38:話し相手は選ぶべき
「ハーハハハ!でかい雷が落ちたと思ったが、オイラの獲物に手を出した馬鹿はいねえな?」
犬のような獣耳と尻尾、そして銀色の髪を揺らしながら、象のゴーレムに乗った男はそう言った。
年齢は俺達と同じぐらいだろうか。喋り方と言い、頭が悪そうなやつだった。
「あ、あのー……実は第四階層から上がってきたらここに出てしまって、そのときにはすでに大量の魔物に囲まれてしまっていて、それで……」
「あぁ?…って!てめえらまさか全部やっちまったのか?!」
「え?あ、はい。襲いかかってきましたし……」
男はユリウスの返答に一瞬呆けた顔をしたが、すぐさまその顔に怒りを浮かべた。
「あれはオイラの獲物だぞ!オイラがゴーレムでここまで追い込んだんだ!!それをてめえら……!よくも!!」
どうやら相当お怒りのようだ。
いや、向こうも悪気はないとはいえ、こっちにも非はないだろ。言いがかりにもほどがある。
「それは謝罪します。ここで倒した魔物の魔石は譲りますから水に流してもらえませんか?」
ユリウスは大人の対応でいくようだ。謝る必要はないと思うけどな……。まあ、変な諍いが起こるよりマシか。
「ちょっとユリウスくん!そんなことする必要ないですよ!」
メアリーちゃんは俺と同意見のようで、小声でユリウスに異議を申し立てた。
そして、そんな2人を前に男は笑った。
「ハーハハハ!今は魔石なんてどうでもいいんだよ!てめえらがオイラの獲物を横取りしたってのが問題なんだ!狼は一度狙った獲物は逃がさねえんだ!オイラに流れる狼の血がてめえらを許さねえぜ!」
犬じゃなく狼の獣人だったのか。まあ、今はそんなことは置いといて。
「お、落ち着いてください!話せばわかりあえます!」
「もういいでしょうユリウスくん!逃げちゃいましょう!」
「逃がすわけねえだろ!やれ!『炎虎』!!」
男がゴーレムに指示を出すと炎の虎が襲いかかってきた。
おいおい、話が通じるとかの次元じゃないだろこいつ!頭に脳みそ入ってるのか?!
[【神秘】雷光!]
[っ!助かるよ!]
俺はとっさに魔法を発動すると、ユリウスも即座に剣を抜きゴーレムを迎え撃った。
ゴーレムの爪を剣で逸らし、返す刀で蹴りを入れて吹き飛ばす。
「ハーハハハ!《強化系》か!なかなかやるじゃねえか!」
「ごめん、話の通じる相手じゃなかった」
「もうっ!だから逃げようって言ったじゃないですか!!」
「ハーハハハ!オイラから逃げられると思うなよ?オイラのゴーレムは虫1匹逃がさねえ!!」
たしかにゴーレムは厄介だ。
ゴーレムを何体も生成してばら撒けばそれぞれが使役者の目になる。
4つの基礎の魔法適性の中でも、索敵能力は《生成系》が図抜けているのだ。
「オイラの名はレナード・リーフレッド!誇り高き狼人族の末裔だ!」
聞いてもいないのに男ーーレナードは名乗りを上げた。
「あ、そうなんだ」
「おう!近所に住んでた奴等にはレナードって呼ばれてたからよ。気軽に呼んでくれや」
「うん。わかったよレナード」
はい仲直り。やっぱりコミュニケーションは拳ではなく自己紹介から始めるべきだよね。めでたしめでたし。
ちなみにユリウスが敬語をやめるのは仲良くなったときか、相手に尊敬できる点が確実にゼロだと判断したときだ!この場合はどちらか?愚問である!
「って違うだろうが!そこはてめえも名乗り返すところだろうが!おちょくってんのかコラァ!」
ですよね。めでたしめでたしなわけないですよね。
しかしこいつ、ノリツッコミとかするのか。忙しいやつだな…。
超暴力的だしノリツッコミもするし、純粋にこいつがどんな人生を歩んできたのか気になってきたよ。
「僕はユリウス・クローバー。それより、まだやるつもり?」
「当たり前だ!俺を舐めたやつはタダじゃおかねえ!」
「そう。なら、始めようか。メアリーは下がってて」
「で、でも!」
「大丈夫。それにああいう人は一対一じゃないと負けを認めないから」
「うぅ……わかりました」
そしてユリウスは《白式》を構える。
まあ、実質二対一だけどな。俺もいるし。
「ハーハハハ!いいぜいいぜ!とことんやりあおうじゃねえか!ほんじゃ、【神秘】『炎虎』!『水亀』!『雷鳥』!やっちまえ!」
レナードの周囲の空間から三体のゴーレムが生まれる。
それらは三方向からユリウスに突撃してきた。
「ぐっ……!【神秘】風の大太刀!」
ユリウスは襲いかかるゴーレムを剣でいなし、時に魔法で反撃に出ていた。
しかしーー
「まだまだいくぞぉ!どこまで耐えられるだろうなあ!ハーハハハ!」
レナードは次々にゴーレムを生み出し、その数はユリウスがどれだけ破壊しても減ることがなかった。
このままでは、まずい。
[ユリウス!代わってくれ!ゴーレムは俺が対処するから、ユリウスはレナードを直接狙ってくれ!]
[ーーッ!わかった!]
「チェンジ!」
ここからは俺の番だ!
《比翼・白式》を収め、背の《黒式》を抜く。そしてーー
「オラオラオラオラオラッ!!!」
強化した身体で時には蹴りを入れて吹き飛ばし、時には剣で滅多斬りに。
「あ、アキトくんです!がんばってくださーい!」
「なっ?!動きが変わりやがった!剣を替えただけで……どうなってやがる?!」
ユリウスは遠距離魔法を使いつつの近接戦闘だからな。俺みたいに近接戦闘一本の男より動きも鈍るわけだ。
それに、俺が表に出たほうが《強化系魔法》の効果は上がるんだ。
「おーい!レナード!上に気をつけたほうがいいぞー!」
「上?…………は?」
教えてやったものの、もう避けることはできまい。
レナードの頭上には特大の火の玉が浮かび上がっていた。
「なっ、なんだよこれ!てめえは《強化系》じゃねえのかよ!ま、まさかその女か?!」
「いーや、俺も彼女も《強化系》だ!」
「うそつけクソがッ!クソクソクソクソッ!『地象』!早く動けっ!」
いや、さっきユリウスが《放出系》使ってただろ。ま、わかるわけないけど。
「ゴーレム使って余裕こいてるからそうなるんだよ!少しは反省しろ!」
少なくとも、《生成系魔術師》である母さんはこんな相手を馬鹿にしたような戦いはしなかった。こんな数をものにした虐殺じみた戦いではなく、純粋に魔物との戦闘を楽しんでいた。それもどうかと思うけど……。
「これからは誰彼構わず喧嘩売るなよ!」
未だ襲いかかるゴーレムを斬り捨てながらそう叫ぶ。
この世界の人間は魔力のおかげか、地球の人間よりも頑丈で長生きだ。それにあれほどの実力があるなら、あの特大火球が当たっても死にはしないだろう。
[それじゃ、よろしくお願いします!]
[【神秘】焔々の業火球!!]
そして、『焔々の業火球』がレナードを飲み込んだ。
「ギャアアアアアア!!!!」
森の中に狼人族の叫びが響き渡ったのだった。




