20:フラグは立つものではない。立てるものだ。
翌日、メアリーちゃんが家にやってきた。
「あらあらこんにちは。今日はどうしたのかしら?」
「こんにちは!ユリウスくんにおはなしがあります!」
「なぁにー?」
「ついてきてください!」
おいおいもうユリウスくんに告白かい?
小さいながら君は見る目があるね、このおませさんめっ。
なんて下らないことを考えてみるが、メアリーちゃんはぷりぷりと怒っていた。
なんだろ、ユリウスくんがなにかしたっけ?
庭に移動し、2人きりになる。
「どうしたの?」
「きのうユリウスくんがまちのおそとにでていくのをみました!おそとはあぶないのに、おじさまたちのきょかはとってるんですか?!」
「うっ」
み、見られてたのか……。
どうしよう。ユージーンさん達のみたいな大人にしか注意を向けてなかったら見事にバレた。
それにメアリーちゃんもなんでそんなとこにいるんだよ…。
ユリウスくんはどう説明するつもりなんだろう。
少なくとも4歳児に上手い言い訳が思いつくとは思えないが……。
「ちぇ、ちぇんじ!」
え?
「うぇっ?!?!」
「ひゃっ!いきなりなんです?!」
いきなり表に出てきてしまったんですけど……。
−ちょ、ちょっとユリウスくん!なにしてるの?!−
−いっしょうのおねがい!たすけて!−
ユリウスくんは潔く丸投げしたようだった。自分の能力をよくわかっていて感心感心!一生のお願いここで使っちゃっていいの?
−はあ、わかったよ。次からはがんばろうね?−
−はい!がんばる!−
まあ事の発端は訓練に誘った俺だしな。尻拭いはしよう。いきなりのことで驚いたけど。
「ごめんごめん、まさか見られてると思わなかったからびっくりしたんだ」
「……なんだかいつものユリウスくんとちがうきがします」
「っ!」
メアリーちゃんは顔をじっと見てくる。物凄く怪しそうに。
鋭すぎる!なんだこの子。エスパーかなにかか?ふつうに怖いんだけど……。
「そんなわけないよ。いつもの僕だよ」
「……まあいいです。それで、きのうはおそとでなにしてたんですか!」
うん。どうしよう。なんて言おうかな。交代して出てきたものの、俺も口が上手いほうじゃない。この状況をどうやって切り抜けようか……。
あ、そうだ。
「……メアリーちゃんはおじさん達のこと大好き?」
「あたりまえです!とおさまたちはすごいひとたちです!」
「僕もパパとママのことが大好きなんだ」
「いまはそんなはなししてません!はなしをそらさないでください!」
「まあ聞いてよ。僕はパパ達がすごく強くてかっこいいと思ってるんだ。だからこっそり強くなってパパ達をびっくりたいんだ。きっと、すごく喜んでくれると思う。メアリーちゃんはおじさん達を喜ばせたくない?」
「……おもいます……でもさっきのはなしとなんのかんけいが?」
うんうん。とりあえず話は聞いてくれるようだ。
「僕は大森林の草原地帯までしか行ってないんだ。あそこなら魔物も少ないし安全だよ。街では僕達はまだ魔法の練習ができないから訓練にはうってつけなんだ。そうだ!メアリーちゃんも一緒に来る?おじさんをびっくりさせようよ!きっとすっごく喜んでくれるよ!それに自分の身を守れる力は絶対にあっほうがいいし!」
俺の作戦。それはメアリーちゃんも道連れにしちゃえってことだ。元より俺は対人経験に乏しいから、交渉なんてしたことがない。駄々をこねたことはあるけど。共犯になるなら大丈夫でしょ。
「……きょうのユリウスくんはとってもおしゃべりしますね…」
「……ははは、大事な話だからね……」
しまった。ユリウスくんはもっと可愛らしい口調なんだった。真似するとなると難しいんだよな……。
「……まあ、そこまでいうなら、いちどわたしもつれてってください」
「もちろん!いつでもウェルカムさ!」
俺はキラリと歯を見せてサムズアップした。この身体だからこそできる芸当だ。人の身体だからこそできることもある。
メアリーちゃんは真面目な子だから真摯な思いさえ伝えれば納得してくれるんだと思ったんだ。見事にミイラ取りがミイラになってくれました。
お子様2人で大森林か……ま、たいして危険な魔物も出ないし大丈夫でしょ。
ユージーンさん達が倒してた『地下蛇』みたいなやつが出てきたらちょっとやばいかもだけど、あんなの他に見たことないし大丈夫なはずだ。
「でも今日はママが家にいて大森林に行けないからまた今度でいい?」
「あっ、そうなんですか…ならいっしょにくんれんしましょう!ユリウスくんのほうがじょうずですから!」
「!俺でよかったら!教えるの好きなんだ!」
「おれ?ほんとうにきょうのユリウスくんはへんですね」
「……パ、パパの真似してるんだ。変かな?」
「そうですか。おとこのこだし、ふつうです」
なんとかやり過ごせたようだし、とりあえず今日のところは訓練を一緒にして帰ってもらおう。
メアリーちゃんも才能があるみたいだし、どうなるのか楽しみだ。
−ユリウスくん、メアリーちゃんに魔力制御の訓練を教えないといけないからこのままでも大丈夫かな?−
−だいじょーぶ!アキトありがとー!−
てことで、俺はメアリーちゃんと修行した。
新たな発見だったがこの身体がある状態では、魔法だけでなく魔力も扱いやすくなるようだ。
やっぱり身体を持った状態こそが人間のあるべき姿なんだろうか……なんてことを思ったりした。
ーーーーーー
数日後、約束通りメアリーちゃんを連れて大森林の草原地帯に来た。
ちなみにまたもやユリウスくんは身体を放棄し、メアリーちゃんの相手を俺に丸投げした。早くも二度目の一生のお願いが叶えられたのだ。幸せ者だな。
「ね?ここに来るまでも魔物はいなかったでしょ?」
「そうみたいですね」
「だからパパ達にも秘密で大丈夫なんだよ!」
「それはいいこととおもいませんけど……わたしもがんばります!」
安全を確認した今でも彼女は納得いかないようだ。
本当に真面目な子だ。マックスさんの教育の賜物なのだろうか。
「とりあえず魔法の訓練を始めようか。メアリーちゃんももう使えるんだったっけ?」
「はい!とおさまにほめられました!」
訓練は好きみたいなんだよね。褒められることが好きなのかな。
「すごいね!見せてもらってもいい?」
「まかせてください!【れーてる】れいんふぉーすふぁいああーまめんと!」
「おお!」
−すごい!ぼくもあんなになってるんだよね!−
−そうだね、魔法ってすごいよね−
彼女の魔法を見て、各々感想を呟く。まだ魔力の流れに粗があるが、4歳の子どもにそこまで求めるのも酷だろう。ユリウスくんと同様に、今後に期待大である。
「ユリウスくんのまほうもみせてください!」
「え?ああ、いいともいいとも」
まあそうなるよね。間違いなく見せ合いっこになるよね。
−ユリウスくん、魔法撃ってくれない?なんでもいいからさ。−
−あい!【れーてる】ばーすとさんだーれいん!−
「【神秘】バーストサンダーレイン」
俺が実際に魔法を発動するわけではないので、適当に魔名を唱えて手を掲げる。
すると、前方の何もない空間から地面に向かって雷が降り注ぐ。前方の半径5メルターぐらいに雷が荒れ狂う空間が出来上がった。
これは俺が考えてユリウスくんに教えた魔法だ。
たぶんユリウスくんがもっと魔力制御できるようになれば、もっと広範囲に発動できるはずだ。
「す、すごい……!」
「へへへ、すごいでしょ!訓練の賜物だよ!」
「わ、わたしもいっしょにくんれんすればできますか?」
「うーん、系統が違うから同じのは無理だけど、やっぱり鍛えるほど魔法は強くなるね!」
「そうですか!がんばります!」
やっぱり魔法ってかっこいいからね。全人類の心をたきつけちゃうよね。しょうがないね。
それから、メアリーちゃんにはとにかく基礎である魔力制御の重要性を説き、一緒に魔力制御の訓練をした。
俺は魔力の流れが見える。だから粗があればすぐ指摘出るから、効率良く訓練できる。
ちなみにユリウスくんも一緒に訓練していた。
魂の状態の暇さ加減は俺にはよくわかるよ。
ーーーーーー
そろそろ夜の空に変わるんじゃないかと思い、帰ろうとしたとき、俺は魔物の気配を感じた。
気配の方向に視線を向けると、30メルターほど先に熊がいた。血のように赤い色をした巨大な熊だ。初めて見る魔物だ。けどわかる。こいつはヤバい。
俺達をじっと見ていたそいつは、俺とメアリーちゃんが目を合わせて逃げようとしたのを察したのか、猛スピードでこちらに迫ってきた。
咄嗟の動きに俺達は固まってしまい、逃げる機会を完全に失ってしまった。
なんでメアリーちゃんがいるときに限ってこんなピンチに直面するかね?
メアリーちゃんが主人公体質なのか、ユリウスくんが巻き込まれ体質なのかはわからないが、この状況が訓練史上最大の危機であることは明らかだった。




