42:ドラゴンスレイヤー
『竜』。それは大森林の最奥に生息する魔物である。その肉は筆舌に尽くしがたいほど美味だ。また、鱗や牙、爪、目玉に至るまで武器や魔導具に加工することができる。そのため、その素材の買取価格は恐ろしく高額だ。
しかし、どの世界でも『竜』は恐ろしく強い。『竜』で一山当てようとして命を失った狩人は数え切れない。
その鱗は『血熊』の毛皮より魔法耐性が高く、その牙は『金剛毛象』の鎧を軽々と噛み砕く。
生息数が少ないから滅多に遭遇することはないが、遭遇すれば絶望する者と狂喜乱舞する者の二手に分かれる。生を諦めた者と、『竜』が宝の山に見えている者だ。
そんな魔物が俺達の頭上を飛んでいた。
深緑色の鱗ーー『深緑竜』か……。
「こっちには気づいてないみたいだね」
「はい。できれば戦うことなくこの階層を抜けたいですね」
ちなみに、さっきので言えば俺達は後者だ。『竜』が宝の山に見える。大森林でも何度も倒した。が、しかし。ここはまだ第七階層だ。まだまだ先は長い。
あいにく、『深緑竜』を楽にぶっ飛ばせるような力は俺達にはない。
宝の山に見えるが、それは死ぬ危険がないだけで、楽に勝てるというわけではないのだ。
できるだけ力を温存しておくに越したことはない。ただでさえレナードに無駄に力を使ってしまったしな。
幸い『竜』はまだこちらに気づいていないようで、俺達は無事に事を構えずに済んだ。『竜』も死なずに済んでwin-winだ。
「ふぅ、よかった。なんだかんだ絶対戦うことになると思ったよ」
「ですね。まあ、どうとでもなりますけど『竜』ってすごく硬いから面倒なんですよね」
「僕の魔法に至ってはほとんど無効化されるからなあ。ほんと、《放出系》の天敵だよ」
そんなことを話しながら、森の中を歩き続ける。時々現れる魔物を斬り伏せ、階段を探す。あと93回はこれを繰り返さないといけないのかと思うと、なかなか気が遠くなる作業だ。
『単眼巨人』に至ってはもう何匹倒しただろうか。ワンパンで殺れる魔物第1位の座を授けてあげよう。
や、まあゴブリンとかよりは強いけどね。あそこまで弱いのは例外ってことで。
と、1人でくだらないことを考えているとーー
「メアリーッ!」
「はいっ!」
2人はその場を飛び退いた。
立っていた場所には木なんて生えていなかったというのに、まるで生き物のように地面から伸びて獲物を捕らえようと蠢いていた。
「はあ、結局か……」
「仕方ないですよ。ここまできたら逃げられません」
2人の視線の先、森の奥から『深緑竜』が姿を現した。
ーーーーーー
『深緑竜』はその見た目の色通り、植物系の能力を使う。簡単に言えば、草木を自在に操り獲物を捕らえてドン!だ。初めて出会ったときは父さん達と一緒だったけど、めちゃくちゃビビったね。
10メルターはあるその巨軀は、その大きさ以上の威圧感を放っていた。
「【神秘】巨岩の大筒」
ユリウスが開戦の一撃を放つ。
巨大な大岩が豪速で『深緑竜』に命中した。
「【神秘】疾風の鎧!」
それと同時にメアリーちゃんは魔法袋から大剣《紅花》を抜き出し、追撃を仕掛ける。
「『千弁万花』」
『深緑竜』の首を中心に斬りつける。が、やはり頑丈な鱗に阻まれ決定打に欠ける。
−【神秘】雷光!−
俺も魔法を発動し、ユリウスとメアリーちゃんで斬りかかる。
「グオオオオ!!!!」
『深緑竜』が地面に足を叩きつけると、地面から木が生き物のように伸びて俺達を襲ってくる。いつものやつだ。
それを避けながら、ユリウスは魔法を使って相手の気を逸らしながら、メアリーちゃんとひたすら斬り続ける。
「ユリウスくん!見つけました!左首の側面の中央部です!」
「了解!」
『竜』には共通する弱点がある。総じて頑丈な鱗だが、一部に若干脆い箇所が存在するんだ。通常、『竜』を相手にするには相手の攻撃を躱しつつ、その部位を探さなければならない。しかもその部位もほんの少し脆いだけなのでひたすら斬り続けなければならない。持久戦になること必至だ。
今回はメアリーちゃんが早めに見つけてくれたことだし、後はそこを叩くだけの作業だ。
ーーーーーー
「グァァァ……」
数分後、危なげなく『竜』の首は落ちた。
「やっぱり『竜』ともなると魔石も大きいね」
「『血熊の二倍の大きさはありますね。これ、いくらぐらいするんでしょうか」
「さあ、どうだろう。組合の受付嬢さんも低階層で取れるような魔石の値段しか教えてくれなかったからね」
しっかりと魔石を魔法袋にしまってから、俺達はまた歩き始めた。今までは大森林で戦ったことのある魔物ばかりだし、早くボスと戦いたいものだ。




