19:必殺と書いても必ず殺すわけではない
あれから数日後、ユリウスくんはまたもや大森林に出かけていた。というより、俺が連れてきてもらった形だ。
森林地帯に入らず草原地帯で訓練するといっても、やはりあまり人目につきたくない。それに人気のない場所に行くには多少時間がかかる。そして時間がかかる以上、頻繁にはここに来ることはできない。
そういったこともあって、ユージーンさん達の目を抜けて大森林でこっそり訓練することは珍しかった。魔力制御の訓練は家でできるからね。
今回来たのは俺の魔法を確かめるためだ。
マックスさんの魔法を見たあの日から、何度も彼の魔力の流れを思い出し、魔法のイメージを繰り返した。
今回は絶対成功させる。
魔法が発動できなくてもユリウスくんの戦いを手伝う目処はついている。しかし、使えるに越したことはない。魔法という男のロマンに突き動かされてる感も否めないけど。
–じゃあ、ユリウスくん。始めるよ−
–がんばってね!–
俺は魔力を高める。
そして、何度もイメージしたマックスさんの魔法を発動する。
−【神秘】レインフォースファイアアーマメント!−
……どうだ?成功したか?
「うわー!あつくないのにもえてるー!すごいすごい!」
よかった。無事に成功したようだ……。
俺の身体ならいくらでも練習できるが、ユリウスくんの身体だからな。冷や汗が出る。出ないけど。
成功する自信はあったが、やっぱり緊張した。
−身体の調子はどう?−
−うん!なんかびゅんびゅんうごけるきがする!−
よしよし。実際のところ、この魔法の効果はよくわからなかったが、強化系の名の通りしっかり身体強化されるようだ。
−試したいことがあるんだけどいい?その状態で魔法って使える?−
−できるとおもう!−
−やっぱりか……もうユリウスくん最強じゃない?−
−さいきょー!なんでなんで?!−
−ユリウスくんだけ魔法適性が2つだからね、他にいないんじゃない?−
−ぼくだけ!−
俺の《強化系》とユリウスくんの《放出系》。お互いの弱点を補える以上、なかなか強力じゃないだろうか。もちろん努力は必要になるだろうけど。
未だ燃え続けるユリウスくんは飛び跳ねたりして、新しい力を楽しんでいた。
−【れーてる】ばーすとふぁいあらんす!−
–よかった!俺が魔法を発動しているときでも無事に使えるみたいだね!–
−アキトもやってみる?!−
−入れ替わるやつ?やるやる!−
−りょーかい!ちぇんじ!−
そして、身体の主導権が入れ替わる。
突然替わることを防ぐために交代前には『チェンジ』と言ってもらうことにした。安直なのは許してほしい。
「おお!これが魔法か!すげー!」
俺はその場で跳んでみたり、走ってみたりした。
確かに身体が驚くほど軽い。
子どもの限界を超えた動きなんて楽にできそうだ。
「【神秘】レインフォースサンダーアーマメント」
新たに魔法を唱える。
今度は前回のリベンジで雷の鎧だ。
バチバチと雷が全身を覆う。いやほんと、なんで雷に覆われて無事でいるんだろ。こんなこと言い出したらキリがないんだけど。ただ、見た目はものすごくかっこよくなっている事だろう。満足だ。
俺は再度身体を動かし魔法の使用感を確認した。
「魔法の属性を変えても効果が劇的に変わるわけじゃないみたいだな。もちろん相手に与えるダメージは属性によって変わってくるだろうけど」
ただ、ユリウスくんの中にいたときより魔法が扱いやすくなっている。魔力を魔法に変質化させるときに一段階手順が増える感じ。
違いといえば身体の有無だけど、やっぱり身体があった方が魔法って扱いやすいのか?
それにしてもまともに身体を動かすなんていつぶりだろう。
前世も合わせて十数年ぶりかもしれない。
意図せず表に出てしまったときはそれどころじゃなかったし、宴会のときもご飯を食べただけだからな。
こんな得体の知れない俺に身体を貸してくれるなんて、子どもだからといってそうそうできることじゃない。……ユリウスくんの優しさになんだか涙が出てきた。
−ユリウスくん、ほんとにありがとね−
−アキトがたのしそうでよかった!−
−楽しいよ。本当に。君に出会えて本当によかった−
−えへへ、ぼくも!−
父さん、母さん。俺は元気でやってるよ。
めちゃくちゃ複雑な状況だけど、そんなのたいして気にならないくらい楽しくやってる。
弟みたいな子と一緒に異世界で頑張ってるよ。
−よし!ユリウスくんありがとう!元に戻って大丈夫だよ。他に試したいこともあるしね−
−はーい!ちぇんじ!−
そうして俺たちは元に戻った。短い時間でしたがお世話になりました。
–ためしたいことってなぁに?–
–ユリウスくんも剣で戦うでしょ?俺も魔力の腕で剣を持って戦おうかと思ってね!−
−なんだかすごそう!−
そうなのだ。すごいのだ。
魔法を発動している最中は魔力を操ることができない。
これはさっき魔法を発動したときに確かめた。少なくとも、今の俺では。
そして、魔力の流れはふつうは見えないはず。見えていたら俺の存在は既にバレているだろう。
つまり俺は魔法を使ってユリウスくんを強化するか、魔法を使わず魔腕で剣を持ちユリウスくんと一緒に戦うことができるのだ。
ということで、まずはで魔腕で大きめの石を拾う。左右1つずつだ。
今は自分の剣がないので石で殴打するスタイルでいくことにした。
ユリウスくんも木剣を抜き手頃な雑魚魔物を探す。
狩って持って帰ると大森林に行っていたことがバレてしまうので、魔物が逃げる程度に戦闘したら逃がすつもりだ。これぞキャッチアンドリリース。
ユリウスくんは小さいながらに親の背を見て育ったからか、魔物を殺すこと自体に忌避感はない。
しかしそれは決して殺しが楽しいからではない。命の恵みに感謝し、生きる上で必要なことだとわかっているからこそのものだ。
なので、狩って持って帰りもしない無益な殺生は行わない。
俺は基本的にユリウスくんの考えに任せている。
こんな怪物がポンポン出てくる世界では、殺したら可哀想なんて言ってられないし。自分達の命がかかってるんだ。
魔物を殺すことに躊躇った挙句、ユリウスくんに危険が迫るのなら俺は喜んで魔物を殺そう。
しばらく歩くと全身から針が生えたいも虫に出くわした。
ユリウスくんの目線ほどの大きさを持つそいつは、シンプルに気持ち悪かった。
まだ日本の感覚が抜けきっていないからか、虫類に対する嫌悪感は未だにある。この世界ではこれも食用なのかな。
俺が考え事をしながらも石を構えると、ユリウスくんも剣を構えた。
−ユリウスくん、準備はいい?−
−うん!ばっちりだよ!−
俺たちが戦闘態勢に入ると、いも虫はその場で飛び上がってから身体を丸め、高速で回転しながらこちらに迫ってきた。
おいおいおい!なんで空中でそんなにグルグルできるんだよ!しかもいも虫のくせにスピード型ってなんだよ!変なギャップ持ってくるな!
このままでは剣一本のユリウスくんが危ないので、石を持った魔腕でいも虫を横から殴り飛ばす。
必殺『不可視殴り』。
やっぱりね、何事にも必殺技って大事だと思うの。
この世界では特にイメージが大事だからね。魔法を使わない場合はイメージいらないんだけど。
殴り飛ばされたいも虫はどこから来たかわからない攻撃に困惑しているようだった。虫だけどなんとなくわかる。
−ユリウスくん!いまだ!−
−うん!−
「やー!」
俺は魔腕でいも虫をその場に抑えつけ、それをユリウスくんが木剣で斬る(殴る)。
ダメージを負ったいも虫はもう一度その場で飛び上がり回転した。戦闘が続くかと思いきや、向きを変えて逃げていった。
攻撃にも逃亡にも使える良い技だな。
ふーーー。それにしてもユリウスくんの魔物との軽い戦闘のつもりが、また過保護っぷりを発揮してしまった。
正直、今回のユリウスくんは攻撃を止められて身動き取れなくなった魔物を超安全に殴っただけだからね。
これじゃあさすがに意味がないし、次からは俺が手を出すのは控えよう。もちろん少しでも危険があれば手を出すつもりだ。
−よし、あと1匹ぐらい戦ったら帰ろうか−
−りょうかい!−
そうしてもう1匹雑魚狩り(殺してはいない)してから。家に帰ってスヤスヤと寝た。
ユリウスくんが寝た後、俺はまだ見ぬ魔法の可能性を発見するために今日も魔力制御の訓練を行うのだった。




