37:横取りはどの世界でも厳禁
前話にて入れるはずだった話をすっかり忘れてしまっていたので追加しました。組合の部分です。申し訳ありません。
それと、どうしてもタイトルに納得いかなかった部分がありましたので、勝手ながら変更させていただきました。これからもよろしくお願いします。
「せいっ!」
「やあっ!」
鬱蒼とした森の中に声が響く。
現在、俺達は塔第三階層にいた。
修行の成果もあって、今まで通ってきた階層には手応えのある魔物はいなかった。基本的にワンパンである。
なので、階段を探すために歩くだけの作業になっていた。まだまだ油断はできないが、この調子ならサクサク進めそうだ。
「ふう。やっぱりこの剣は重いです……。魔法を発動してないと持てませんね」
一狩り終えたメアリーちゃんは剣を杖代わりにしてその場で一息ついた。
彼女が今持つ剣《紅花》は、彼女の父であり俺達の師匠であるマックスさんから贈られたものだ。
普段身につけている剣とは異なり、彼女の身の丈ほどに巨大なそれは赤を基調として作られていて、細部には彼女の髪と同じ黄金色が散りばめられていた。アホな言い方をすれば、超高そうな見た目をしている。めちゃくちゃかっこいいしね。間違っても杖代わりにするものじゃない。
「オレイカルコスで作られてるんだよね?アダマンタイトよりは軽いと思ってがんばろうよ」
「むぅ。魔法袋みたいな鞘ってありませんかね。こう、剣を仕舞えば重さがなくなる感じの」
「戻ったら探そうよ。今はそれほど強い魔物もいないし、いつもの剣でいいんじゃない?」
「そうします。魔法の威力が増幅されるのは嬉しいんですけどねえ」
メアリーちゃん、そんな愚痴を師匠が聞いたら間違いなく泣くよ。その剣の大きさが師匠の愛の大きさなんだよ。
ちなみに、オレイカルコスは塔でドロップしたり、魔物の領域で採掘できる。
頑丈な上に魔法の威力を増幅する効果もあるから、かなり高価な一品だ。
さらにちなむと、アダマンタイトはオレイカルコスよりさらに硬い。しかし、魔法の威力を増幅する特性もなく、重量もオレイカルコスよりもだいぶ重くなってしまう。
一長一短ってやつだ。
「あ、また声が聞こえた」
「ですね。これって……笑い声ですよね?」
「……こんなところで大声で笑ってる人って結構怖くない?」
「激しく同意です」
「さっさと移動しよう。出くわしてもろくなことにならなさそうだし」
俺達は上階層を目指すため再び歩き出した。
この声の主、普通に気になるな。馬鹿みたいに笑ってるし、とりあえず変な奴だってことは確定だろうけど……。
ーーーーーー
「グオォ」
無事に第四階層に到達し、しばらく散策した頃だった。
俺にとって思い出深い魔物が目の前に現れた。
「もう『血熊』が出てくるのか……」
「第四階層には出ないって聞いてたんですけどね……他の情報も間違ってたらどうしましょう」
そう、現れたのは凶悪な爪を持った熊だった。ユリウスが4歳の頃に遭遇し殺されかけたアレだ。
今でこそ楽に倒せるようになったが、こいつも結構強い。駆け出し狩人なら見つかれば一目散に逃げるべき魔物だ。
あの爪で血を吸われたときの激痛は今でも思い出せる。地獄でしたよ、地獄。
「ま、とりあえず倒そうか」
「ここは私が行きますよ。【神秘】疾風の鎧」
メアリーちゃんを風の鎧が覆う。
それとともに《紅花》が淡く光りを帯びた。魔法の効果を増幅しているんだ。
「グオオオオ!!」
こちらが動く前に『血熊』は動き出した。
「『千弁万花』!」
だが、メアリーちゃんの方が速かった。
彼女は目にも止まらぬ速さの連撃を繰り出し『血熊』を斬り伏せた。気持ちいいぐらいにオーバーキルだ。
『血熊』が煙へと姿を変え、その場には今までより少し大きめの魔石と、刀身が熊の爪の模様のーー血走ったような模様の短刀が落ちていた。
「おお!すごい!ドロップアイテムだね!」
「これ、何でしょうか……。熊の能力といいこの刀身の模様といい、ロクなものじゃない気がするんですけど……」
俺も激しく同意だ。
あの爪と同じ柄なんだ。拷問とかに使う専門じゃないだろか。ロクな物じゃない匂いがプンプンする。
「これ、ちょっと使ってみようよ!」
「えぇ…。自分で試し切りとかはやめてくださいよ?」
「わかってるわかってる」
ユリウスはあの爪の威力を味わってないから……。もうっ!どうなっても知らないんだからねっ!
ーーーーーー
結論から言うと、あの短刀は無害でした。
あの後すぐに出くわした豚の頭を持つ人型の魔物『オーク』さんで試し切りしたところ、オークは「フゴオオオオオオオオ!!!」と悲鳴をあげた。
そこまでは予想通りだったんだけど、ユリウスに異変が起きた。
異変と言えば大袈裟だが、疲れが取れたらしい。
この短刀にはおそらくエナジードレイン的な能力があるんだと思う。
使用者の武器になる上に体力も回復できる(相手には想像を絶する激痛が襲いかかる)優れものだった。
これは『血熊』を倒したメアリーちゃんが持つことになった。
銘は『激痛丸』。所有者であるメアリーちゃん命名だ。あんた、ネーミングセンスなかったのね……。短刀に憐れみを持つ日がくると思わなかったよ。
ーーーーーー
それからまたしばらく歩いた。
どうやら『血熊』は滅多に現れないレベルの魔物だったようで、あの後現れたのは『小鬼』『豚頭人』『針芋虫』などの超がつくほどの雑魚魔物ばかりだった。
「あ、階段だ。この階層はちょっと時間かかっちゃったね」
「無理に急いでもロクなことになりませんし、私達のペースで行きましょう」
視線の先には階段があった。
塔の外装と同じように藍色で、空高くまで伸びている。
まあ実際に空高くまで登る必要はなく、ある程度の高さまで登れば次の階層に転移される。階段は転移装置なのかただの飾りなのか、その答えは神のみぞ知る……。
階段を上り、無事に第五階層に転移した。
見渡すと辺り一面には魔物、魔物、魔物。絶景だ。
「「え?」」
2人が呆けて間抜けな声を出すのと、魔物がこちらに気づいたのはほとんど同時だった。
「「「「ギャギャー!!」」」」
「「「「フゴフゴフゴオ!!」」」」
「「「「キュー!!」」」」
こちらに落ち着く時間を与えてくれるわけもなく、魔物達は襲いかかってきた。
「えっ?!ちょ、なにこれ!」
「わ、わかりません!でも、やるしかないってことはわかります!」
戦いにおいて、数はそれだけで力になる。
これは俺も頑張らなければ!
「【神秘】水断散弾銃!」
「【神秘】疾風の鎧!」
ユリウスが放つ水の弾丸が魔物を穿ち、メアリーちゃんが風の鎧を纏って次々に襲いかかる魔物達を斬り伏せる。
俺もユリウスの背から《比翼・黒式》を抜いた。
[ユリウス!魔物が集まってるところに突っ込んで!]
[了解!]
そして、ユリウスは魔法を乱射しながら突撃、俺は二刀流で間合いに入った魔物を煙に変えていった。
ーーーーーー
数は多かったが、強い魔物はいないようだった。
5分ほどで全ての魔物が魔石へと変わり、ようやく一段落つこうとしたときのことだった。
「シャァァァァァァアアア!!」
不意打ちすれば良いものを、馬鹿みたいにでかい鳴き声を上げながら『地下蛇』が地中から飛び出してきた。
「まだいたのか……【神秘】雷霆の鉄槌」
ユリウスが天に手を掲げる。
そして、極太の稲妻が大蛇に降り注いだ。
バキバキバキィッ!と轟音が響き渡り、稲光が収まった後には黒焦げた大蛇が現れ、魔石へと姿を変えた。
「ふぅ、やっと終わったね」
「ええ、第五階層に着いた途端にこれですもん。さすがにーー」
メアリーちゃんはある方向を不思議そうに見ていた。
「ん?炎の……虎?」
ユリウスもその視線の先に目を向けると魔物ーーいや、あれはゴーレムだな。魔法の発動者との魔力の供給線が見える。
炎でできた虎のゴーレムがいた。
「あれ、なんだと思います?」
「さあね。でも、嫌な予感しかしないね」
俺もそんな気がします。
その予感を裏付けるように、笑い声が聞こえてきた。
「この笑い声は……」
そして、森の中から一人の獣人が現れた。
「ハーハハハ!でかい雷が落ちたと思ったが、オイラの獲物に手を出した馬鹿はいねえな?」
ゴーレムに乗って現れたそいつは、俺達を見下ろしながらそう言ったのだった。




