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邪道転生〜思ってた転生と違うんですけど!〜  作者: 玉将
第一章 異世界交流編
8/58

08:大事件は畳み掛けるもの

 







「まっま」


 切っ掛けはその一言で十分だった。

 その一言がこの場に投げられただけで、その場にいた者は何が起きたか理解できず空気が凍りついたかのように静まり、しかし脳が与えられた情報を処理し終えると、その場は2人の人物の歓声とともに熱気に包まれた。


「あばばばばばば!!!ジェ、ジェシカ!!!ユリウスがしゃべった!!!!!しゃべったぞ!!!」

「うそ……まだ生まれてから一年も経ってないのよ?それなのに……この子の輝かしい将来を考えると私は今から震えが止まらないわ…!!しかもママって!ママって!!」

「そんなことはどっちでもいい!祝いだ!!今日の夕飯は豪勢にしてくれ!!!」

「もちろんよ!あなたは今からダイヤモンドマンモスを狩ってきてちょうだい!今日のメイン料理にするわ!」

「任された!」


 そうしてユージーンさんは家を出て行き、それを見送ったジェシカさんも、近所の皆さんに報告しなくちゃ!と家を出て行った。


 いや、嬉しいのはわかるけど子どもを1人にするなよ……。親バカすぎるだろ…。近所の人もあのテンションで報告に来られたら反応に困るだろうに。


 2人の熱が凄すぎて、逆に俺は少し冷静になってしまった。


 しかし一言目が「パッパ」ではなく「マッマ」であっても、嫉妬することなく手放しに息子の成長を喜ぶあたり、ユージーンさんはやっぱり良い親父さんだな。


 彼らを見ていると昔を思い出して懐かしくなる。今も2人は元気にしているだろうか。俺は遠い世界にいる両親に想いを馳せながらしばらくしんみりした気分に浸った。



 ーーーーーー



 急遽本日の主役になったユリウスくんは、両親がどこかに行ったため手持ち無沙汰になっているようで、家の中をてちてちと歩いていた。


 そして今、彼は階段を登ろうとしている。

 本日大いなる一歩を踏み出したユリウスくんは、欲張りなことにもう一歩大いなる一歩を踏み出そうと思ったのか、いつものハイハイではなく、手すりにつかまって階段を登ろうとしている。

 しかも片手で。


 いや、これ普通に危なくない?

 ジェシカさんやユージーンさんがいるときなら大丈夫だけど、今はこの家にユリウスくん1人だ。


 俺が止めるかどうか迷っていると、案の定ユリウスくんはバランスを崩したーー


 が、なんとか上の段にしがみつき一命を取り留めた。


 よし、これに懲りたらハイハイで登ろうね、それか階段を登るのやめーーッ?!続行だと?!

 さっき階段を落ちそうになったばかりだと言うのに!!まだやめないのか?!

 それとも危険だと理解できてない?!


 –ユリウスくん!だめだ!危ないよ!パパとママが帰ってきてからにしようよ!–


 –ま〜–


 だめだ。

 この欲望の化身たる赤ちゃんは止まらない。身体で止めないと止まらない。己の欲望を満たすまで。

 今は階段の中程まで上っており、落ちたら十分危険な位置だと言える。


 俺が魔力の腕で止めることもできるが、急に動きを止めたら金縛りみたいな怖い思いをさせてしまうかもしれない。そう思うと、なかなか動き出せなかった。このときに止めておけばよかったと後で後悔するなんて思わずに。


 ユージーンさんかジェシカさん、どっちでもいいから早く帰ってきてくれーーー


 そんな願いが通じたのか、玄関のドアが開いた。


「ただいまー!ごめんね、1人にしちゃって。お母さん嬉しくってつい…!」


 ジェシカさんだ。

 よかったこれで一安心。と思ったのが運のツキだった。


 ユリウスくんは振り返って笑顔で母を迎えた。

 だけならよかったのだが、何を思ったのか母に向かっておかえりなさいのジャンプをかました。階段の上から。


 もちろん階段と玄関がそんなに近いはずもなく、ジェシカさんには届かない。

 それどころか階段の途中に不時着してしまうだろう。

 1歳にも満たない子どもが石造りの階段にダイブすれば、結果は見えている。ものすごく良くない結果が。



「【レーテーーー」



 ジェシカさんは驚愕に目を開き、咄嗟に魔法を発動しようとするも、間に合わない。



 俺にユリウスくんを助けないという選択肢はない。

 しかし、ジェシカさんがいるというのはまずい。

 俺がユリウスくんを助けることができる手段は魔力を使ったものだけだ。

 あまりにも不自然な光景にジェシカさんは疑いを持つかもしれない。

 ユリウスくんを不気味な子どもだと感じてしまうかもしれない。


 それでも、考えている暇もあまりないので俺は素早く魔力を広げて素早くユリウスくんを包み、それを球形にして階段の上を優しくバウンドさせる。


 最後に優しく着地させて一丁あがりだ。

 魔力の球を消して身体の無事を確認するとジェシカさんが駆け寄ってきた。


「ユリウス?!大丈夫?!」

「きゃっきゃっ」


 何が起きたか理解していないユリウスくんは楽しそうに笑っていた。


「よかった…ほんとによかった…」


 ジェシカさんは涙を流しながらユリウスくんを抱きしめた。


 これで一件落着。そう俺がホッとしていると、


「本当に無事で良かったけど、さっき奇妙な動きはなんだったのかしら…?」


 まあ、そうなりますよね……。



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