32:旅立ち
翌日、メアリーちゃんを迎えに行くために家族総出で師匠の家に向かった。ほんとにほんとのお見送りだ。
「ついにこの日が来たわね……」
「少しまでこんな小さかったんだがな。早いもんだ」
父さん、その手で表してるサイズだと控えめに言ってもドングリぐらいの大きさじゃないかな。なんの魔物だよ。
「わざわざ見送りありがと。時々連絡は入れるからさ、心配しないでよ」
「ちゃんとご飯食べるのよ?」
なんて雑談を交わしながら師匠の家に着くと、家の前にはすでに全員集まっていた。
「来たか」
「おはようございます」
「まあ、なんだ。昨日も言ったが、無事に帰って来い。例え塔の攻略ができなくても、俺達は味方だからよ」
「マックスさん!気持ちはありがたいですけど、そんな心意気じゃ攻略できるものも攻略できなくなりますよ!最速で攻略してみせますから!」
「そうか。そうだな。よし!一週間で攻略してこい!」
フンスと鼻息を荒げ珍しくやる気満々のユリウスと、珍しくというよりいつものツンデレモードに入った師匠の横では、既に準備万端のメアリーちゃんがいた。
いや、本当に準備万端と言っていいものか。彼女は何故かもうすでに完全武装であった。さすがに気が早くありませんかね。
我が家が存在する狩猟都市ルシャールから《願いの塔》の塔下町である塔都市へ行くには王都を超える必要がある。つまりそこそこ時間がかかる。
メアリーちゃんがまさかそんなことを知らないわけもないし、なにやってんのこの子。
「えっと、さすがに準備早くない?」
どうやらユリウスも同じ疑問を抱いたようだ。
「よくぞ聞いてくれました。時にユリウスくん、病は気からという諺をご存知ですか?」
「え?うん、知ってるけど……」
「私気づいたんです。願いも気から!とね。だから、今から気合い入れていきます!」
「そ、そうなんだ。僕もやる気だけは負けないよ」
「ユリウスくんも真似していいですよ?」
「……うん、気が向いたらね」
ユリウスと同じくやる気はたっぷりで、その向かう先も同じなんだけど、どうにも気合いの入れ方が違うようだ。
基本的に真面目なんだけどなあ。たまにおバカさんが顔だしてくるんだよな。俺達のことを想ってしてくれていることだから悪い気はしないんだけど。
そんなこんなで家の前で話していると、遠くに馬車のような乗物が見えた。
「あ、来たみたいだよ」
「人車さんですか、時間ぴったりですね」
この世界には馬車がない。というより、魔物が人の生活圏で暮らせないから馬車を引く動物がいない。人力で賄う他ないのだ。
浅草とかにあるらしい人力車の超強化版って感じかな。引っ張ってるのは馬車みたいひ大きい乗り物だけど。
「どうもどうも、人車のバーシャでさ。今回はお2人の運搬と聞いてやすが、お間違いねえですか?」
その青年は、角刈りの黒髪頭に法被を着た、いかにもって感じのムキムキの男性だった。
それにしても、馬車みたいな名前してるのに人車って……。馬車が存在しない世界だから名付け親に悪意はないんだろうけど……。
「どうも。この2人を塔都市まで頼みます。お代は先払いでも?」
「ええ、大丈夫でさ」
父さんはバーシャさんとスムーズにやり取りをしていた。
何度か利用したことがあるのかもしれない。塔都市に行ったこともあるみたいだし。
「ユリウス」
「どうしました?」
父さんが清算している合間を縫って、師匠とミナさんが話しかけてきたようだ。
「メアリーを頼む。この子も強くなったが、それでも危機に陥入ることもあるだろう。2人で力を合わせて乗り切ってくれ」
「この子は時々抜けてるところがありますからね。どうかお願いします」
「や、やめてください!守るのはもちろんですけど、手伝ってもらってるのはこっちなんで!頭を上げてください!」
急に2人から頭を下げられ、ユリウスは慌ててそれを止めた。
そうだ。メアリーちゃんは怒るかもしれないけど、第三者である彼女がこの旅についてきてくれるんだ。俺のために。命をかけて。
改めてはっきり言っておかないとな。
−ユリウス、ちょっとだけ変わってもらっていい?−
−はいはい、了解−
「すいません、ちょっとアキトに代わりますね。チェンジ」
身体を貸してもらって、師匠達に向き直る。
これだけはちゃんと、俺の口から言っておかないとダメだろう。
「師匠、ミナさん。話は聞いてました。メアリーちゃんは必ず、なんとしても無事にここまで送り届けますので、安心してください」
言葉だけじゃなく、結果で示さないといけないけどな。
「おう、メアリーになんかあったらぶっ殺してやる!」
そう言いながらも、師匠達の顔には笑みが浮かんでいた。ツンデレさんめ。
「お会計は頂きましたんで、早速向かいますか?」
気づくと、会計を終わらせたバーシャさんが横に来ていた。どうやらすぐに出発するらしい。
じゃあ、最後に。
「父さん母さん!今までお世話になりました!すぐに帰ってきますから!元気に待っててください!」
「おう!早く帰ってこい」
「次に会うときは2人で顔を見せてね」
そう言って、2人は俺を抱きしめてくれた。
思えば自分の身体がほしいなんて思い始めたのは、この2人に受け入れてもらってからだ。
それまではユリウスとメアリーちゃんの2人と話しているだけで満足していた。
でも今は自分の、借り物じゃない身体でこの人達に会いたいと思ってしまっている。自分勝手だな。
もちろん前世の両親のことは片時も忘れたことはないし、これからも忘れるつもりはないけどね。
−ありがとう、もう十分だよ−
−はいはーい−
そうして、2人から離れてからユリウスに身体を返した。
伝えたいことは昨日も含めて伝えたのでぼちぼち満足だ。
「父さん達も元気でね」
「ユリウスか。突然変わるのは相変わらずだな」
「僕が変わるときはチェンジって言ってるでしょ?それより、油断して魔物にやられたりなんてしないでよ?」
「なに生意気言ってんだ。俺にかかればどんな魔物でもイチコロだ」
「でも、この人のことだからちょっとありえそうで怖いわね」
3人が別れの前の最後の時間を楽しんでいると、メアリーちゃんも師匠達との会話を終えたようだ。
横に立つ師匠の目からは漫画みたいに滝の涙が溢れていた。
「お待たせしました。それじゃあ」
「うん。いこうか」
いよいよ俺達は願いの塔に向けて旅立つ。
どうなるかわからないけど、やれることをやるしかないんだ!がんばろう!3人で力を合わせて!いのちだいじに!
「それじゃあ出発しまさあ!塔都市に向けて発進でさ!」
みんなに見送られながら、俺達はついに新たなスタートを切り出したのだった。




