07:パンを作るように魔力をこねる
平凡な毎日が続く中、ユリウスくんはどんどん成長していった。
ハイハイに始まり、つかまり立ち、伝え歩きを経て、遂に生後10ヶ月のユリウスくんは自らの二本の足だけで立った。
俺はユリウスくんの目から、鏡に映った彼の姿を見て泣きそうになった。
涙がでないこの状態が歯がゆい。
かゆくなる歯もないけど。
ユリウスくんの悠々としたその立ち姿は地球最高峰と言われたエベレストを想起させる。
この威風堂々とした佇まいのユリウスくんはもう一生座ることはないんじゃないか?
10ヶ月でひとり立ちできるなんてすごすぎるよ。
普通の子どもが何歳で立つか知らんけど。
そんな下らないことを考えていたらユリウスくんはあっさり尻を落として座った。無念…
いやーしかし生まれたときから一緒に過ごした存在、かつ俺の寂しさを紛らわせてくれる最大の存在である彼が成長していくのがこれほど嬉しいと思わなかった。
親の気持ちを少し理解できた瞬間だった。
親と言えば、長い黒髪を後ろで結んだ大柄の男性が、父親のユージーンさん。肩口で切り揃えた真っ白な髪と真っ白な瞳を持つ女性はジェシカさんという。
彼らは猟師的な仕事をしているようで、いつもはユージーンさんが狩りに出かけるが、時たまジェシカさんと交代で彼女も狩りに出かけている。帰ってきたときのジェシカさんは獲物を担ぎながら心なしかツヤツヤしていた。
お淑やかな人かと思っていたけど、違う一面もあるようだ。
さて、ここで問題なのは彼らが見ていないところでユリウスくんが立ってしまったことだ。
彼の偉業の第一発見者になってしまってなんだか申し訳ない。こればっかりは俺にもどうしようもないんだけど。
彼らのユリウスくんへの愛情はすさまじく、ユリウスくんが何かするたびにデレデレして褒め散らかしている。
ユージーンさんは高い高いしてユリウスくんを喜ばせ、ジェシカさんは魔法で作った人形で人形劇をしてはユリウスくんを喜ばせている。
俺は望んでいた魔法行使の瞬間を予想外の形で迎えたことに驚きつつも、魔法について考えていた。
どうやら、魔法を発動するときには【レーテル】と唱える必要があるらしい。
魔法の発動には流れがあって、まず魂で魔力を増幅させる。その後、【レーテル】と唱えると魔力が変質し、魔法という形になる。
俺にはなぜかこの流れが見える。
これ、ユリウスくんの体外で魔力の訓練しているのバレてるんじゃないか?とも思ったが、ハイハイで狂喜乱舞していたこの人達がユリウスくんが魔力を扱っていると知っていればスルーするはずがない。
だからたぶんバレてないはずだ。たぶん。
おそらくこの特殊な状態の俺だからこそ魂の一部である魔力の流れが見えるんだろう。そう無理矢理納得した。
この状態で【レーテル】と唱えても魔法を発動できるかどうか気になったが、実験する前にやめた。どうなるかわからないし、仮に上手くいったとしてもいきなり魔法が発動すればさすがに不自然に思われるからだ。
結局俺は今のところ魔法の発動は控えて、魔法の元である魔力操作の訓練を再開した。今日の訓練は魔力をこねてこねてこね続ける感じの訓練にしようかな。
早く魔法使ってみたいぞーーー!!!




