33:異世界神器・マヨネーズ
お待たせしました。二章スタートです。
ユリウスとアキトの会話の吹き出しがわかりにくかったので、二章から吹き出しを[]に変更しています。紛らわしくてすみません。
只人の国ハイラードには3つの都市がある。
まず、俺達が住んでいた狩猟都市ルシャール。
魔物の領域に最も近く、狩人が人口の大半を占める、国の食料の供給を一手に担う都市だ。
そして、その次に王都ハイシュタット。
王都の中心には、王が住む巨大な王塔が聳えるのが特徴だ。
只人が人口の大半を占めるものの、様々な人種で賑わう最も国際的な都市で、まさに王都と呼ぶにふさわしい華やかさがある。
この都市には魔導具職人や、鍛治師が多く住んでいるそうだ。
最後に、塔都市ソビエ。
ルシャールの端っこにあった我が家からでも見えるほどに超巨大な願いの塔に隣接する都市だ。
言うまでもなく、この都市には夢追い人達が多く住んでいる。彼らは祈人と呼ばれている。
この都市に住む人々は、塔で得た魔石を売却して生計を立てているらしい。
魔石は、日用品を含むほぼ全ての魔導具を動かすための燃料の役割を果たす。
どうやら祈人の皆さんもなかなか生活には欠かせない存在のようで、誰も彼もが夢のために好き勝手に生きているわけではないらしい。うちでも魔導具の照明とか使ってたし、魔石ってなかなか大事。
さて、そして俺達は王都ハイシュタットまで、約2日かけて人車の旅をしていた。
「それで、こっちの世界にはないマヨネーズって食べ物があったりね。けっこう食に貪欲な世界だったんだ」
現在、暇を持て余した俺はユリウスの身体を借りして異世界のーー前世の話をしていた。
魔物は人の領域、それもルシャールのような大森林に隣接する都市ならまだしも、王都に近いような場所にはほぼほぼ現れることはない。
この国にもいくつかの犯罪組織は存在するらしいが、タイミング良く出くわすこともなく平和なドライブが続いていた。 爆裂に暇だった。
最初の2時間ぐらいは初めての人車に興奮してたりもしたんだけど、変わらない街並みにすぐに飽きた。窓の外を眺めれば街、街、街。むしろ2時間飽きなかったことを褒めてほしい。
「へえ〜、是非一度食べてみたいです!」
[−ねえ!アキトはそれ作れたりしないの?!]
おっと、マヨネーズの話だったか。
ちなみに異世界の話は風の魔法で馬車の中を防音にして、バーシャさんには聞こえないようにしている。仲間はずれにしてごめんなさい。
「もちろん、作れないよ」
「えぇ……」
[えぇ……]
胸を張ってそう言うと、身体の内と外から同時に幻滅された。
でも、よく考えてほしい。前世で17年、それもほぼほぼ病院のベッドの上でしか生きていないのに、マヨネーズなんか作れませんよ。
かろうじて覚えている材料は卵。しかし他の材料がサッパリわからない。病院生活オンリーだった俺を舐めてもらったら困るぜ。そもそも料理なんてしたことないに決まってるだろ!
「いや、そもそもさ、この世界の食べ物って俺からするとすごい特殊なんだよ。例えば、パンは木から生えてるものじゃないし」
「え?パンはパンの木から生えるんじゃないんですか?」
この世界のパンは果物のように木からニュッと生えている。
クロワッサンや、カレーパンなど様々な種類のパンがあって味も美味しい。けど、前世のパン屋さんが見たら、根元から木を叩き折りそうな光景だった。
[パンは作れるの?!]
やれやれ困ったものだ。マヨネーズを作れない人間にそれを聞くのは愚問だぞ?
「俺の世界のパンはね、小麦粉っていう粉をほにゃほにゃして作るんだ」
「ほにゃほにゃ?」
「うん。小麦っていう植物から取れる小麦粉を使ってね、ほにゃほにゃしたら完成さ」
「ほにゃ…ほにゃ……?」
今までにないぐらいに真面目な表情で、真っ直ぐメアリーちゃんの目を見て俺はそう言った。自信満々に言ってたらなんとかなるの精神だ。そもそもこの世界でパンなんて作らないだろうし、大丈夫でしょ。
[アキト……]
おっと、俺の大まかな感情がわかるユリウスには適当なことを言ってるのがバレているようだ。
一方、メアリーちゃんは数回「ほにゃ…ほにゃ……」と呟いた後、どこか納得したような顔で頷いていた。何に納得したんだろう。この子、いつか悪い人に騙されそうで怖い。
「うん!今度やってみます!」
「いや、材料がなさそうだから無理じゃないかな……」
「えええ……っ!」
背中にズーンって文字が見えそうなほどに落ち込む彼女に申し訳なさを覚えるが、パンの作り方の話をした時点でこの結果は決まっていた。運命は決まっていたのだ。そもそも完成したパンはあるっちゅうに。
「パンの木があるんだからマヨネーズの泉とかないのかなあ」
「うーん、聞いたことないですね。とりあえず大森林にはないんでしょうね」
大森林にはない、それは他の場所には存在する可能性があるということだ。将来の楽しみにしておこう。
と、そこでドアがノックされた。バーシャさんだろう。
「はい、どうしました?」
「王都に到着しやしたんで、観光でもしやすか?お代は多めに頂いてるんでゆっくりしていただいて結構でさ!」
[ユリウス、どうする?]
[んー、せっかくだしちょっとだけ見ていこうよ]
「メアリーちゃんはどうする?」
「私、王都に来るのは初めてなので一度見てみたいです!」
「おっけー。じゃあお言葉に甘えて少し観光してきます。バーシャさんはどうされるんですか?」
「あっしはその辺プラプラしとくつもりでさあ」
「あの、もし良かったらでいいんですけど、王都の案内とかってお願いできたりしますか?俺達王都に来るのは初めてなもので」
「構いやせんよ、あっしは何度も来てるんでどこでも案内できまさあ!」
「ほんとですか!ありがとうございます!」
俺達は強力な案内人を味方につけて王都巡りをすることになった。
塔に登り始める前に息抜きも必要かもしれないしな。急がば回れだ。うん。
ーーーーーー
王都に入って、今日泊まる宿を確保してからバーシャさんと合流する。
ちなみにバーシャさんは違う宿だ。
彼はユリウスとメアリーちゃんが恋人同士だと勘違いしているようで、こちらが同じ宿に誘っても固辞してきたのだった。
勘違いだけど気の利く人である。
「それじゃあバーシャさん、よろしくお願いします」
今はユリウスが表に出ている。
通常運転だ。
「大船に乗ったつもりでいてくだせえ!どこでも案内しまさあ!」
ドンと分厚い胸を叩いて心なしかテンションの高い様子のバーシャさん。もしかしたらこの人は、人の役に立つことが好きなのかもしれない。
王都に来てみたかったけど、特に気になるものもないーー正確に言えば何も知らないし、ここはバーシャさんのおまかせでいいんじゃないだろうか。
「えっと、じゃあ有名な魔導具店に行ってみたいです!」
おっと、メアリーちゃんは買い物がしたいようですね。やっぱり女の子は買い物が好きなんだろうか。まあ、したいことがあるなら構わない。
「へえへえ、予算はどれほどかお伺いしても?」
「3万マルぐらいです!」
「んー、僕は2万マルで」
「なら一度、安さとそこそこの品質が売りの店に行ってみやしょうか。物足りなかったら他の店に行きやしょう」
「はい!お願いします!」
ユリウスが狩人を始めてから父さん達に預けていたお金の大半を今回の旅に持って来ている。訓練がてら狩人の仕事もしていたし、結構な額が入っている。
お金の心配はあまりしていないけど、今までお小遣い生活をしていたユリウスの金銭感覚はどうなることやら……。
ーーーーーー
王都の中心に向けて少し歩いたところで、バーシャさんが歩みを止めた。
「ここが王都の人気店『魔具魔具マーケット 』でさ!」
「お〜」
「きれいです!」
メアリーちゃんの言う通りに、『魔具魔具マーケット 』の外観はカラフルだが清潔感のあるものだった。ポップな外観のおかげで高級感は見受けられない。たしかに安そうなお店だった。
「この店は日用品を始めに色んな商品を取り扱ってまさ!予算3万マルでも充分だと思いやすぜ」
「あの、私は1人で回ってもいいですか?」
「なんで?せっかくだしみんなで回ろうよ」
「えーーっと……実はお手洗い用品を買いたくて。塔にはお手洗いなんてないでしょうし。それで……」
「ご、ごめんごめん。わかった。じゃあ別行動で。30分ぐらいしたらお店の前に待ち合わせにしようか」
「わかりました」
「バーシャさんは僕と回りましょうか」
「了解でさあ」
ということで、ユリウスくんはバーシャさんと行動することになった。
男はその辺でトイレできるけど、女の子は無理だし仕方ない。親しき仲にも礼儀ありなのだ。
「うーん、僕はこれといってほしいものはないんですけど、なにかありますか?」
「塔に向かうならやっぱりトイレに…それと魔法袋は必須でさあね」
「魔法袋は既に持ってるんですよ。ほら」
「おお!それは時間停止機能もついてる高級品でさあ!それに容量も大きい!良いの持ってやりやすねえ!」
「そ、そうなんですか。知らなかった……」
「お?それじゃあ誰かからの貰い物で?」
「ええ、まあ。だいたいそんなとこです」
し、師匠……。あんたって人は……。そんなこと一言も言ってなかったじゃないの……。あの人は照れ隠しをしないと死んでしまうような病気にかかっているのだろうか。ナイスガイすぎる。
ーーーーーー
「こいつなんてどうでやしょう」
店内を散策していると、バーシャさんがオススメしてきた。
掌の上でちょこんと佇む輪っか、まあ、指輪だ。
ただ、何かを嵌め込むような穴が空いていた。
「これは?」
「こいつは《清潔の指輪》でさ。魔石を嵌め込んで魔力を流せば身体の汚れがある程度落ちるんでさあ」
「へえ、それは良いですね!」
「高級店に行けば汚れが完全に落ちるもんもありやすが、とりあえずお試しにどうでやしょう。悪い買い物ではないと思いやすぜ?」
「うん!買います!あ、メアリーの分も買っておこうっと」
汚れが落ちるのは最高だな。風呂要らずってか。これは買ってしまっても仕方がない。そんなに高くないし。俺がユリウスの魂の汚れ認定されて洗浄されることだけは勘弁してもらいたいところだけど。
その後、ライトや魔力を流せば水が出る魔法瓶などを適当に買ってメアリーちゃんと合流した。
続いて高級魔導具店も見に行き、遠くから王塔を見てその荘厳さに驚嘆したり、バーシャさんも一緒に夕飯を食べてその日は終わった。
初めての王都、ファンタジー世界では何か起こるのが常だと思っていた。しかしーー
嘘みたいだろ?本当に何にも起こらないんだぜ……。
二章は話が大きく動き出す予定なので、一章より面白くさせるつもりです。
一章は作者の実力不足でどうしても上手にできませんでした、申し訳ありません。
ちなみに作者はマヨネーズが好きじゃないのでマヨネーズは今後一切出てきません。




