49:口づけ
思っていたより弱かった『牛頭巨人』を無事に倒し地上に降りると、そこにはいつのもように魔石が落ちていた。だが……
ス、《紋様》の魔石より小さい……!!魔石の大きさと魔物の強さはイコールじゃないけど、《階王》と呼ばれる魔物がそれでいいのか……。
[ーーッ!アキト!]
すると、ユリウスが呼びかけてきた。もちろん魔物が強襲を仕掛けてきたわけじゃない。そのぐらいは今の俺もわかるようになっている。じゃあ一体何がーー
「あ!」
これだ。ユリウスはいち早く気づいたんだ。
地面にポツンと転がり落ちている角。これは、これは……!!
「ドロップアイテムだ!!」
きた。キタ。キターーーーーー!!!!
ついにやってきましたドロップアイテム!それも《階王》のドロップアイテム!!これはひょっとすると超強力アイテムなんじゃないの?!仮にも《階王》!思ったより強くなかったけど、されど《階王》!期待しないわけにはいかないだろ!!
早速その角を拾い、360度全方向から舐めるように見る。
それは角の形をした笛だった。角笛ってやつだ。吹けば『牛頭巨人』の衝撃波が出たりするんだろうか。胸の高鳴りが止まらないぜ!
[ユリウスさん!ナイス発見ですよ!]
[いえいえいえ!みんなの頑張りがあってこそのものですよアキトさん!《階王》のドロップアイテムなんてすごいよ!きっとすごい価値があるよ!]
二人で大喜びだ。今まで全く出なかったドロップアイテムがまさか《階王》で出てくるなんて……!
「おめでとうございます!すごいじゃないですか!」
「ありがとう!今日の頑張りが報われた気がするよ!」
本当に。別にドロップアイテムを狙うために塔に来ているわけじゃない。しかしラッキーアイテムがゲットできるとできないじゃ気分が全然違うんだ。
「これ、使ってみていい?角笛だし、たぶん吹いて使うやつだろうし!衝撃波とか出るかもしれないからさ!一応空に向かって吹いてみるからさ!」
「ふふ。アキトくんったら本当に嬉しいんですね。ぜひ吹いてみてください」
俺がトドメを刺したわけだけど、これはみんなで倒した魔物だしみんなのドロップアイテムだ。俺一人が独占していいものじゃない。けど!それはそれ!ドロップアイテムはドロップアイテム!嬉しいものは嬉しいんだ!
「では!いきます!」
深く息を吸って肺に空気を入れる。そして、天に向かって思いきり角笛を吹いた。しかし……
ブモォ〜〜〜〜〜
なんとも間抜けな音が響き渡り、なんとも気まずい空気が場を支配した。
「ご、ごめんごめん。俺、笛とか使ったことないからさ。ちゃんと吹けなかったのかも……」
「そ、そうですね!もう一度お願いします!」
取り繕うように笑うメアリーちゃんを見て、泣きたくなった。次こそは失敗しないように。なにが成功かはわからないけど、あれが成功なんてことはないはずだ。
息を整えて、再挑戦。
だが……
ブモォ〜〜〜〜〜
「……」
「……」
[……]
いたたまれない。さっきまで大喜びしてた自分をぶん殴りたい。みんなからの哀れみの視線が辛すぎる。もう帰りたい……。
「あっ!い、一度私がやってみますね!もしかしたらきれいにできるかも!」
「そ、そうだな!頼む!俺の無念を晴らしてくれ!」
メアリーちゃんが角笛に口を付け、息を吸い込む。
あ、あれって、か、かっ、間接キしゅっ……!!なんて考える心の余裕は俺にはなかった。頼む……!成功してくれ!《階王》から出たドロップアイテムがゴミなんて、悲しすぎる……!《階王》がそんなに強くなかったから尚更不安になるんだ!
そして、メアリーちゃんが奏でた音はーー
ブモォ〜〜〜〜〜
「……」
「……」
[……]
地獄。ここが地獄じゃなかったら他に地獄はない。誰も悪くない。だからこそ、俺達はこの胸の悲しみと虚しさを発散することができなかった。
「よし。今日の目標はここまでだったけど、どうする?」
[さ、さっきまでのことをなかったことにしてる……!]
ユリウス。そういうときは黙ってスルーしてやるもんだぜ。それが優しさってやつだ。
「え、えっと、《階王》がそんなに強くありませんでしたし、《魔力回復薬》もまだたくさん残ってますから次に進んでも問題ないと思います!」
メアリーちゃんは優しいんだね。涙が出そうだよ。
「第十五階層には転移魔法陣もあるし、いけるとこまでいってみようか」
[ユリウスもそれでいいか?]
[うん!まだまだ余裕だよ]
「じゃあみんな同じ意見ってことで、次の階層に進もうか!」
忌々しい角笛も腐ってもドロップアイテム。魔法袋にしまってからユリウスと入れ替わった。
ここからまた領域が変わる。第2ステージだ。だが、俺達ならきっと協力してやっていける。そう信じて、階段を登っていった。未だ遠い最上階にたどりつくために。
次の階層に待ち受ける惨劇の元へと、足を運んでしまったんだ。




