48:本当は強い
お、思ったよりサックリと剣が入ってしまった……。いや、嬉しい誤算なんだけどさ、なんかこう拍子抜けというかなんというか……。いかんいかん。油断大敵、戦いはまだ始まったばかりだ。慎重にいこう。
[ユリウス!複合魔法を1発頼む!敵の出方を知りたい!]
[わかった!【神秘】紅蓮の雨]
ユリウスが全快の状態から撃てる複合魔法は最大四発。だが、相手の実力を知るためにもこの手札をここで切ることには十分意味がある。
そして俺は《比翼・黒式》の二本を打ちつけて音を立てた。
ユリウスが広範囲に及ぶ魔法を発動するとき、その範囲内にメアリーちゃんがいる場合にはこれを合図にしている。口に出すより早いからな。
「ユリウスくん!もう仕留めちゃってください!この魔物あんまり強くないですよ!」
メアリーちゃんめっちゃ油断してるぅぅぅぅぅ!!!!たしかに予想してたよりあれだったけど!!俺達がハードル上げすぎただけだから!!たぶん『牛頭巨人』も普通に強いから!!油断しないで!!
心の中でそう叫んでいるうちにユリウスの魔法は完成した。
再び斧を振り上げた『牛頭巨人』の右腕にぽつりーー。空から赤い一滴の雫が落ちた。その巨体に比べればそれはあまりにも小さい一滴かもしれない。まるで豆粒が落ちたように見える。だがーー
「ブモオオオオオオオオオ!!!!」
再び『牛頭巨人』の絶叫が響き渡る。
だが、雨はまだ止まない。一滴、また一滴と『牛頭巨人』に降り注いだ。その圧倒的な物量を避ける術を、巨人は持ってはいないようだった。
「あれ……ほんとにいけそうだぞこれ」
[だね。正直『竜』よりも魔法耐性を持ってると思ってた。けど、バンバン食らってるね]
ジュウジュウと雨は音を立てる。
『紅蓮の雨』。それは土と炎の複合魔法だ。超高温の土塊ーー早い話、マグマが雨のように広範囲に降り注ぐ。大森林では使っちゃいけない魔法TOP3に入る魔法だ。塔は問題ない。どうせすぐに再生するし。
そして『牛頭巨人』はその雨を一身に受け、徐々に身体を失っていった。その姿は昔見た映画に似ていた。ショ○シャンクだ。
ってダメだ。全然関係ないことを考えてしまっている。戦いに集中しなければ。……でも、やっぱり思ってたより感が否めない。
「メアリーちゃん!」
「はい!」
少し離れた場所にいる彼女に呼びかける。そして、自分にも言い聞かせるように叫んだ。
「ゆ、油断しないように!!」
と、そのときちょうど『紅蓮の雨』は降り止み、皮膚は焼け爛れ所々身体に穴が開いた様子のーー満身創痍の『牛頭巨人』がいた。
「アキトくん!」
同時にメアリーちゃんがこちらにやってきた。
「油断は禁物ですよね……!」
顔は至って真剣。だが、どこかその声は気が抜けていた。……仕方ないか。
『ブモォ!!』
『牛頭巨人』の咆哮が炸裂した。今回の咆哮はいつものとは違った。
『牛頭巨人』の能力『衝撃波』だ。その咆哮は殺意を持って俺達を襲う。しかし、知っていれば余裕で避けることができる。
「当たらない……けど、凄い威力だな……」
地面を見ると、大きくひび割れていた。満身創痍かと思いきやまだ戦えるようだ。
「二人とも!トドメを刺すぞ!まだ動けるみたいだけど、俺達ならいける!」
「はい!」
[じゃあ僕から!]
相手に傷を負っている以上、わざわざ時間をかけてやるつもりはない。
[【神秘】雷霆の鉄槌]
極太の雷が『牛頭巨人』に直撃した。プスプスと身体から煙を出し、動かない。素直に痺れてくれたようだ。
その隙にメアリーちゃんが『牛頭巨人』の巨軀の上を駆け上がる。
「はああああああああ!『千弁万花』!!」
斧を持った右腕に繰り出す連撃。三太刀目でようやくその太い腕を斬り落とした。巨大は斧が地に沈む。
これで怖いのは『衝撃波』を放つ口だけだ。
そして俺は『牛頭巨人』の背後、人間ならちょうどうなじにあたる場所を飛んでいた。
「これで終わりだ!『迅雷風烈』!」
二刀をもって牛頭の極太の首に連撃を叩き込む。
最初の一撃を入れたときよりもさらに斬れた。いける!ユリウスの『紅蓮の雨』で格段に脆くなってる!
「ブモオオオオオオオオオ!!!」
五発叩き込んだところで牛の最期の叫びを聞き届け、森林の領域の『階王』ーー『牛頭巨人』は煙に変わった。
ほ、ほんとに呆気無く終わった……!
ミノタイタンは対集団戦に強い魔物なので本当は強いです。ある裏技っぽい方法でやってきた祈人を殲滅するために用意された番人なので、アキト達のように第十階層まで正面突破できる人達にはボコボコにいかれます。




