30:パンパンやで
「ほう、メアリーが言うだけあって良い魔法だ」
マックスさんの家に報告に行ってから数日後、正気を取り戻したマックスさんとメアリーちゃん、父さんと共に草原地帯に来ていた。
そして俺は相変わらず『雷光』を披露していた。だって自信あるんだもの。
「アキトくんの魔法は凄いんですよ!空だって飛べるんです!」
「空を?本当か?いや、メアリーが言うんだ。本当だな。アキト、やってみてくれ」
「あ、はい。【神秘】天女の羽衣」
親バカをスルーしつつ魔法を発動。
フワリと身体が浮かび、3人を見下ろす形になった。
「アキト……お前、そんなこともできたのか……」
「昨日は『雷光』を見せただけで終わっちゃいましたからね。まだまだありますよ?」
暇な時にすることと言えば魔法開発ばかりだったからな。魔法のストックは自慢できると思っている。魔法って最高。
「空を飛ぶ、か。考えたこともねえな……」
「私もできますよ!【神秘】天女の羽衣!」
「うおっ!メアリーまで!いつのまに……」
「アキトくんに内緒って言われてたから黙ってたんです!すごいでしょ?」
キラキラした笑顔でこちらを見てくるメアリーちゃん。笑顔が眩しい。めちゃくちゃ楽しそうだ。
−うん!やっぱりアキトはすごいんだよ!−
−いや、それよりマックスさんの顔が凄いことになってるから……−
ギリギリと歯ぎしりしながら親の仇を見るような目で俺を見るマックスさん。この場合は娘の仇と言うべきか……。
「ふー。落ち着け俺……。メアリーは何があっても渡さん。渡さんぞ……」
「おい、マックス。目を覚ませ!そろそろ始めるぞ」
「あ、ああ。よし!2人とも降りてこい!」
俺達は地面に降り立ち、大人達に向かい合った。
「2人とも魔法の基礎はできている。早速だが、アキトは俺と組手をやってもらう。メアリーは……ユージーンと組むか。《放出系魔術師》と戦うこともあるかもしれんからな」
「「はい!」」
−アキト!がんばって!−
−おう!まかせてくれ!−
「よし!それじゃあアキトはこっちに来い!地獄を見せてやる!」
ヒェッ……全然正気に戻ってなかった。いや、むしろこれが正気なのかもしれない。
「師匠!よろしくお願いします!」
「お?おお!師匠か!いい響きだな!」
昔からマックスさんは俺の魔法の指針だったんだ。これからは正式に師匠と呼ばせてもらおう。本人も喜んでくれているようでなにより。
そして、地獄の訓練が始まるーー
ーーーーーー
開始1時間で俺の身体はボロボロになっていた。顔もパンパンに腫れ上がっていることだろう。父さんにだってぶたれたことないのに!
メンタルもボロボロだ。なにがきついかって、一撃も攻撃が当たらない。掠るので精一杯だ。
これが実践経験の差。ユリウスくんを優先して俺が表に出て戦うことは少なかったから当然の結果かもしれない。ここまで差があるとは思わなかったけど……。
「どうしたどうしたぁ!!そんなもんかぁ!!」
くそっ、めちゃくちゃ楽しそうだな!ものすごいキラキラした顔しやがって!!
「まだやれます!!」
「その意気やよし!しかし!一旦休め!」
「えぇ……」
休憩、くれるのか……。いや、ありがたいけども。思ったよりゆとりがあるようだ。では、遠慮なくーー
「待て」
魔法を解除してその場に腰を下ろそうとすると、師匠に止められた。
「座ることは許さん。それと、魔法も解除するな。魔法の発動時間を伸ばすと同時に精神力も鍛えるんだ」
「なるほど。発動し続けることでそれを鍛える、と」
「物分かりがいいな、その通りだ。いくら魔法の練度が高くても、魔術師は魔法が切れたらほぼ終わりだからな。最悪、魔力切れ戦場で気絶するなんてこともありえる」
俺が気絶すれば勝手にユリウスくんに身体が委譲される。だから、普通の人よりはその点は安全かもしれないけど、それを言うのは違う気がする。
俺は言われた通りに魔法を解除せずにマックスさんに向き合った。もちろん立ったままで。
「それと、お前の攻撃は見え見えだ。視線がはっきりしすぎている。次ここに攻撃しますって顔に書いてるぞ」
「あ、たしかに……」
『雷光』の速度頼りなところは否めない。否めないというか大正解だ。フェイントも入れてない、馬鹿正直な攻撃ばかり。ジャンケンでグー出すぞ!出さなかったら一万円あげる!って言ってほんとにグー出す感じ。そんなんじゃこの人に当たるわけもない。
「あと、速さはあるが動きに流れがない。全身を使って攻撃しろ。そのために一先ずその魔法、『雷光』だったか?それは封印しとけ。お前はそれに頼りすぎだ」
「は、はい」
「それからーー」
それから30分ほどみっちりお説教をいただいた。
間合い、緩急、ダメなところがたくさん見つかった。まだまだ伸び代がありそうだ。ポジティブに考えないと悲しくなってくる。
「メアリーの回復魔法の訓練がてら治してもらえ。メアリー!」
「はーい!」
師匠が呼ぶと、奥で父さんと訓練していたメアリーちゃんが駆け寄ってきた。
「って!アキトくん、ボロボロじゃないですか!」
「はは、師匠が強すぎるんだ。ほんとに先が長いよ……」
「いつの間に父さまが師匠になったんですか……。まあいいです、【神秘】癒しの聖杯」
メアリーちゃんの魔法によって全身が光に包まれ、ホワホワと心地よい暖かさに満たされる。
擦り傷は塞がり、痛みは和らぐ。
いつも思うけど、これ、どうなってるんだろう。流れた血は、失った肉はどこから生まれているんだろうか。
ゲームみたいにHPバーなんかがあればわかりやすいのかもしれない。
「ありがとう、メアリーちゃん」
「いえいえ、お互いに頑張りましょう。ユリウスくんもね!」
「もちろんだって言ってるよ。俺も訓練に戻るよ。頑張ろう!」
メアリーちゃんと別れて訓練を再開ーーの前に、師匠は顎に手を置いて思案顔でこちらを見ていた。
「なあ、お前とユリウスはもしかして、同時に魔法を使えたりするのか?」
「あ、はい。使えますよ」
「まじか!やってみてくれ!おい!お前達も見ろよ!」
「アキトくん!あれやってください!空に飛ぶやつ!」
どうやら師匠は興味津々のようだ。ここらで1発驚かせてやろう。じゃないとボコボコにされすぎて悲しい。
−ユリウスくん、リクエストに応えてあれでいこう。めちゃくちゃきれいなやつ−
−ふふ、あれだね。まかせて−
ユリウスくんとネタ合わせをして、みんなから距離をとる。
「では、いきます。【神秘】風神の羽衣!」
今回は足元に重点的に魔力を集める。すると、『風神の羽衣』の暴風によって俺は猛スピードで天高く打ち上げられた。
まだ終わりじゃない。そこから俺は空中で両手を広げて回転する。
−アキト!いくよ!−
−あいあいさ!−
−【神秘】赫灼の散弾!−
両手から全方位に向けて火の球を発射。
それはまるで花火。人間花火だ。もちろん汚い花火ではない。なお、赫灼の散弾を射つために両手を広げる必要はない。完全に演出だ。
名付けて『赫灼花火』。決まった。
「おお……」
「素晴らしい……」
父さんと師匠は口をあんぐりと開けて驚いていた。よしよし、期待以上だ。
「何度見てもきれいです!」
メアリーちゃんもうっとりした様子。
この世界に花火があるかどうかは知らないが、少なくとも彼女は花火を見たことがなかったらしく、この技を見るのが好きらしい。
ちなみにこの技は完全な見掛け倒しだから戦闘には使えない。正確に言えば使えないことはないが、これをやるぐらいならもっと良い技がある。
『風神の羽衣』じゃ空も飛べないしね。今も地面に向かって絶賛ダイブ中だし。
まあ、ぶつかったりしないけど。
「【神秘】天女の羽衣」
魔法を発動し、フワリと地面に降り立つ。
「どうでしたか?」
ドヤ顔で聞いてみた。パフォーマンスとしてはあの技は満点だろうからな。
「素晴らしかった!それに、魔法の可能性が無限だ!近接戦闘の技術を組み込むのはもちろんだが、《放出系魔法》を組み合わせた戦い方をもっと考えるべきだな!」
「はい!よろしくお願いします!」
魔法を考えるのは楽しい。いくつか制限はあるものの、師匠が言った通り魔法の可能性は無限大だ。そんな修行ならいくらでもやっていられる。
「よし!まあしばらくの間は近接戦闘だ!基礎ができんと話にならんからな!」
近接戦闘は程々にしてもらいたいところだが、今怠けてもロクなことにはならない。命がかかってるんだ。
ユリウスくん、もうしばらくの間だけ我慢してくれ。早く師匠の攻撃も避けられるようになるから。それまで、もう少しだけ、この身体が痛むことをお許しください……。
そして、訓練漬けのそんな生活もあっという間に過ぎ去り、四年の月日が経った。
ちなみにこの世界では『空を飛ぶ』という発想があまりないので、いわゆる飛行魔法はあまり浸透していません。実力的には親父達も飛行魔法を使えます。




