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未完世界のリライト ーシナリオクラッシュ・デイズー  作者: PRN
Chapter.5 人は誰しも秘密がある、しかもかなりエグめの

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95/125

95話 朝、すなわちモーニング《OHAYOU World》

挿絵(By みてみん)


大ギルドで迎える

普段の朝


目覚めたら

虎がいる生活


六冠

トルパルメ・ギーニャ


襲来

※リーファとサーファの名前があまりにもに過ぎていたため

 六冠に憧れるあまり名前すら寄せてリーファという偽名を名乗っていたので今章から修正し

 ちゃんと本名を名乗るようにさせたことをご報告します※





……………………




 力あるものは相応に人々へ施しを与えよ。


 どこかの偉い人間が余裕綽々でふんぞり返りながらよく口にする言葉だ。

 事実として使われる人間に余裕なんてものはないし、日々を埋め立てるようにあくせく働くしかない。

 大陸冒険者統一協約機構。通称大ギルドに登録してから幾数日が経っただろうか。

 時間の感覚さえ忘れるほどに、多忙かつ充足した毎日がつづいていた。


 あるときは、下水に住み着いた魔物退治。


 この場合だと魔物退治はおまけだった。

 浄水施設すらないダイレクト下水に鼻を焼かれ嗚咽に耐える。


 あるときは、商人の護衛。


 少し冒険者らしいと思えば、実体はまったくロマンはない。

 あの商人を名乗るセクハラじじいからレーシャちゃんを守るほうがよほど護衛だった。


 あるときは、家財の運搬。


 洋服棚やチェストなど。家具を別の家屋に運び入れて依頼人のワードローブを整えるというもの。

 これはもうただの引っ越し屋さんだ。


 このように雑事耐えぬ生活に冒険者として心身が鍛え抜かれていった。

 毎日依頼をこなしながら寮に戻っては泥のよう眠る。そんな日々が連なるように俺の生活を慌ただしさで塗りつぶしていく。

 そして本日もまた鉛のように重い瞼を開き、冒険者としての1日がはじまろうとしている。


「がおっ」


 重い。

 比喩ではなく現実として身体が重い。

 疲労とかそういうのじゃなくて、普通に重い。

 金縛りなんてオカルトを信じたことはない。しかしおそらく同等の奇怪な状況になっている。


「…………」


 これは夢だろうか。

 瞼を開いて覚醒した俺は、ずんぐり鈍い頭で考える。

 俺の横たわる掛け布団の上を、なぜか1人の少女が我が物顔で占拠していた。


「おはよっ」


「……うっす」


「がおっ」


 なんだこのやりとりは。

 唐突にされた朝の挨拶に、つい挨拶を返してしまう。

 首にフカフカの毛玉をつけた猫科耳少女が、俺の上にちょこんと座っている。

 少女の体型は形を急がない途中の風景のよう。肩から腰まで流れる線は緩やかで、穏やか。腕も足も細い枝みたいに華奢だった。

 でも重いものは重い。だって1人が乗っているのだから重いという事実は変わらない。


「あの」


 ようやく俺の脳が現実を受け止めはじめる。

 自分の上に乗っていたのは、トルパルメ・ギーニャだった。


「六冠のアンタが俺の上でなにやってんですか?」


 大ギルドの頂点を誇る、6つの冠がある。

 そのなかでは実力や能力は数異なれど、唯一大ギルドで1流を名乗ることが許される。それが六冠。

 そんな名誉ある冠を誇る少女か、なにをトチ狂ったか、俺の上に乗っていた。


「よく寝てるなーと思って」


 弾むようでいて成熟まえの高い声だった。

 同時に発達した犬歯を向くように、にひっと笑った。


「答えになってないんですけど……」


「じゃあちゃんとよく眠れてるのかなーって心配になって」


「まず心配される理由もわからないし。なんだったらアンタの重さで目覚めたから絶賛安眠大妨害の真っ最中なんですけど」


 混乱を経て、俺はむしろ冷静だった。

 寝ている俺の上に、ギーニャがぺたん座りしている。

 以上、どういうことだ。


「(それにしてもよく見ると……)」


 ふと我に返って寝ぼけ眼をこする。

 トルパルメ・ギーニャ。あらためて見るとかなりちゃんとしている。というかキャラが立っていた。

 身長は130cmほどか。体型だけならば少年か少女かさえ判断が難しい。

 しかしただ幼いと言うだけではない。瞳にはあどけなさを残しつつも獣人特有の勇ましさが備わっている。

 無垢な美貌がときを急がず。むしろ止まってしまっているような素直さが備わっていた。


「がおっ。なにを見ているんだ?」


 とてもではないが王を冠するとは思えない。

 それほどまでに愛らしく、弱々しい。


「親のどっちがキングレオ種なのかなぁ、と。うっすら考えていただけです」


「なぁんだオマエそんなこと気にしてんだな。ってか知っててもここじゃあんまし訊いてくるヤツいねーけど」


 たしかに親の種族を気にするのは、普通に失礼か。

 実在する獣耳美少女に出会ってしまった。だからか少しテンションが上がってしまった。


「オレは天涯孤独で親の記憶なんてモンはもってねー。だからオレを育ててくれたヤツがオレのかーちゃんでギルド長は親父だ」


 そんな重い設定だった、気もする。

 そもそも平和な日本とはまるで異なる。このヴェル=エグゾディア世界そのものがけっこう重めの設定なのだ。

 街の外にでれば魔物と邂逅し命を奪われることも多い。じっさいに暮らしてみて危険が節々にまで沁みている。


「そういえばオマエ、オレらに詳しいんだったな?」


「それくらい有名ですからね。やっぱり冒険者をこころざすのならこれくらいは常識かと」


 嘘である。

 だって俺が造った設定だもん。

 でも六冠の名が周知であるというのは、わりと本当だった。


「にししっ。褒められて悪い気はしねぇな。じゃあ勤勉な新米くんにちっとだけオレの姿を見せてやるよ」


 トルパルメは、発達した八重歯を見せつけてくる。

 すると唐突に俺にのしかかっていたはずの体重に変化が起こった。

 彼女の口から意のある言葉が紡がれる。


「《原子魔力変化トランス》!」


 そのときトルパルメの身体が燐光を帯びた。

 寝ぼけ眼に刺さるくらいの白光。同時に腹部にかかる重さが倍近くにまで膨れ上がる。


「ククク……どうだぁ?」


「…………」


 しょうじき魂を抜かれるような気分だった。

 この一瞬でトルパルメの声と見た目に絶大な変化が生じる。


「なんか感想言えよぉ? 言葉すら忘れるくらいビビってんのかぁ?」


 そこにチビ貧乳だった姿は、どこにも見当たらなかった。

 彼女は俺を挑発するように頭の後ろで手を組むと、実りのある胸を押しだす。

 抑揚なくストンとしていた体型は、凹凸目覚ましい曲線を描く。あどけなかったずの目立ちも細く長くクールで勇ましさすら感じさせる。声だって繊細で否応のない色気でこちらの耳をくすぐるかのよう。


「……服は、伸びないんですね」


「あ”? さすがに普段着だからしゃーねーよな。外駆けようの服はもちっと伸びるやつきてるんだ」


 なにより目を奪ってならないのは、引き締まった腹筋や露出の多さだ。

 小さな姿から倍近い質量の増加。結果として水着のような服装になってしまっている。


「ほれほれぇ! なんだか視線がくすぐってぇなぁ! 念願叶っての六冠様だぜぇ尊敬しやがれぇ!」


 性格は子供のままなのか、無自覚だった。

 トルパルメが丸い腰を前後に軽く揺らす。

 するとなかったはずの胸が、たゆり、たゆり。大きく波を打って上下する。


「(これが原子の魔力を使った形態変化、トランスか! ケモ耳美少女がケモ耳美女に化けやがった!)」


「がおっ! オマエさてはエロだな! さっきから冷静なツラしてどこ見てんのか丸わかりだぞ!」


 どうしよう(どうしよう)。

 いくら見た目が大人になったからとはいえ少し罪悪感があった。

 現在の彼女に劣情を抱くというのは、なんだか犯罪の臭いがする。

 だがトルパルメは子供のような笑みで、自分の作品を見せつけるかのよう。


「面白ぇことにさ、この格好になると途端に人と目が合わなくなるんだよなぁ! んで元の姿に戻っても前と同じとはならねぇ!」


「その姿になるといつもこんなことばっかりやってるんですか?」


「おうよ! やっぱ見てくる相手にはこうやってサービスしてやらねぇと可哀想だからな!」


「なら、それはたぶんその姿になると無駄に色っぽい仕草をしすぎるから相手もどう捉えていいのか困ってるんじゃないでしょうか」


「…………マジ?」


 トルパルメの腰を揺らす淫猥な動きがぴったり止まった。

 どうやら本気で無自覚だったらしい。


「もしかしてなんですけど、その身体になると自分という認識がないのでは?」


「……あー、形態変化は魔力使ってるし魔法みたいなもんだしなぁ……」


「あんまり乙女の身体を安売りかないほうがいいと思いますけど?」


 そう伝えた直後だった。

 動きを止めたトルパルメの顔が見てわかるほど上気しはじめる。


「あ、ああっ、あああっ!」


「将来同じ姿に成長したとき変な期待されてそれでもサービスをしつづけられますか?」 


「ま、待て待て! やめろ、別にオレはそんなつもりでやってるわけじゃ……」


「周りはアンタの色っぽい素振りを見て嬉しいと思いますけど、身体と精神が年齢に追いついたときたぶん1番後悔するのは自分なのでは?」


 次の瞬間、ぽふん。

 気の抜ける音とともに腹部の重みが幾らか軽くなった。

 煙のなかからでてきたのは、真っ赤になった少女トルパルメの姿だった。


「なんだあああ!! オマエエエエエ!!」


 年相応な駄々っ子がはじまる。

 短い両手両足をばたばたさせながら怒鳴り散らす。


「普段なら気まずくてなかなか訊いてこない親の話とかそういうの訊いてきたりぃ!! いきなしこっちが恥ずかしがるようなことばっかり言いやがってえええ!!」


「止めろ埃が立つから暴れるな。俺の髪を掴んでぐしゃぐしゃってするな」


「がおー! なんかオマエすげー変だ! 変なヤツなうえにエロだ! こんな変なヤツに会ったことがないくらいエロだ!」


「けっきょくエロじゃねぇか! 自分で無自覚に色気振りまいておいて気づかされたら暴走するとかただのガキかよ!」


 冷静さを欠いたトルパルメが食ってかかってくる。

 マウントポジションをとられた俺は、それを両手で引き剥がそうと力を籠めた。


「がおおおおお! 生意気なヤツだあああ!」


「どっちが生意気だこのちんちくりんがぁ! もう1回さっきのヘソだしセクシー姿になってみろやぁ!」


「~~~っ!?」


 しゅぼっ、と。

 いうなにかが破裂するような音がした気がする。

 そこからさらにトルパルメの顔が、より紅潮した。


「オマエの前じゃもう絶対になってやらねぞぉ!? オレのことスゲーエロい目で見やがって――この変態めっ!?」


「そのエロの称号は5分前のオマエに与えてやるぜぇ! ちんちくりんのくせに男の寝起き襲いやがってぇ!」


 彼女の力自体はそれほど強くもないし、弱くもない。

 いちおう俺も本気で抵抗を試みている。しかしなかなか引きが剥がせないでいると。


「ナエ様おっはようござい――まああああああああああ!!?」


 もっと厄介な客の到来だった。

 彼女は部屋に入ってくるなり悲鳴をあげる。


「がおおおおおおっ!」


「ぐおおおおおおっ!?」


「トルパルメ様とナエ様ぁ!? ふ、ふたふた、おふたりでなにをやってるんですかぁ!?」


 俺最愛の推しであり大ギルドで相棒を務める、レーシャ・ポリロだった。

 この状況だ。混乱して声を荒げるのも無理はない。

 きっと彼女は部屋に入ってくるなり、こう思っただろう。

 男と女が1つベッドの上で組んずほぐれつ白熱している、と。


「このエロ! エロ助! エロ男オ!」


「うるせぇちんちくケモ耳娘が! 5年経ってからあのナイスバディで出直してきやがれ!」


「はわわっ!? ど、どっちもどっちなことしか言ってないっ!?」


 トルパルメも引かないし、俺だって引いてたまるか。

 爽快だった朝は乱され、いまや乱世となりつつある。

 そんななか唯一動けるのは、レーシャちゃんしかいない。


「おふたりともまだ明るいうちからそんなことしちゃいけませんっ!!」


 電撃参戦だった。

 レーシャちゃんは組み合う俺たちに向かって飛びこんでくる。


「トルパルメ様はナエ様から離れてくださーい!」


「――がおっ!?」


 レーシャちゃんがトルパルメの首にしがみつく。

 すると急にトルパルメの動きが不自然にぴたりと停止した。


「は、離せぇ! オレの首の後ろに息を吹きかけるなぁ!」


「ダメです! ナエ様から離れて下さるまで私は離れません!」


「ひうっ!? 声を荒げるとよけいに息がかかって――はにゃぁぁん!?」


 いたいけな矯正とともに沈む。

 トルパルメは布団の上にぐったりと倒れこんでしまう。


「あひっ!? あひんっ!?」


 それどころか恍惚として表情に幾度と痙攣を繰り返している。


「あ、あれ? トルパルメさまぁどうしたんですか?」 


「(まさかコイツ!? 猫科だから首の後ろにつまみ誘発性行動抑制機能がついてるのか!?)」


 六冠の意外な弱点だった。

 レーシャちゃんは、トルパルメから身を離しておろおろと動揺している。


「私、六冠のかたにもしかしてすごく失礼なことをしてしまいましたか!?」


「いや、もしレーシャちゃんが助けてくれなかったら大変なことになっていた。俺はこの肉食獣の餌食になっていたかもしれない」


「だれもぉおまえなにゃんかたべぇねぇよぉ! いいからかんかくもどるまでちっとまてぇ!」


 約2分後。

 トルパルメはのそのそと起き上がる。

 微妙に汗ばんでいたり、頬が桃色に染まっていたり。どうやらまだ完全回復とはいかないようだ。


「ったくもぉ! このことは誰にも言うなよな! せっかくふかふかで首を守ってたってのに変なところで油断しちまったぜ!」


 身なりを整えつつも不満たらたらだった。


「ごめんさいぃ……私もなにがなんだかわからず。絶対にばらしたりバカにしたりしません……」


「というかオマエはいったいなにしにきたんだ? 目が覚めたら目の前にいやがって……」


 もとはといえばこのケモ耳娘が俺の部屋にいることがコトの発端である。

 わざわざ部屋に忍びこんで安眠を妨害しなければこんな騒ぎになっていない。

 身なりを整え終えたトルパルメは、ベッドから降りてすっくと立ち上がる。


「がおっ。昨日の会議のあとギルド長の親父がオマエらに用事があるって言ってたから伝えにきた」


「それ先に言えよ。メッセンジャーとして最悪な遠回りかますじゃねぇかよ」


「新人だから疲れてると思って起きるのを待っててやったんだぞ! オレの優しさを返しやがれってんだ!」


 逆ギレだった。

 親切はありがたい。しかし上に乗る理由が行方不明である。


「そういえば2人ともエルダーオースを組む相手って見つけたか?」


 そのまま去るかと思いきや。

 トルパルメは、くるりとこちらに振り返った。

 どうやら俺とレーシャちゃんに尋ねているらしい。

 俺とレーシャちゃんは互いに見合ってから口を開く。


「いいや。いまのところはレーシャちゃんと2人で満足してるしとくに誰とか考えてない」


「ちなみに私はナエ様のオースですっ! なので他のかたとは契約しませんからっ!」


「がおっ、でもそれって井の中の蛙だよねぇ? もっと上を目指すには実力と経験豊富な相手を見つけないとだよねぇ? それだと折角あるオースのシステムが意味ないじゃん?」


 あんがい正論だった。

 たしかに俺とレーシャちゃんは互いに実力や性格をあるていどわかりきっている。

 お互いにリスペクトもあるし、信頼関係でも繋がっている。つまり、ただの友だちだった。


「それだともっと上にあるはずの目指すべき目標が見えてこないだろ。自分が越えるべき壁を実体験するのもエルダーオースの一部なんだからさ」


 エルダーオースは、下位クラスの冒険者が上位クラスの先輩に付き従うというもの。

 逆に上位クラスは、オースとして認めた者を育てる責任が生まれる。

 まさにもちつもたれつ。経験の浅い者は熟練者を尊重し、熟練者は認めた若者を育て育む。

 冒険者たちの精鋭化に励む大ギルドらしいよく練られた仕組みと言えよう。


「上のモンから誘う機会は多くはない。だがオマエらの場合はいきなり変に目立ってるから育ててーってヤツ多らしいぞ。だから見逃さないようちゃんと回りよく見とけよな」


 そう言い残してトルパルメは腰からの伸びる尾ををピンと伸ばすように扉のほうへと歩いてく。

 だが、廊下にでるかでないか。その辺りでまた足が止められた。


「……えっち」


 唇を尖らせ不貞腐れるように頬に空気が溜められている。

 瞳は滲み、いっぱしの女の顔だった。

 そして走りだすとあっという間に彼女の姿はなくなってしまったのだった。


「  な  え  さ  ま  」


「説明させて下さいお願いします」




〇  ◎  〇  ◎  〇

5章 人は誰しも秘密がある、しかもかなりエグめの Start

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