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青の年代記〜山奥で仲間とひたすら修行した少年が、いつか英雄になる話〜  作者: 不知火亭先多
第二章〜王都騎士団編

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陽暦1490年8月〜ライデル動乱① 序章

 金髪で長身の少年、傭兵団「暁月(アカツキ)」の切込隊長アラカンダル・エラ・カリスは、馬上で東を目指していた。

 

 総勢30人の傭兵団「暁月」は、西側諸国ではなかなかの知名度を誇るが、「文化の道」を東に進めばそのことを知る者はいなくなっていく。


 傍には、白い仮面を付けた黒髪の少女が同じく馬上の人となっている。

 目元が隠れており、顔立ちは分からないが、鼻筋と口元だけでもかなりの美貌が窺える。


「……遠いわ、ヤーマス王国」

 仮面の少女は、表情ははっきりと分からないが、明らかに不満そうな口調だ。


「……すまないなシオリ。俺のせいだ」

 軽く微笑みながら謝るアラカンダル。


「本当にね。あんたが団長に進言しなかったら、こんなに尻が痛くなることもなかったわ」

 揺れる馬上で嘆息するシオリ。


「久しぶりの夢の託宣だったんだ。“金耀きんよう神子みこよ、テリス海で剣を執れ“ってね」


「なんなのその託宣とやらは」


「……俺にも分からん。数年に一度かな。夢の中で妖艶な美女が何かを囁きかけてくるんだ」


「へー。良かったわね、エロい夢見れて」

 シオリの言葉にトゲを感じるが黙っているアラカンダル。


「俺の人生、その女の言葉に導かれるようにここまで来た。今回は初めて地名が出たんで少し驚いている」


「……まあ、今回は金払いがいいから、ギリギリ我慢するけど」


「お前が来てくれなければ、団の戦力は半減だ。いつも助かっている」

 真面目な顔で真っ直ぐシオリを見つめるアラカンダル。


「ま、まぁ、それはそう、だけど」

 褒められてまんざらでもないシオリ。


「今回の任務は当面の間の都市防衛、前線より命の危険は少ないはずだ」


「……どうだか。きな臭いじゃないヤーマスも」


「ふ、そうだな。傭兵の博覧会みたいになってきてるな」


「”黒の傭兵団“までいたわ。どこを目指してるのやら」


「遠征先でヤツらと雌雄を決するのも一興かもな」


「絶対イヤ!よ。あーあ、ずっとアパンのご飯食べておきたかったなぁ。この田園風景ともお別れかー」


「お前の祖国に似ているのだろう?」


「そうよ。この任務が終わったら、しばらくアパンに逗留よ」


「仕事があればな」


「ワーカホリックっていうのよそういうの」


「聞き慣れん言葉だ。シオリも戦いの無い世を作るために手伝ってくれるのだろう?」


「そんなこと言ったっけ?言ったわね。早く力をつけてちょうだい」


「ああ」

 

 傭兵団”暁月“は、もうすぐアパンとヤーマスの国境の関所を越えようとしていた。



「オード師の容態は今、どうなっている?」

 襲撃事件から3日、ヤーマス王都騎士団長アイザッツ・バルガンは憔悴した面持ちでライリー副団長に尋ねた。


「良くないです。”慈愛の聖女アルシア”不在の時を狙われたのが災いしています……」


「……今、師に死なれては困るのだ」


「騎士団の癒し手を回しましょう。意識不明に対してはアルマのヤツが何かできればあるいは……」


「とにかく、できる手立てを全部打つ」


「しかしカルヴェインが付いておきながらこのような事態になるとは……」


「王宮内部は、すでに敵地であると認識せねばな……」



 オード師は、まだ暗殺の危険があるので、騎士団隊舎からほど近い騎士療護院の奥に護衛を付けて守っている。

 とりあえずサイ・ハグーダとフェリクス・ナイトレーの2人が守っている。


 もともとオード師の護衛は、騎士団でも最精鋭の一人、近衛騎士カルヴェインが担っていたが、今回そのカルヴェインが真っ向から戦い重傷を負わされるという想定外の出来事に、幹部連は衝撃を受けている。



「……どうだ傷の具合は」

 バルガン団長は療護院の個室を訪ねた。

 

 包帯で身体中を巻かれた騎士が、傷にさわらぬようベッドに固定されていた。


「……面目ありません……」


「どのような輩だったか、聞かせてくれるか」


「しなやかな長身で彫りが深く、黒髪の長髪を後ろで束ね、浅黒い肌の男でした……武器は双剣で、ソードブレイカーという奴でした……」

 カルヴェインは言葉を絞り出す。


「そいつはどう現れた?」


「オード師の寝所の前の暗がりに……隠れていたのですかね……私は全く気付かず、音もなく背後から膝裏を斬られました。即座に剣を抜きましたが……その双剣の背で挟み取られ、剣を……へし折られてしまったのです」


「……なんというヤツだ」

 カルヴェインに気取られないだけでも達人なのに、その剣をへし折るとは。


「ヤツは私に何度か斬りつけ、逃げるオード師を背後から斬ろうとしたので、咄嗟に折れた剣先を拾って相手に突進……しかし間に合わず……」


「いや、お前の気迫に押され、相手は一撃でオード師を殺せなかったのだ。騎士団員全員を代表して礼を言う。ありがとう」

 バルガン団長は深々と頭を下げる。


「お、お役に立、立てず、申し訳……」

 涙ぐみながら咳き込むカルヴェイン。


「すまなかった。だが助かる。ゆっくり休んでくれ」

 団長の言葉に、カルヴェインは静かに瞳を閉じた。


 

 ライリー副団長に連れられて、ヤナとセラ、アルマはカルヴェインの病室の隣、オード師の病室に来ていた。

 入口を守るサイ先生たちにも疲れが見える。


 オード師はやがて80歳。

 こちらも上半身を包帯で巻かれている。

 このような大怪我をしては、いつ死んでもおかしくない。


「ヤナちゃん、どう見える?」

 セラが心配そうにヤナを見る。


「元々のシマーは白く輝いてたんでしょうね。今はうっすらとしてる。生命力がかなり低下しているわ」

 そう言いながら、ヤナはオード師の体に手を当てて、回復のための魔力を流し始めた。


 セラもそれに倣い、オード師に回復のための祈りを捧げ始める。


「アルマ、意識不明の人を起こせるか?」

 ライリー副団長はとりあえずなんでも言ってみるタイプだ。


「そんなことしたことは有りませんが……どうすれば良いかな……」


 この国でも有数の権力者を目の前にして、途方に暮れるアルマ。


 “正直、荷が重ぇ〜”

 

 手を握ったり、頭に手を置いたりしながら、精神を集中してオード師の精神の居場所を探ろうとする。


 しかし、相手は意識不明。

 オード師の頭の中はモヤがかった闇。


 いつものような、相手との繋がりが得られない。


 “遠慮しちゃってんのかな、俺ってば”


 “こんな要人と絡むようになるなんて。全くもってらしくないね”


「……雑念が」


 アルマは集中を欠いていたが、ふとヤナとセラを見やる。


 二人とも汗をかきながら一生懸命に魔法を行使している。


 “……同期の美女2人に手を焼かせやがって!”


 ふと程度の低い怒りに駆られ始めたアルマ。


 衝動に任せ、オード師の頭を掴み、自分の額とくっつける。


 アルマの意識は、先ほどより深く、オード師の精神の奥へ潜っていく。


 ”ジジイ!いい加減起きやがれ!“


 アルマの心の叫びの光が、オード師の頭の中の暗がりを吹き飛ばした。


「誰がジジイじゃ!」


 オード師は目を開け、アルマと目が合うと、いきなり頭突きした。


 


 


 


 

 

 


 

個人的記念の100話です。

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