43:物量作戦
第七階層で『深緑竜』を討伐した後、無事に第八階層を超え、現在俺達は第九階層に到達した。
第七階層では一匹の『深緑竜』を討伐。第八階層でも何匹か『深緑竜』を討伐した。その数は増えていたが、上位階層であることを考えても、まあ常識の範囲内だった。
だがしかし、今、俺達は空を見上げて唖然としていた。
「事前に調べた情報通りだけど、実際に目にするとこれは……」
「一体この階層に何匹いるんでしょうか……数えている暇も、数える気も起きませんね……」
空は、『竜』で埋め尽くされていた。
第九階層。この階層には『竜』がーー『竜』だけが生息する。
全長10メルターの怪物が空一面に飛び交っている。その光景は絶望とまでは言わないが、ある種の理不尽さを感じさせた。
まだ一桁の階層だよ?なのに『竜』のバーゲンセールやるには早すぎない?
まあ、やることは一つだけど……。
「とりあえず『竜』から隠れながら階段を探そう。見つかったらすぐに戦闘態勢に。ピンチになったらすぐに転移魔法陣に乗って帰還するつもりで動くよ」
「わかりました」
やることは逃げの一択だ。バトル漫画なんかじゃあここで『竜』の群れに突っ込むところだけど、これは現実だ。自らリスクを背負う必要はない。
「【神秘】疾風の鎧」
メアリーちゃんは風の鎧を纏い、愛剣《『紅花》を抜き出した。戦闘準備は万全にしておくに越したことはない。
俺も魔腕で《比翼・黒色》を構えておく。『雷光』はバチバチうるさいからね。潜伏には向かないんだ。周りから見たらフヨフヨと剣が浮いている姿になるが、気にしてもしょうがない。魔剣と言い張ればなんとかなると思うし。
「それじゃ行こうか」
できる限り足音を消して、森の中を進んだ。
ーーーーーー
あれから30分ほど、まだ階段は見つからない。
塔に入ってからそろそろ半日が過ぎた頃だろうか。塔内部にも昼の空と夜の空は存在する。だから時間感覚が狂うことはない。
第五階層ぐらいまではクソザコしか出てこなかったからスムーズに移動できたけど、ここにくると1階層ごとにかかる時間も増えてきた。頭数的には2人という少人数で挑む俺達としては、できるだけ体力を温存していきたいところだ。
「なかなか見つからないね」
「本当に地図がほしくなってきました。こんな階層なら特に」
100を超える『竜』の視線から逃れながら、階段を探す。なお、その階段は一定範囲に入らなければ不可視!
改めて考えるとひどいルールだ。
これ、俺達と同年代の人間が挑戦しても塔制覇は不可能じゃないだろうか。散々特訓してきた俺達でも避ける魔物がうじゃうじゃいるなんて、太刀打ちできないだろう。あ、レナードは別だ。どんな育ち方してきたのか、あいつは強かったし。
「あ、あれは……」
「どうしまし……あ……」
ユリウスが指す先には1匹の『深緑竜』がいた。
が、そいつにはある特徴があった。
全身に刻み込まれたように浮かび上がる紋様と、周りと比べて一際大きいその身体。
その名はーー
「《紋様》……!」
「あれが……!他の『竜とはまるで違いますね」
「うん。さすがにあれと戦って無傷ってわけにはいかないだろうから、できるだけここから離れよう」
《紋様》は塔にのみ生息する魔物の変異種だ。大森林には現れない。
一目でわかる特徴としては、身体に浮かび上がる紋様と、通常種と比べると倍はあるその巨躯だ。
もちろん、その強さも段違いだ。そのせいで《紋様》は強化種と呼ばれることもあるとかなんとか。
それにしても初遭遇がまさか『深緑竜』の《紋様》になるとは思わなかった……。ゴブリンレベルの魔物で来てほしかったところだ。あれなら強化されていてもどんぐりの背比べだからね。
レナードといい《紋様》といい、ロクなやつに遭遇しないな。なんだかツイてない気がする……。
と、一先ず《紋様》から距離をとろうと動いたときだった。
1匹の『木竜』と目が合った。合ってしまった。
「ギュアアアア!!!!」
「しまった!」
一度『竜』に見つかれば、周囲を飛び回っていた『竜』も芋づる式にこちらに向かってきた。
[アキト!替わるよ!]
[任された!]
塔を登るにあたって事前に決めていた作戦、ピンチになったら俺が物理で、ユリウスが高速移動式砲台に。その後は臨機応変に。
「チェンジ!」
−【神秘】風雷坊!−
迫り来る『竜』の大群を前に、俺も魔法を唱えた。
風と雷の鎧が身体を包む。《紋様》も近くにいる以上、出し惜しみしている暇はない。初めから全力でいく。
「いきます!」
メアリーちゃんは一足早く『竜』の群れに突撃した。俺もそれを追って空へと駆け上がる。
ガキィン!とメアリーちゃんの剣と『木竜』の爪が交錯し、ボスを目前にした最後の戦いの火蓋が切って落とされたのだった。




