09:終わらない大事件
「一体さっきのはなんだったのかしら…」
ジェシカさんはうんうんと唸りながら頻りに首を傾げていた。
今にも彼女の頭の上にクエスチョンマークが見えてきそうだ。
そりゃそうだ。普通は階段から落ちても、身体が地面にぶつかる前に跳ねるなんて奇天烈な動きはしない。
俺はしゃべることもできないし、そもそもしゃべること自体がアウトな存在だから言い訳もできずヒヤヒヤしながら、なるようになれと半ば自暴自棄になっていると、
「うん!ユリウスだし、神様に愛されてるのかもね!きっと幸運に恵まれているんだわ!さっすが私たちの子ね!」
ジェシカさんはユリウスくんの頭を撫でくり回す。
おおう…そういえば超がつくほどの親バカだった。
実際、魔法のある世界だったら神様の加護とかもあるのかもしれない。とりあえず納得してくれてよかった。
俺がホッとしてからしばらくして、ユージーンさんも帰ってきた。
「帰ったぞー!」
「あらあなた、おかえりなさい」
ジェシカさんがユージーンさんを迎えに玄関まで歩いていく。
ユージーンさんの手には狩ってきたであろう鳥が数羽握られている。
「あら?ダイヤモンドマンモスはいなかったの?」
「いや、遠目に見つけたんだが、よく考えたら間違いなく食べ切れないと思ってな。それに祝いのために狩ってくるのに、それを換金して金にするのもなにか違う気がしてな。代わりに黄金鳥を捕まえてきたよ」
「たしかにそうね。あのときははしゃぎすぎちゃってたわね、ごめんなさい」
「今日はユリウスが初めて喋った記念すべき日なんだ、謝るなよ」
「うふふ、ありがと」
ジェシカさんはそう言ってユージーンさんに抱きついた。
たしかにユージーンさんがかっこいい男であることに異論はない。しかし子どもの前でイチャイチャしないでほしい。
血だらけの鳥を持った旦那に抱きついている嫁の姿っていうのはちょっと面白いけど、ユージーンさんも困っているみたいだし早く解放してあげよう。
「じゃあ俺は風呂に入ってくるよ」
「はい、じゃあ私はご飯の支度をするわね。それと、さっきびっくりすることがあったから後で話してあげる!」
間違いなくさっきの階段での出来事の話だろう。
正直全く掘り返してほしい話ではないが、ジェシカさんのこの熱は冷めないだろう。
ユージーンさんが風呂場へ行こうとしたとき、ユリウスくんは彼におもむろに近づき、
「ぱーぱ」
と言いながら彼の足に抱きついた。
するとユージーンさんは一瞬固まり、静かに涙を流した。そしてーー
「うおおおおおおお!!!!よかったあああああ!!!俺、ちゃんとユリウスに父親って認められてたんだなぁぁぁ!!!!」
第一声がパパじゃなかったことに、なんだかんだ思うところはあったらしい。
よかったね、なんて俺は呑気に思っていたが、その後ユージーンさんが30分ほど大粒の涙を流し続けたため、さすがにげんなりした。体中の水分が無くなったのではなかろうか。
それにしても、このくだり長すぎるよ……。




