29:生きて帰る
バリバリバリッーーーー!!!
だだっ広い草原に雷鳴が鳴り響いた。
「うむ。アキトの《強化系魔法》は既に一流と呼ばれる域達しているだろう」
「ありがとうございます。伊達に魔力の訓練ばかりやってたわけじゃないですからね」
「基礎はとても大事だからな。ただ、やはり実践面で不安があるな。これからは実践での動きを学んでいこう」
『父さん』達との邂逅を経た翌日、俺は父さんに草原地帯で魔法を見てもらっていた。善は急げだ。
ちまちま飽きずに訓練し続けた甲斐もあって、俺の魔法は相当レベルが高いらしい。継続は力なり。暇つぶしの魔力訓練と言えども十分な成果を生み出せたようだ。
今発動しているのは『雷光』だ。
まず見せる魔法と言えばこれだ。発動に一番苦戦した魔法であり、一番思い入れのある魔法だからね。なによりかっこよさが好き。
「その魔法を発動すれば凄まじい速度だが、それでもやはりついてくる魔物もいる。現に俺もはっきりと視界に捉えることができるからな」
「そ、そうですか……。これはもっと精進する必要がありそうですね……」
とは言うものの、超長距離魔法を得意とする父さんの目は特別だろう。よっぽどの魔物でもない限り大丈夫だとは思うんだけどな。改良の余地がある以上訓練をやめることはないけど。
「ふーむ……。そういえば、アキトの存在を俺達以外に知っている人間はいるのか?」
父さんは何かを考えるような素振りで聞いてきた。
「メアリーちゃんですね。4年前に『血熊』に出くわした日にバレました。でも俺のことは他言無用にしてもらっています」
「そうか。なら、マックスは知らないんだな?」
「おそらく。少なくとも俺達からは何も言ってません」
「これはアキト次第なんだが……マックスに話してみるのはどうだ?」
「それは、《強化系魔法》の指導のためにですか?」
「ああ、あいつの口の堅さは俺が保証しよう。それに、あいつはアキトのこともきっとわかってくれるはずだ」
一流の《強化系魔術師》に直接教えを乞う。とても魅力的だ。きっと俺は強くなれる。
だが、どうしても不安がつきまとう。拒絶されるのが怖い。大丈夫なんだろうか。
−アキト!きっとおじさんなら大丈夫だよ!−
−そうかな……。自分で言うのも何だけど、俺って結構異端な存在だよ?父さん達は認めてくれたけど……−
−僕を信じて!きっと、きっと大丈夫!−
マックスさんを信じていないわけではない。ただ、自分でも理解できない状況を他人が理解してくれるのか?その不安が渦巻く。
しかし、ユリウスくんを信じることができなくなれば俺にはもう何も残らない。ユリウスくんがいなければ今の俺は存在しない。
父さん達にも信じてもらえたんだ。俺も前に進むべきだろう。
「わかりました。マックスさん達に会わせてください」
「ああ、そんな心配そうな顔をするな。あいつの人間性は俺もよくわかってるつもりだ。アキトを拒絶することはない」
「すみません、やっぱりどうしても怖くなってしまって」
「気持ちはわかるさ。安心しろ、誰が何と言おうが俺達はお前達の味方だ。それはたとえマックスが敵になったとしてもだ。早速だが、マックスの家に向かおうか」
俺は心の底が温まるような感覚に包まれながら、マックスさんの家に向かった。
メアリーちゃんに昨日のこと話したら驚くかな。
ーーーーーー
「おーい、マックス!いるかー?」
父さんが呼びかけるとガチャリとドアが開き、金髪碧眼の少女が中から出てきた。メアリーちゃんだ。
「あ、ユージーンさん、こんにちは。父さまはーーってアキトくん?!」
彼女は父さんを確認した後、俺の姿を見るや否や驚いた声を上げた。
かれこれ5年以上の付き合いになる彼女も俺とユリウスくんの違いを判別することができる。
しかし、昨日報告していなかったら1発アウトだったな。危なかった。まあ報告してなかったらこんな状況になってないけど。
「あはは、昨日色々あってね、父さん達に俺のこと話したんだ」
「そうでしたか……。あの、その、大丈夫でしたか?」
メアリーちゃんは近づいてヒソヒソと話しかけてくる。この子にも心配をかけたし、これまでずっと気を使ってもらったなあ。
「心配してくれてありがとう。父さん達は俺のことを息子だって、そう言ってくれたんだ」
「そうですか……。よかった。よかったです……」
目に涙を浮かべて喜んでくれる彼女を見ていると、本当に人に恵まれていることを実感する。いつかこの子にもちゃんと恩返しがしたいものだ。
「メアリーちゃん、そのことでマックスに話があるんだ。今いるかい?」
「今はちょうどお仕事に出掛けてていません。たぶんもう少しで帰ってくると思うんですけど……」
「そうか、悪いけど家の中で待たせてもらってもいいかな?大事な話でね」
「わかりました。すぐ用意しますから、とりあえず中でゆっくりしていてください」
メアリーちゃんに案内され食卓に座る。
ミナさんは家にいたようで、彼女も一緒に俺達をもてなしてくれた。
ーーーーーー
出された紅茶を飲んで待っていると、ほどなくしてマックスさんが帰ってきた。
「お?なんだ、ユージーンとユリウス二人揃って。メアリーに会いに来たのか?」
「いや、今日はお前に用があって来た」
「俺に?何かあったのか?」
マックスさんも椅子に座り、食卓にはユリウスくんも含めて6人いることになった。
「あの、私達は席を外したほうがいいですか?」
ミナさんが気を利かせてそう言うが、今後マックスさんだけでなくミナさんのお世話になる可能性もあるし、ここはしっかり話すべきだろう。
「いえ、構いません。全員に聞いてほしいので」
「それで?用ってなんだ?」
「ああ、ユリウスのことだ。もっとも、簡単な話ではないんだが……」
「父さん、ここからは俺が話します」
「え、まさかとは思ってましたけど、ほんとに……?」
メアリーちゃんが目を見開いてそう呟くのを横目に、俺は昨日父さんに話したように、今までのこと、そして4年後に塔に向かうことを告げた。
話を聞き終えたマックスさんとミナさんは開いた口が塞がらない様子だった。
「……本当なのか?ユージーン」
「一人の中に二人……。聞いたことのない話ですね……」
「俺は親だからな。ユリウスとアキトの違いにはすぐ気づいた。二人にはわからなくても仕方ない。わかりやすい証拠としては、アキトはユリウスとは違って《強化系魔法》が使える」
「なんだと?!実質二つの系統が扱えるってことじゃねえか!」
「アキトくんの魔法の実力は既に父さまに並ぶと思います。私もアキトくんに魔法の指導をよくつけてもらいました」
「まじか……。まあそれを考えたら訓練始めたばかりのユリウスのあの規格外っぷりも頷けるが」
「すみません、メアリーちゃんを何度か危険な目に遭わせてしまいました。だいたい僕のせいです。ごめんなさい」
「それだ!危険な真似はするな!いくら魔法を使えても身体はまだ子供なんだ。《強化系魔法》は万能じゃない。……まあメアリーも無事に帰ってきているし、今回は正直に話したその心意気に免じて許してやるが……」
「それは私が勝手についていったんです。アキトくんを責めないでください」
「おお、メアリー……。優しい子に育ってパパは嬉しいぞお!」
「ちょっ……!恥ずかしいですやめてください!」
「あー。いいか?それで、マックスにはアキトに《強化系魔法》と実戦での立ち回りを指導してもらいたいんだが……」
最近思春期に入り始めたメアリーちゃんに拒絶されているマックスさんに、父さんが今日の本題である件を訪ねた。
「うむ!それは構わん!同情とは言わん。困っている子どもを助けてやるのは俺達大人の役目だろう!」
「マックスさん……」
かっこいいなあ。俺はこんな大人になれるのだろうか。本当に身体を得れたなら、俺は間違いなく狩人を目指す。いつか彼等に追いつくことができるように。強さもそうだが、器の大きい男になりたい。
「よかったですね、アキトくん!私も一緒にがんばります!」
「え、なんでメアリーちゃんも?」
「決まってるじゃないですか!私も塔に行くんですから!」
「「「「は?!?!」」」」
「なんだかそんな気がしてたわ」
ミナさん以外が見事にハモった。
え、メアリーちゃんも来るの?そりゃ心強いけど、間違いなくマックスさんが許さないだろうよ。
「メ、メ、メメメメメアリー?どどどどういうことだ?」
「アキトくんが身体を得るのは、私の願いでもありますから!遂にこの時がきました!って感じです!」
メアリーちゃんはフンスッと鼻息を強くして両の拳を力強く握る。不覚にも可愛らしいと思ってしまった。
「メ、メアリーの願いが?な、なんで?」
「あなた、それ以上は……」
マックスさんは動揺し、ミナさんは何かを察した雰囲気を醸し出していた。
「なんでって……もうっ!父さまは少しは乙女心を理解してください!」
そして、マックスさんの身体は雷に打たれたように動かなくなった。
え、そういうことなの?
4歳の時に、俺は彼女を振った。4歳の女の子を振るなんて言い方が物凄くかっこ悪いことは重々承知なのだけど、他にマシな言い方が思いつかないので仕方ない。
それにしても最近ーー今日に至るまで、彼女はそんな雰囲気出してなかったし、てっきり告白したことも忘れているものだと思っていた。それがまさかこんなことになるとは……。
「え?メアリーが?もしかして?恋?初恋か?誰に?アキト?狩る?殺る?無かったことにしないといけないな?よし!そんな事実は無かったことにしよう!」
マックスさんは物騒なことをブツブツと呟いていた。そこに先程俺が憧れた大人の姿はなかった。というか、俺、殺されるの?狩られるの?換金できないよ?
すると、マックスさんはスッとこちらに手を差し出してきた。握手だろうか?彼もれっきとした大人だ。さっき呟いていた物騒なことなんて起こさないだろう。俺はその手を握り返した。
「よぉーし、捕まえたぞ。もう逃さんからな?男に二言はないから修行はつけてやるが、地獄を見ると思えよ?」
「ヒェッ」
マックスさんは爽やかだがカケラも目が笑っていない笑顔を向けてきた。俺は4年後までーー今日帰るまで生き抜くことができるのだろうか。
「あと、俺のことをお義父さんなどと呼べばその時点で貴様は死刑だ。ゆめゆめ忘れるな?」
「は、はいぃ」
「もう!父さま!子どもじゃないんですから!やめてください!」
「あはは!メアリーは可愛いなあ!あはははは!あははははは!」
マックスさんの壊れた笑い声が止む様子がなかったので、俺達はそそくさと家を出た。生きて帰れて良かった。誰がこんなカオスな現場を予想しただろうか。
とりあえず、この身体だけは守り抜かないといけない。
そう決意して、俺達は帰路についたのだった。




