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青の年代記〜山奥で仲間とひたすら修行した少年が、いつか英雄になる話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

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陽暦1490年9月〜ライデル動乱③

 王都ヤーマスのイースタン地区のスラム街の一角の宿に、その男はいた。

 しなやかな長身で黒髪の長髪を後ろで束ねた浅黒い肌の男。


 今は帽子を被り、顔半分を布で隠してヤーマスの若者と同じような服を着ている。


 オード師暗殺未遂事件の実行犯”ナジーム・ファルーク”


 スリャの南にあるマリク国の暗殺者。


 “もうしくじる事はできない……”


 フロントと顔を合わせることのない安宿の一室で次の暗殺の機会を窺っている。


 情報屋からの話では、オード師は生きて騎士団の療護院におり、今でも執務を行なっているという。


 “忌々しい。ヤーマス騎士団……厄介な場所“


 ”護衛、多い。無理……狙う場所、考える”


 どこからか据えた臭いが漂ってくる狭い部屋の隅で、ナジームは干し肉と果物を齧りながら、夜を待っていた。



「いらっしゃいませ……ってお前!」

 店の前を給仕姿で箒がけしていたレントは、驚いた。


「よう!元気そうだなレントくん。マジメに働いており結構結構」

 リョウはライリー副団長と共に、盗賊ギルドの前にいた。

 一応私服姿だ。


「な、なんの用っすか」

 いつまでも騎士は苦手なレント。


「ちょいとルカさんに話を聞きたくてな」

 ライリー副団長はレントの手に銀貨を握らせた。


「こっちへ」

 戸惑いながらレントは2人を店内に促す。


「……げっ」

 いつものように。女装姿で接客中のルカ。


「すいません」

 謝るレント。


「お客さま、本当に、本当にイヤですけど、不本意ながらこちらへどうぞー」

 ルカは奥の部屋にリョウたちを案内した。


「レント、元気そうだったな」


「その節は世話になった」


 いつものように女装姿から黒のスーツ姿に早変わりする。

「……で?」


「単刀直入に言う。オード師暗殺未遂事件の犯人の情報が欲しい」

 ライリーが真っ直ぐルカを見つめる。


「……やっぱりか」

 タバコを取り出して吸い始めるルカ。


「……高えぞ。コッチも命がけなんでな」

 ルカは一息紫煙を吐いて、一段高い場所の一人がけソファから見下ろしながら言う。


「何か知ってるようだな。幾らだ?」


「……段階的に値段をつけさせてもらう。まずは質問しな」


「犯人を知ってるのか、誰だ?」


「金貨5枚」


「うぉっ、本当に高いな」

 3ヶ月はゆうに暮らせる金額。

 ライリーは懐から金貨の入った袋を取り出し、中から5枚支払う。


「裏の業界では有名人よ。ナジーム・ファルーク。通称“月闇”と呼ばれているマリク人だ」


「今どこにいる?」


「金貨1枚……と言いたいところだがこいつぁサービス。イースタン地区のスラム街で最終目撃だ。今いる場所までは分からん。気取られると殺されるからな」


「む、ギルドも奴を警戒してるのか?」

 ルカの耳の早さに驚くライリー。


 その質問はタバコを吸いながら無視するルカ。


「他に質問を続けな」


「そうか、では、その伝説のナジームとやら、何か戦い方の特徴などはあるか?」


「……」

 ルカはもう一度タバコを吸い、目を閉じた。


「金貨100枚だ」


 目を白黒させるライリー副団長。


「吹っかけすぎじゃないか」


「この情報は、知る者は他にいねぇと思うぞ。妥当な値段だ。……俺の命がかかってくるからな」

 最後の部分は普通聞き取れないくらいの小声。


「どういった経緯で入手した情報かくらいは教えてくれ」

 騎士団のバックにオード師がいるとは言え、おいそれと出すわけにはいかない金額。

 必死に情報収集を試みるライリー副団長。


「……昔、俺がこの傷と引き換えに得た情報だ」

 ルカは上着とシャツを脱ぎ、逞しい筋肉質の背中にギザギザと残る大きな傷跡を見せた。


「何!?」

 驚くライリーとリョウ。


「20年以上前だ。俺とツレが請け負った仕事とヤツが競合してな。現場で鉢合わせた訳だ。どうだ、払うか?」


「分かった。払う」

 即断するライリー副団長。

 ルカはこう言った場面で絶対に嘘は言わない。


 金貨の入った袋をそのまま渡す。

 そして懐からさらに5枚出そうとする。


「おいおい、そっちは自腹じゃねぇか……いらねぇわ」


「良いのか」


「お前さんらとは正直な関係を続けたい」


「助かる」


 

「……ヤツ“月闇”は、闇に潜る魔法を使う。そして、闇から闇を渡れる……が、その距離はそれほど長くない。そうだな……助走つけて飛べる距離くらいだと思う。武器は、知ってるか、双剣のソードブレイカーだ」

 思い出しながらルカは説明した。


「おお、この情報はありがたい」


「もし“月闇”をどうにか出来たら、一部差っ引いて、金は返してやる」


「なぜだ?」


「……そうなった後、俺は、ツレの墓前に高え酒を供えるだけだからな」


「……そうか。いい報告を期待していてくれ」


「フン、今の騎士団は悪くないと思っている。お前らまだ死ぬんじゃねぇぞ」


 リョウとライリー副団長が出て行き、誰も居なくなった後、ルカは目のあたりを手で押さえ呟いた。


「おかしな奴らだ。馴れ合う気はねぇんだがな……なぁ、お前はどう思うよ……」


 

 

続きもすぐ上げます。

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