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未完世界のリライト ーシナリオクラッシュ・デイズー  作者: PRN
Chapter.5 人は誰しも秘密がある、しかもかなりエグめの

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104話 行方不明者たちの声 4《Quest:Despair》

挿絵(By みてみん)


常闇の深淵

木霊する


戦場の香り


影なるモノ

夜と死を運びしモノ


絶望と切望


葛藤

 幸運を紙一重で拾い上げた気分だった。

 聞こえてきた悲鳴じみた声こそが、行方不明者の生きている証明だったから。

 俺とトルパルメは肩をぶつけ合うように狭い空洞を疾走する。一縷(いちる)の望みを双眸(そうぼう)に宿しながら声の所在を追い詰める。


「爆音!? 魔法によるものか!?」


「がおっ! 人の気配と匂いが近い! 油断するなよ!」


 栓を抜くように2人で空洞の開けた場所に飛びだす。

 するとそこには身に鎧やローブをまとう冒険者たちが何者かと戦闘していた。


「下がれ下がれ! 絶対に近づくんじゃないぞ!」


「魔法だ! もっと強い炎の魔法で覆い尽くせ!」


 前衛であろう青年たちがしきりに後衛へ鼓舞を投げる。

 それを受けてローブを着た女性が杖を掲げた。


「《火炎(フレイム)》!」


 掲げられた杖先から踊るような炎が渦を巻く。

 炎は冒険者たちを縫ってソレを橙色に染めあげる。

 だが、ソレは足を止めるばかりでダメージを受けている様子はない。

 それどころか5秒ほど照射された火炎が途切れると、再び歩み始めてしまう。


「(なんだあの魔物……? いや、本当に魔物なのか……?)」


 敵は粘り着くような闇をまとっていた。

 というより初めて見たオレにとっては闇そのもののようさえ感じられた。


「――――――」


 歩むというより、音もなく這い寄るかのよう。

 ソレには、口や輪郭はなく、ただ闇に空いた2つの眼があるだけ。

 当たり前だが声を発する気管は視認できない。揺らめくように、這い寄るように、考えすらないように、冒険者たちを目指している。


「くっ――よくわかんねぇヤツだが止めるっきゃねぇなァ!」


「っ、待て!! やめろ!!」


 俺が刹那ほど思考を働かせていた。

 そのわずかな空白の間にトルパルメが膂力で飛来する。


 ぞくり。


 彼女を掴もうとする手が空を切った。

 直後にオレの前身には言い知れぬ悪寒が駆け巡る。

 それは勘か、経験か、直感か。

 否、冒険者たちが明らかに敵との接近戦闘を避けているという事実からなるもの。


「ソイツに近づくなあああああああああ!!!」


 俺は戦慄するほどに後悔をしていた。

 まずやるべきことだったのは、止める、じゃない。進ませないよう徹底すべきだったのだ。


「ラアアアアアアアアアアアアア!!!」


 トルパルメは空中で身体を捻りながら敵に拳を繰りだす。

 迅速で豪快で獰猛な痛打だった。通常の魔物ていどなら1撃で脳漿をぶちまけていただろう。

 だが、彼女の拳がソレに到達することで、一瞬。通常ではあり得ないことが起こったのだ。


「……あ?」


 トルパルメでさえ獣の瞳を剥きだしにした。

 攻撃が当たるという現実と、ほぼ同時。ソレが忽然と姿を消した。

 しかし俺は見ていた。絶望を携えた瞳でたしかに見た。


「(トルパルメの拳のなかに敵が吸いこまれた!?)」


 さながら掃除機でティッシュペーパーを吸いこむみたいだった。

 ソッ、と。彼女の拳の到達とともに身体のなか目掛けて、ソレは吸いこまれた。


「あ、あ、あああ……」


 ひとたびの静寂だった。

 魔物の存在は消失し、残るのは冒険者たち。それととり残された俺だけがいた。

 攻撃したトルパルメでさえ胡乱な瞳で佇んでいる。


 そしてやがてソレはやってくる。


「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ぁ”ぁ”ぁ~~~!?! あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ががががががががぎぎぎぎぎぎぃ”ぃ”ぃ”~~~!!?」


 音を聞いた直後に俺の本能が勝手に理解した。

 洞窟中に爆ぜるこれは悲鳴や咆吼という類いのものではない。

 トルパルメという命が発っしている。


「え”え”え”え”え”え”え”え”え”え”え”!!! があ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”お”お”お”お”お”お”お”お”お”?!?」


 まず涙腺から血が噴きだした。

 わずかに遅れて耳と鼻、それから口からも吐血がはじまる。

 瞳は充血しきっていまにも内側から破裂してしまいそうだった。悲鳴をあげる喉に混ぜられて泡だった血液が濁流の如く漏れでる。

 全身は頭から指の先までくまなく硬直しきって、棒のように引き締まっていた。足下には尿や血液が混合した液体がしどとに流れては広がっていく。


「なぜトルパルメ様がこの場所に!?」


「誰かいますぐドラカシア様をここにお呼びするんだ!! 間に合わなくなる前に急げェ!!」


 立ちすくんでいた冒険者たちがいっせいに動きはじめる。

 後衛の少女たちが慌ててローブの裾を翻した。


「(なんだなんだなんだなにが起こってる!? いまトルパルメのなかにさっきの影が入りこんでいるのか!?)」


 ダメだ。思考する材料も覚悟もまったく足りていない。

 ただ見ていることしかできずにいる。先ほどまで語らっていたはず女性を掴み損ねた体勢のままで。


「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ?!? ぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅぎぎぎぎぎあがががががが!?!」


 もはやソレは人の紡ぎだしていい音ではなかった。 

 いま洞窟内で騒乱を起こしているのは彼女の叫びのみ。真に鼓膜を引っ掻くような絶叫が無限と木霊する。

 すると唐突に地をノックするような高い靴音が、凄まじい速度で空洞へ踏みこんできた。


「トルパルメ!? まさかアレが彼女のなかに入りこんだのですか!?」


「急にトルパルメ様が現れて拳でヤツを攻撃したのです! そのときに侵入されたと見て間違いないでしょう!」


「つっ――まったく観察もせずに攻めるからこういうことになるのです! とにかく処置を急ぎます! 彼女を助けねばなりません!」


 ドラカシアと去っていたはずの少女たちだった。

 ドラカシアは悲鳴をあげるトルパルメを目撃した直後に浅く舌を打った。

 しかしそれは瞬く間もない。彼女は即座に手にした真鍮の錫杖の底で地を叩く。


「《聖なる光(ホーリーシャイン)っ!》」


 錫杖がしゃらんと鳴いた。

 直後に目も眩まんばかりの光が導きだされる。

 あまりに凄まじい光の濁流だった。俺でさえ世界を閉ざしてなお白い光に目を奪われる。


「洞窟の枠が消える!? モノクロの世界から黒のみが除外されていく!?」


「邪なる常闇よ! 我が同胞の身体から消え失せよ!」


 光に包まれる寸前には、すでにトルパルメの悲鳴がなくなっていた。

 俺は、ただ祈ることしかできない。この魂すら透かすほどの光が彼女の命を繋ぐことを。

 やがて万象さえ眩ませる霊輝(れいき)が引いていく。


「あ、あああ……」


 トルパルメの身体がぐらりと傾いて横たえた。

 なおも彼女の全身は引きつけを起こしながら痙攣している。


「トルパルメ!!」


 俺は虚を衝かれるように駆けだしていた。

 それに連なるようドラカシアと冒険者たちも駆け寄ってくる。

 ヒドい有り様だった。惨状といってもいいほどまでにトルパルメの全身が血まみれ。


「あ……あ……」


 瞳は裏返り、声さえかすれきっていた。

 冒険者たちは中途半端な距離で足を止める。視線には恐れと怯え、畏怖が籠められている。

 そのなかで率先するようにドラカシアは、倒れたトルパルメの頬に触れた。


「ッ!? なんてこと、まに、あわなかった!?」


 そのひと言で動揺が狼狽へと変わった。

 誰の目から見ても、無事ではない。

 そう、俺でさえも目を逸らしたくなるほどに。


「一瞬だぞ……! なんで、こんな……っ!」


 さっきまで隣で、生きていたのだ。

 なのに、あれほど麗しかったはずの顔も内側からひしゃげるように変形している。

 全身の骨はあらゆる関節が明後日の方向を向いて、爪はさながら赤いマニキュアだ。

 若き冒険者たちは、それぞれが目を伏し、現実から目を背こうとしていた。


「まだ――っ! まだ諦めてはなりません!」


 だが、食い縛るようにドラカシアは発した。

 彼女はおもむろに両膝を地面に落とす。と、錫杖をトルパルメの胸の前ににかざす。


「神よ! この惑いし彼女の身体にいまいちど魂をお戻し賜う!」


 燐光があふれる。

 先ほどの強烈な光とは違う。もっと優しく包みこむような光。


「《神命帰還ディヴァイン・リターナー》!」


 それは天使の羽で愛撫するかのような優しい光だった。

 術者の背後に後光が見えるほど。すべてを許し、解し、抱き、慰め、浄める。


「還ってきなさい!! アナタの魂はこんな魔境に朽ちていいものではないのです!!」


 ドラカシア・ルメルスの能力は、生命(ヒーラー)である。

 彼女もまた六冠の1人。なれど、その身は半分が龍の血で構成されていた。


「くっ、まだ! トルパルメの魂の声は聞こえない! まだこの身体のどこかに宿っているはず!」


 それでいて死霊術士という一面も兼ね備えている。

 ドラカシアの真の能力は、魂の声に耳を傾け、死を聴くこと。

 ゆえに彼女の治癒は世界随一とさえ謳われる。


「はぁ、はぁ、はぁ! いくら魂を繋ぎ止めようとも肉体があまりに破壊され尽くしています!」


「全員! 治癒魔法を使えるものはドラカシア様をサポートして!」


 ローブ姿の少女が他の術者に呼びかけた。

 しかしドラカシアは力なく首をゆるゆると横に振る。


「い、いま、蘇生と治癒の両方をかけています……! 魔法の流れが乱れるから……アナタたちはこないで……!」


 俺も知っている。

 治癒とは精神を紙やすりで削るような作業に等しい。しかもそれが超高位魔法ならばなおさら。

 すでにドラカシアの額には、吹きかけたような汗がびっしりと滲んでいた。

 

「もう数秒……! あと幾ばくかの猶予があったなら……!」


 六冠の彼女の手をもってしても死は否定できぬ。

 死は何者にも平等な終わりを与える。遅かれ早かれの差はあれど、すべての生命にとっていずれ訪れるもの。

 命を繋ぎ止める光が少しずつおさまっていく。そしてそれはドラカシアの諦めと、トルパルメという少女の終わりを意味していた。


「《スカーレット・デディケーション》!!」


 しかし俺だけは否定する。

 後の始末は後から考えればいい。

 いまはただ、先ほどまで生きていたこの命を救うことのみを考えろ。


「あ、あなたは!? このワタクシの回復力さえ上回りかねない魔法はいったいなんなのです!?」


「いいからつべこべ言わずに救うぞォ!! 1人でダメなら2人で引きずってでも叩き起こしてやる!! だってコイツは――さっきまで俺の前で笑っていたんだッ!!」


 白と赤。2つの光がトルパルメを照らした。

 迷うものか。躊躇うものか。逡巡(しゅんじゅん)するものか。

 いまここで彼女を死なせるわけには、否。



 決めかねるわけにはいかねぇんだよ。





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最後までご覧いただきありがとうございました!!!

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