31:14の夜
怒涛の訓練期間を経て、14歳の誕生日を迎えた。
明日、俺達は『願いの塔』へと向かう。
そして今日は成人祝い兼お見送り会が我が家で催されていた。参加者はハルトマン家の皆さんのみ。いつも通りだ。
「それじゃ、ユリウスとアキトの成人を祝って!乾杯!!」
「乾杯!!!!!」
みんなでグラスを合わせ、中の酒が揺れる。
今日は成人祝いということで、ユリウスくんも酒を飲んでいた。初の飲酒だ。ほんと、大きくなったなあ。すぐ最近まで子どもだった気がするのに、月日が経つのは早いものだ。
食卓には色とりどりの料理が並んでいた。
前日からみんなで気合を入れて高級食材と呼ばれるような魔物を狩りに狩ったからだ。
ちなみに、今はユリウスくんが表に出ている。
各々料理を取り分け、宴が始まった。豪華な料理に舌鼓を打ちながら取り留めのない話が続いていく。
「それにしても、あっという間だったわね。ユリウスが塔に行くなんて言い出してから、もう4年が経つなんて」
「そうだな。俺達も歳をとったってことだ」
「ハッ、俺はまだまだ現役だぜ?」
「あなた、そういう話じゃないです」
大人達は酔いが回り始めて少し感傷的になっているようだった。俺もそうだ。この人達には本当にお世話になったし、救われた。
「ユリウスくん、ついに明日ですね」
「うん。アキトに会おう。絶対に」
隣に座るメアリーちゃんも数ヶ月前に成人を迎えていて、グラスに入ったワインをちびちびと飲んでいた。ちなみに彼女は酒が強い。
「でも、実際どれぐらいかかるのかな。できるだけ早く攻略するつもりだけど」
「どうでしょう。こればっかりは体感してみないとわかりませんからね」
「とりあえず僕達は全力を出すしかないってことだね」
「はい。叶えましょう。なんとしても」
2人の会話に胸が熱くなるのを感じ、俺もこの2人だけは死んでも守り切ろうと改めて決意した。俺が死んだらユリウスくんも死んでしまうと思うから、俺も死ぬわけにはいかないんだけど。
この4年間、塔についてわかることは調べたつもりだ。けど、やっぱり実際行くまではどうなるかわからない。がんばるしかないんだ。
そんなことを考えていると、トイレに行っていたと思われた母さんが何やら大荷物を抱えて出てきた。……すんごいニヤニヤしてる。
「ユリウス!アキト!お誕生日おめでとう!私達からのプレゼントよ!」
「わ!ありがとう!」
ユリウスくんが物心ついた頃から毎年もらっている誕生日プレゼント。今年はなんだろうか。ちなみに去年は靴下だった。
「開けてもいい?」
「もちろんよ。お父さんと一緒に買いにいった自信作なんだから!」
「フッ、腰を抜かすなよ?」
父さんは渾身のドヤ顔をかましていた。
さてさて、何が入っているやら。
ユリウスくんが丁寧に箱を開けるとーー。
「わあ!剣だ!」
中には剣が入っていた。それも、4本。
オーソドックスな形の、剣先から柄頭まで漆黒の剣が2本と、同様に全体が純白の剣が2本。
漆黒の剣の鍔には純白の宝石が、純白の剣の鍔には漆黒の宝石が埋め込まれていた。ひどく心を揺さぶってくる剣だ。か……かっこよスギィ!
「ユリウスとアキトそれぞれに2本用意していおいた。銘は《|《比翼》《ひよく》》だ。白剣ーー《白式》は大森林の奥にそびえる光樹を素材に、《黒式》は闇樹を素材にして打たれたものだ。《黒式》がアキト、《白式》がユリウスだ。大事に扱えよ?」
「お父さんったら、張り切ってオーダーメイドで作ってもらったんだから!」
「こ、こらっ、余計なこと言うんじゃない!」
楽しそうな母さんと耳まで真っ赤にした父さん。このままずっと仲良くいてほしいな。
それはそうと、この剣ーー《比翼》。初めて自分専用の装備をもらってしまった……。やばい死ぬほど嬉しいなこれ!勿体ないから額に入れて飾っておきたいんだけど!そんなわけにいかないことは重々承知してますけどね!!
−ユリウスくん!これ!やばいな!−
−うん!前まで自分で買ってた安物とは大違いだよ!−
「ほう、良い剣だな」
ユリウスくんとキャッキャしてたら、師匠がそう言ってくれた。
はっきり言って、俺達に剣を見る目は大してない。すごいやつとなまくらを見極めることができるぐらいだ。しかし、師匠が言うなら安心だ。それに、父さん達がくれたものだし。まあ見るからに凄そうな剣なんだけど。
弘法筆を選ばずと言うが、どんな人間でも良いものを使ったほうが良いに決まってる。弘法さんも良い筆を使いたかったはずだ。良い武器を手に入れたことで、俺達もより強くなれると思いたい。
「た、高そうですね……」
「子どもがそんなこと気にするもんじゃない。って、もう成人したんだったな」
師匠は苦笑いしながら、どこか優しい目つきで俺達を見ていた。もしかすると、彼も寂しく思ってくれているのかもしれない。
「よかったですねユリウスくん!おめでとうございます!」
「値段のことは気にするな。そんなことより、ちゃんと帰って来いよ」
「そうよ、元気が一番なんだから!」
「マックスも口は悪いけどあなた達のことは気に入ってますから、無事に帰って来て、またうちに遊びに来てくださいね」
「おい!なに言ってんだ!!」
みんなに祝福されて、幸せだ。
もうこの生活でも良い気が……ってダメだな。ユリウスくんのためにも、このままじゃいけないはずだ。これだけ応援してくれたみんなのためにも。
ユリウスくんの表情は俺からは見えないが、彼も感動していることだろう。
「はい!私からもプレゼントです!」
そう言って、メアリーちゃんはユリウスくんに小さな箱を手渡した。
彼女も何かくれるようだ。彼女とは毎年プレゼント交換しているから薄々察していたところはあるが……やっぱり嬉しいよね。
知り合ったばかりの頃は拾ったドングリと形の良い丸い石を交換していたのに、大人になったものだ。
ちなみに今年は俺とユリウスくんでお菓子屋さんの食券1万マル分をあげた。けど、なぜか少し怒っていたように見えた。甘いのは好きなはずなんだけどな。
「おお!」
箱を開けると、中には白と黒の糸で編み込まれたブレスレットが入っていた。ミサンガだ。
「少しでも縁起がいいものをと思いまして、今年はミサンガにしてみました!」
「ありがとう!すっごく嬉しいよ!」
言いながら、ユリウスくんは早速ミサンガを腕につける。
それにしてもあれだな、メアリーちゃんはどんどん女子力が上がっていくな。ミナさんの影響だろうか。
「最後に俺達からも。ほらよ!」
「うわっ!っとと。なんですか?これ」
師匠が何かの袋をこちらに投げ渡してきた。
ユリウスくんがなんとか取り落とさないようにキャッチしたものの、なんだこれ。独特な模様が入った、手のひらサイズの何の変哲もない袋に見える。
「それは魔法袋だ。見た目以上に大量の物を詰め込むことができる。塔の攻略を目指すには必須だぞ?」
「必須?……あ、なるほど。」
魔法袋……。ファンタジー定番のアイテムだ。たしかに必須だな。なんせ、塔の中では食料の調達ができないのだから。
「マックスさん!ミナさん!ありがとうございます!」
「気にするな。メアリーと結婚しないならそれでいい」
「あなた……」
「父さま……」
どこか締まらない父と、そんな父にジト目を送る母と娘。この家族も変わらないな。
沢山のプレゼントを目の前に、ユリウスくんはみんなを見渡してから言った。
「みんな、本当にありがとう!」
「ここまで大きくなれたのはみんなと、アキトのおかげです!すぐに帰ってきます!だから、少しの間だけ待っていてください!」
「最後に、僕の兄弟であり、相棒であるアキトからも一言もらいましょう!チェンジ!」
ユリウスくぅぅぅぅぅん!!!毎度毎度急すぎるてぇぇぇぇぇ!!!
彼の辞書には心の準備というものがないのだろうか。こんな無茶振りにも慣れてきたとはいえ、やっぱり一言ほしいよね。今から一言あげるのは俺か。ちくしょう。
「えと、いきなりですが皆さん、今日はありがとうございました。」
「父さん母さん、《比翼》、大事にします。毎日磨いてピカピカにします」
「メアリーちゃんもありがとう。ミサンガだけど、切れないように大事にするね」
「師匠、ミナさん、実用性ばっちりでお2人らしいプレゼントだなって思いました。大事にします」
「絶対帰ってきますから。誰も死なせません。みんなで元気に帰ってきますから、また今日みたいな宴会しましょう!今まで本当にお世話になりました!みんなのことが大好きです!!」
言い終えると、温かい拍手を送られた。
みんなへの感謝はまだまだ言い足りないけど、それは自分の口で伝えたいと思ったから、帰ってきたときのために取っておくことにした。
「うおおおーー!!絶対帰ってこいバカヤローー!!死んだら許さんからなー!!」
「うわっ!師匠!なんで泣いてるんですか!」
「もう、あなた。いい年して何泣いてるの。アキトくん、ユリウスくん、応援してるからね。メアリーのこともよろしくね」
「もちろんです!必ずここに帰ってきます!」
師匠はメアリーちゃんのことでしか滅多に泣かないのに、珍しい。俺はちゃんと弟子ができていたのだろうか。
ミナさんは相変わらず落ち着いていた。
彼女にも何度もご飯を食べさせてもらったりと、随分お世話になった。
「マックスの馬鹿野郎、みんな我慢してるってのに……」
「うふふ、私達幸せね、こんなに息子が愛されてるなんて」
「父さん母さん……」
父さんと母さんも瞳を涙でにじませていた。
この人達のためにも、なんとしてもこの身体はここに送り届けなければならない。返せないほどの恩をもらったんだ、意地でも返しきってやる。
「がんばりましょうね!アキトくん!ユリウスくん!」
「メアリーちゃんも、本当にありがとう。いつかこの恩は返させてもらうよ」
「そんな、恩なんて。好きでやってるだけですから!」
彼女の気持ちにはまだ応えていない。けど、自分の身体を得たら、しっかり返事をするつもりだ。
そして、ユリウスくん。
彼の元に転生?していなければ、俺の心は折れていたかもしれない。
少なくとも、こんなに幸せな状況にはなっていなかっただろう。
−これからもよろしくね、相棒−
−うん、こっちに名前が届くぐらい有名になってやろうよ−
−はは、母さんが驚きそうだ−
−相棒として一言。もう子どもじゃないんだし、これからはユリウスって呼んでよ−
−ユリウスくん……。いや、ユリウス、か。はは、なんかくすぐったいな−
明日の朝、俺達は塔に向かう。
決意を新たに、俺達は幸せな夜を過ごしたのだった。




