眺めながら呟いた。

 外は夕立ちの真っ最中だ。

 レオニード公は50手前。

 痩せ型の長身、冷酷な目つきの男。

 白を基調とした服装にマント姿。


「残念ながら、もはや手遅れ。ヤツには知恵者を一人付けておくべきでした」

 傍に佇む中肉中背の中年が、雷光のたびに浮かび上がる。

 頭髪は薄く、気苦労が多そうな顔をした男。


「どうだヴァルター、この件、当方にどの程度の影響するか」


「まだ瑣末、と言いたいところですが、資金力で1パーセント程度の減となります」


「フン、我が見立て通りか。次なる手筈を速やかに進めよ」

 窓の外を見たままレオニード公は指示を出す。


「畏まりまして。早急に」


「それにしても目障りは騎士団よ……」

 一際大きな雷鳴。

 振り返るレオニード公爵。


「お前の息子を通じて、騎士団内部の監視を続けよ。内から弱らせろ」


「ははっ」



 王命を受け、ライデル伯爵討伐のため、各地から騎士が王都に集まり始めた。

 ライデル荘園には、元々600人程度の兵力がある。

 そこに傭兵がいくらかいるはずだが、正確な数は不明。


 王都騎士団は元々1000人いるが、そのうち、治安維持に必要な500人を残し、残り500人程度を討伐に投入。

 その他を地方騎士でまかなって、数的有利の状況で討伐に臨む。



「なかなか壮観じゃのう」

 騎士団本部隊舎入り口にセキサイが来ていた。

 各地から続々と王都入りしている騎士たちで、騎士団本部は賑わっている。


「爺ちゃん!もう帰ったと思ってた」

 本部玄関の受付業務に当たっていたリョウは驚いた。


「せっかくじゃから、従弟に会ってから帰ろうと思ってな」

 

「ああ、ウーツァン指南役ね。呼んでこよっか?」


「いや、入れてくれさえすれば良い」


「じゃ、ここに名前書いてね、ふふふ」


「その鎧、似合うのぅ。ちゃんと働いておるようで安心したわぃ」

 嬉しそうな祖父と孫。


 セキサイは、すたすたと騎士団隊舎内、武技指南役の待機室を目指して歩く。

 かつて自分がいた場所だ。


 部屋の入り口に「不在」の札がかかっている。


「ああ、指南役を訪ねられて。今の時間は練武場ですよ。行かれても大丈夫かと」

 30代半ばのたくましい騎士がセキサイに声をかけてきた。

 リック騎士だ。


「そうでありましたか。ありがとう」


「……もしかして、リョウのご家族でいらっしゃいますか?」


「おや、分かりますか?」


「雰囲気が、それはもう」


「ワシはセキサイと言います。リョウの爺さんです」


「やはり!お噂はかねがね聞いております、というか私からヤツに質問していろいろ聞き出したのですが!」

 目が輝くリック騎士。

 伝説の”鬼槍“を目の前にして興奮が隠せない。


「あいつ、碌でも無いことを吹き込んでおらんかのぅ」


「ウーツァン師範の下へ、ご案内します!」


「それは助かる」


 リック騎士とセキサイは、練武場までの道を歩く。


 途中で若い騎士たちが固まっている場所に出くわしたが、セキサイが近づくと、皆、自然に道を空けていく。


「……誰だあの爺さん」

 


 そのままセキサイが歩いていると、年配の騎士がセキサイを凝視し、目の前で手荷物の袋を取り落とした。

 姿を見て畏まるリック騎士。


「ほい」

 セキサイが拾って手渡す。


「ど、どどどどうも」

 手が震えている。


「おや、お主は……?」


「2、215期生のワイラー・ドノヴァンです!30数年ほど前に御指南頂きまして、おかげさまでどうにかまだ生き延びております」

 絵に描いたように恐縮している


「そうであったか。済まぬが、忘れてしもうとる。年を取るといかんのぅ。215期は確かにワシが稽古をつけたが……誰がおったかね?」

 頭をかくセキサイ。


「同期には、バルガンがおります」


「その期か!……思い出して来たぞ、お主、痩せのドノヴァンか!肥えたのぅ」


「先生、お若いお姿のままで、大変驚いております。一時期、亡くなった、と話が聞こえてきたもので……」


「ふふ、生き返らせてもらったんじゃ。スリャの奴らには内緒じゃぞ?」

 いたずらっぽく冗談めかして言うセキサイ。


「お元気そうで、嬉しいです」

 目の端が光るワイラー・ドノヴァン騎士。


「今からウーツァンと会う。良かったら見ていかんか、多分アイツびっくりするから面白いぞ」


「それは、貴重な機会!ぜひ」

 

"戦略部長も初任騎士に戻ってるな"

 リック騎士はクスッと笑った。


 

 そろそろ練武場に着く。


 気合いの入った掛け声と、木剣がぶつかり合う音や、足を踏み込む音が近づいてくる。


 リック騎士がふと気づく。

 練武場に近づくに辺り、セキサイの周りの空気が揺らぎ始めており、その揺らぎは段々と激しくなっていく。

 歩きながら悪い顔をして笑っている。


"なんかやばくないか?"

 不安そうなリック騎士。



「止めぃ!!」

 練武場から聞こえたその声とともに、喧騒が静まり返った。


 






 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ