56:お会計を先に済ませるタイミングを掴むのは難しい
「あの人を仲間に、ですか……」
メアリーちゃんがポツリと呟く。
まあ、レナードがなんで俺達にあんなに突っかかってきたのか、まだ話してないからな。
この反応は予想通りだ。
[僕達が寝てる間に何かあったんだよね?]
さすがユリウス。伊達に俺と長い付き合いをしてるわけじゃない。言わなくても俺の考えをわかってくれる。これぞ以心伝心。
「理由は今から話すよ。決めるのはそれからでいいよ」
正直、レナードの過去というかプライバシーというか、それを2人に話すかどうか迷った。口止めはされてないけど、あまり言いふらしていいとは思わない。
けど、これを話さないと2人は絶対レナードを仲間にすることに賛成しない。仮にしたとしても、心の何処かに不信感は残るはずだ。
ということで、俺は2人にレナードの過去を話した。すまんレナード!
ーーーーーー
[裏切り……]
「あの人にもそんなことが……」
どうだろう。レナードの心証は良くなっただろうか。
2人は、レナードが料理屋の息子だったことにも笑ったりしなかった。ま、俺の心が汚れてただけなのかも。自分が恥ずかしい。
「決めるのは実際レナードと話してからでもいいよ。ま、そもそもレナードにもこの話はしてないけど」
[そうだね。一回ちゃんと話してみたいな。アキトが言うから大丈夫だとは思うけど]
「はい。話を聞いてもまるで信じられないというか……やっぱり一度お話してみたいです」
仲間って言えば、それこそ一連托生の存在だ。2人が慎重になるのも頷ける。俺達が本気で塔の攻略を目指しているから尚更だ。
「それで、あの人は今どちらに?」
問題はそれだ。どこに住んでいるのか別れ際に聞いたけど、レナードは一箇所に留まらないらしい。さすらいの一匹狼だ。
「うーん、それなら、なかなか会うのは難しそうですね」
「なんとかなるだろ。詳しくは聞いてないけど、しょっちゅう塔に入ってるみたいだし」
[アキトってたまに、すごく適当になるところあるよね]
まあ、それは否めない。なるようにしかならないものは、なるようにしかならないからな。ユリウス達がいつ目を覚ますかわからなかった以上、俺達の都合でここにいてもらうことはできなかったし。
ひとまず会話も終わったところでメアリーちゃんに回復魔法をかけてもらった。
《回復系魔術師》は数が少ない上に魔力消費も多い。だから治療院で怪我人は最低限の治療しかしてもらえない。もちろんお値段も高くなっております。命と比べれば安いものだけど。
とりあえず、これで心身ともに完全回復。けど、念のために二、三時間は休むことにした。
動くのはそれからだ。
ーーーーーー
ユリウスに身体を返し、そして三時間後ーー
「お会計はすでに、それも多めに頂いておりますので」
「え?」
どういうことか、考えるまでもない。
[レナードだ……]
どうしよう。俺の中で仲間ポイントがぐんぐん上がってる。これは、モテる男がやるやつだ……!
治療院を出て、目的の場所に向かう。
「命を救ってもらって、そのうえ治療院のお代まで払ってもらって。むしろ裏が無いほうが怖いぐらいですね」
「アキトも言ってたし、きっといいやつなんだよ。仲間だと思ってた人達に裏切られて、ちょっと曲がってしまったのかもしれないけど」
「魔法袋や武器もちゃんと置いていってくれて、ほんと至れり尽くせりです」
そんなことを話しながら目的地に到着。祈人組合だ。
魔石の売却やドロップアイテムの鑑定など、することは山ほどある。
「こんにちは。本日はどうーーあ!先日登録に来てくださったお方!無事に帰られたんですね!」
迎えてくれたのは登録の際に受付をしてくれた人だった。控えめに言えばロリ巨乳さんだ。
「ははは、色々あったんですけどね……。とりあえず、帰還の報告と魔石の売却に来ました。あと、ドロップアイテムも見てほしいんですけど」
「かしこまりました。お預かり致します。でも良かったぁ。お若い方がお二人で塔に入られることは多いんですけど、無事に戻ってこられることが少なくていつもヒヤヒヤしてるんです」
「そうですか。たしかに、普通の生活をしていたら同世代の人達には厳しいでしょうね。第九階層の『竜』の巣窟なんかはとくに」
レナードという重力魔法持ちの例外を除けば、あの階層の『竜』の群れを相手にするのはかなり骨が折れる。必死こいて小さい頃から修行していた俺達だからこそ、この年齢で突破できるんじゃないだろうか。
そう思っていたがーー
「いえいえ、まさか『竜』の群れを相手に真正面からやり合う人なんていませんよ」
「え?」
「《生成系》の方がいれば、ゴーレムを使って上階層に続く階段を比較的安全に探せますよね?ですからそもそも大群と戦闘になることは少ないんですよ。むしろその後の《階王》のほうが危険ですね」
「なにそれ……」
「初耳です……」
「まあ、若い方達は第九階層に到達する前に命を落としてしまうことが多いんですけど……って、知らなかったんですか?」
し、知らなかった……。
俺達3人で攻略するつもりだったから、《生成系》を使った効率的な攻略法なんてものは知らない。これは寝耳に水だった。
「は、はい。てっきり正々堂々と攻略しないといけないものかと……」
「《生成系》のゴーレム正々堂々とした攻略ですよ。それもその人達の実力なんですから」
まあ、たしかにそうなのかもしれない。けど、めっちゃ楽やんけ!道理で一桁の階層のくせに難易度超高いわけだよ!
「それで、ユリウスさん達は今回何階層まで行かれたんですか?」
「あ、はい。第十一階層です」
「……ユリウスさん。嘘はいけませんよ。さっきまでの様子だと第九階層の攻略法もご存知ではなかった。《階王》はさすがに倒せないでしょう」
まあ、そうか。どうやら俺達は真正面から攻略することで逆に回り道をしていたらしい。そんな情報すら持たない、この街に来てすぐの少年少女が見栄を張ってると思うのが自然なのかもしれない。
「本当ですよ。証拠にほら、《階王》のドロップアイテムです」
正直者のユリウスは全く怯むことなくドロップアイテムである角笛を取り出した。これが一番の証明だしな。
それにしてもこの角笛、ろくに効果もわからなかったし、挙げ句の果てにあの激ヤバ魔物に遭遇するし、本当に捨ててしまいたいぐらいだ。勿体無いから捨てはしないけど。
「こっ、これはッーー!!」
角笛に対してヤケクソ気味な俺の胸中に反して、受付嬢さんの態度は先程とは打って変わったものだった。
「しょ、少々お待ちください!!」
受付嬢さんはそれをまるでとても高価なものを扱うかのように裏まで運んでいった。
俺からすれば半分呪いのアイテムだが、仮にも《階王》のドロップアイテム。何かの役には立ってほしいところだ。
そして、その能力がついに明かされるーー!




