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青の年代記〜山奥で仲間とひたすら修行した少年が、いつか英雄になる話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

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陽暦1490年9月〜ライデル動乱④

 ライリー副団長とリョウは騎士団の療護院に戻って来た。


 いつの間にかオード師の病室がある階の会議室に、仮の騎士団本部が設置されている。


 2人からもたらされた情報に驚く団長たち。


 サイ先生や他の教官らがナジームの情報をもとに戦術を考える。


 しかし、なかなか良い考えがまとまらない。

 今の条件では、夜間の戦闘で勝てる見込みが無い。


 どうするか頭を捻る幹部たち。


「……リョウ、何か思い付かないか」

 何気なく、リョウに水を向けるサイ先生。


「はい!こういう時、ジンが頼りになります」

 リョウは、最精鋭である近衛騎士カルヴェインを圧倒する魔法剣士を、自分では捕まえられる気がしない。


 相手は掛け値なしの化け物だ。

 だが、知恵比べとなると、こちらにも分が有りそうな気がする。


「……ちょっと呼んできてくれる?」

 ふと考え、サイはリョウに命じた。


「ああ、あのジンくんですね」

 軍略科のブラン教官が目をつけていた。



 リョウに連れられ、ジンが会議室に入る。


「……なるほどこれは強力な魔獣狩り……」

 現状の説明を受け、ブツブツ言いながら即座に考え始めた。


 リョウからは、ジンの目がワクワクしているように見える。


 しばらく考えて、ジンの表情が明るくなった。


「……リョウ、副総代を呼んできてよ」

 今度はゼルダンか、と思いながらリョウはひとっ走りする。


 その間、ジンは、幹部に自分の考えを伝える。


 皆、驚きつつ表情が明るくなる。



「呼んできたよ」

 息も切らさず走って来たリョウとゼルダン。


「どういったことですか?こいつが何も説明してくれなかったので」

 少し戸惑っているゼルダン。


 バルガン団長とサイ教官から事情を説明され、ゼルダンは少しイヤな顔をした。


「……なるほど理解しました。全力を尽くします」

 いつもの鉄面皮に戻るゼルダン。


「硬いよゼルダン。ま、頑張ろう」

 サイ教官がニヤけ顔で言う。


「……果たして、上手く運ぶか……」

 ライリー副団長が呟く。

 ただ、時間は限られており、守る側も疲弊し始めている。


 荘園にこもっているライデル伯を今、さらに追い詰めるためには、暗殺者を必ず捕らえなければならない。


「ライリーよ、俺は、若い可能性を信じる」

 バルガン団長は覚悟を決めた表情だ。



 同日夕刻、ナジームは、闇に紛れて騎士団の療護院を監視していたが、にわかに動きが慌ただしくなったのを感じた。


 “動くか”


 ナジームは空を見上げる。

 丸い月が白くうっすら登っている。


 “月夜は、俺の時間”


 近くの暗がりに潜み、上から着ていた服を脱ぎ、隠すと、闇に溶け込む黒装束姿になった。


 しばらく見ているうちに、辺りに夜の帷が降りてきて、闇に包まれ始めた。


 ナジームがなおも監視していると、オード師が椅子に乗せられ、療護院を出て馬車に乗せられる。

 馬車は王宮を目指す方向を向いている。


 "やはり、来たか"


 周囲には警護の騎士が8人もいる、が、オード師を暗殺するだけなら、不意をつけるナジームには可能だ。


 “よく見ろ、罠は無いか“

 ナジームは慎重に周囲の様子を窺う。


 ”手練れは……全員か……大層な"

 ナジームは薄く笑った。


 ”罠の可能性、低い”


 “月影に移り、見計らって馬車の下に潜む”


 そう決めると、ナジームの体はあっという間に闇に溶け込み、影と影の間を次々と移りながら馬車に近づいて行く。

 

 その時、馬車が動き始めた。


 王宮までは大通りを一直線だ。

 途中にさまざまな工作物があり、潜む影は無数に有る。


 襲撃ポイントを王宮入口と定める。

 そこで一度止まるはずだ。



 移動しながら、ナジームには微かな違和感が湧き始めた。


 "騎乗している護衛、少ない"


 "馬車が、遅い"


 そうしている間に、馬車が急に止まった。


 塔のある噴水広場の辺りだ。

 遮蔽物が少ない、あまり良くない場所だが、影はある。


 "何だ、観察しろ"


 すぐに護衛の2人が馬車の中に入り、中からオード師が運び出された。

 4人がかりで、地面にうつ伏せに寝かせる。

 オード師は意識を失っているように見える。


 "背傷がたたったのか"


 "だがここで仕留める"


 ナジームは、月影の闇を移りながら、噴水塔の頂点付近の影まで来た。

 

 何も無い中空から、突然湧きだしたように現れたナジーム。

 すでに両手にソードブレイカーを把持している。

 真下はオード師が寝かされている場所。


 必殺の態勢で降ってきた。


 "!?"


その刹那、強烈な違和感がナジームを襲った。

 下にいる護衛が、魔力を溜めている!


「今!」

 ジンの叫び声。


 護衛の1人、ゼルダン・クレストは準備していた"大閃光フラッシュ"を発動させた。

 辺りが爆発的に閃光に包まれる。


「ぬおお!?」

 

 護衛が光った瞬間、咄嗟にナジームは手で顔を隠したが、片目の網膜が焼き付いて真っ白だ。


 それは一瞬どころか、まだ護衛は光り続けていて眩しい。


 落ちながら、刹那、かろうじて片目で闇を探すが、まだ強烈な光が継続している。


 "輪郭がぼやける"

 "涙が止まらん……が!"


 "そこだ!"


真下の護衛、影が一点に重なり合っている。

 ナジームは、そこを目掛けて体を捻り、着地体勢に入った。


 "着地と同時に次の影に移る!"


 しかし、ナジームはそこに着地したが、絶大な練度を誇る移動魔法が発動しなかった。


 "ば、馬鹿な!影に沈まん!"


「これ、ボクの魔法」

 護衛のサイの影に見えたものは、黒い紐状の魔力の帯に変わり、ナジームの全身を拘束した。


「ウォオオオオッ!」

 絶叫するナジーム。


 魔力拘束を解こうともがく。

 一部が壊れ、破れそうになる。

 慌てて突き出した拳に力を込めるサイ。


「誰か!」

 危険を知らせるサイ。


 その刹那、護衛に扮していたフェリクス教官、ジンとヤナが一斉に襲い掛かり武器を奪う。

 

 直後、背後からリョウが首を絞めてナジームを気絶させた。


 大閃光の継続に魔力を限界まで絞り尽くして、ゼルダンはふらつき、倒れそうになった。


 そこをヤナが抱きとめる。


「頑張ったわね」

 言いながら魔力を注ぎ込むヤナ。


「……すまない」


「そこは、ありがとうって言っといた方がモテると思うわ」


「そうか、すまない」



「名演技でした」

 バルガン団長はオード師に肩を貸しながら馬車に再び乗せる。


「シナリオが良かったな。騎士団がいかに有望か、思い知ったわい」

 ニヤリと笑うオード師。

 だが一瞬顔が歪む。


「もう少し、病室にいて下さい」


「世話になる、アタタ……」



「誰も傷付かなかったな、なあ」

 バルガン団長はナジームを縛り上げているジンたちを見ながら、ライリー副団長と目を見合わせた。


「まだ若いのに、みな頼もしい限りです」

 

「……さて、この落とし前、きっちりつけさせてもらうぜライデルさんよ」

 そう低く呟く団長の目は、暗く燃えていた。



 


 

 

 


 


 

ナジーム編結末まで一気に書き上げました。

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