17:魔法がある世界では大きさなんて大した問題じゃない
「まだ魔力の制御も上手くできないだろうが、一度俺の強化系魔法を見ているといい。メアリー!ちゃんと見ておくんだぞ!」
「はい!とおさま!」
「ユリウスも見ておけ!」
「りょーかい!」
「では行くぞ!【神秘】レインフォースファイアアーマメント!」
マックスさんの全身を魔力が覆い、その魔力の外側に炎が迸る。
俺は魔力の流れを見逃さないよう注視した。
そして、気づいた。
マックスさんの身体の内側に魔法が発動していない。正確に言えば、身体の外側の炎の余波が体内に巡っていた。
俺は以前、全身を雷で満たすイメージで魔法を発動した。もしかすると身体の外側だけに魔力を走らせる必要があるのかもしれない。
–ごめん、ユリウスくん。マックスさんに強化系魔法の発動イメージを聞いてみてくれないかな?–
–?いいよ!–
これはさすがに確認するしかない。自分が間抜けすぎる。
「とおさまかっこいいです!」
「ははは!そうだろうそうだろう!だがこのぐらいメアリーもすぐ出来るようになるぞ!天才だからな!」
「ねえねえおじさん、どうやってまほうしてるの?」
「ん?イメージのことか?たいがいの強化系魔術師は鎧をイメージして魔法を発動するぞ。」
–そうじゃなくて、身体の中のことを聞いてほしい!お願いユリウスくん!–
「それってからだはだいじょうぶなの?いたくないの?」
「はっはっはっ、そんな馬鹿はいない!」
ソンナバカ、イナイ。残念でした。ここにいますよ。
「自分の魔法といっても、魔法だからな。身体にダメージのないように身体の外側にだけ魔法をイメージするんだ。これには慣れが必要だから、《強化系》が扱いにくい系統だと言われている所以だ!」
「なるほどなるほど」
「ユリウスは勉強熱心で感心だな!だが、メアリーはやらんぞ!」
–アキト、もういい?–
–ああ、ありがとう。十分だ。自分の馬鹿さ加減に驚いちゃったよ……–
–んー?げんきだして!–
やっぱり俺のイメージに問題があったようだ。
ふざけていたわけではないが、前世の漫画のイメージで試してみて痛い目にあったわけだ。
つまりはユリウスくんの身体をいたずらに傷つけてしまったことになる。本当に、新しいことをするときは細心の注意を払わないとな。
「メアリーはまだ魔力制御はできないだろうから、魔法も上手く扱えないだろう。だからしばらくは制御の訓練だ!地味だが基礎は大事だからな!」
「はい!がんばります!」
「じゃあユリウスは剣術の訓練をするぞ。その後に魔法も少しやろう」
「はーい!」
ユリウスくんは木剣を構える。
木剣もまだ4歳だから仕方ないね。さすがに鉄の剣とか振れないしね。
ユリウスくんがユージーンさんに向き合ってしまったので強化系魔法の訓練は見れそうにない。残念だが、剣術でも俺は試したいことがあるし、剣技の訓練に集中した。
ーーーーーー
「よし、一通り型の確認も終わったし次は魔法の訓練だ。マックス!お前達も見るか?」
「おう!お手並み拝見といこう!」
「がんばってください!」
「うん!みててー!」
剣術の訓練が終わり、魔力制御の訓練で少し汗をかいたマックスさん親子に見守られながら魔法訓練は始まった。
「この前はファイアボールから始めたから今日は少し難易度を上げよう。準備はいいか?」
「うん!」
「ではいくぞ。【神秘】バーストファイアランス」
ユージーンさんが唱えると、炎でできた槍が現れ前方に発射された。
まあファンタジー小説にありきたりな技だ。
ということで、ユリウスくんは俺との訓練中にこの魔法は既に練習しているので、
「【れーてる】ばーすとふぁいあらんす」
ユリウスくんが発射した炎の槍が、先ほどの槍と同じ場所に着弾する。
ちょっとユージーンさんのより大きかったかな。メアリーちゃんがいたから張り切ったのかもしれない。ユリウスくんも男の子だね。
「…ふ、ふふふ。まあ俺の最低威力のファイアランスより強い威力のものをユリウスは出せるんだ。すごいだろ?」
「………おいおい、まだ4歳だろ?普通なら魔力制御すらできるはずもないのに、ほんとにどうなってんだよ……」
「じ、実は流石に俺も驚いていてな。天才の一言では括れない気がしていたんだ」
「天才というよりこれは……いや、よそう。子どもに向かって言うことじゃあない」
口をあんぐりと開けていた父親達は戸惑っているようだ。
どうだすごいだろう。俺との魔力制御訓練の賜物だ。もちろんユージーンさんとの訓練のおかげもあるが、魔力制御という面では俺の方が役に立っているだろう。
悲劇のレインフォースサンダー事件以降、ユリウスくんに何があっても大丈夫なようにごりごり訓練しているからな。自重していてもあまりメリットは思いつかないし。
「ユリウスくんすごいです!すごすぎです!!」
「えへへへ〜いっぱいれんしゅうしたんだ!」
「メアリーももっとがんばります!」
ユリウスくんも嬉しそうで何よりである。
がんばるんだぞメアリーちゃん、ユリウスくんはもっと強くなるからな!必死で追いつくんだぞ!
「パパ!きょうもあたらしいのしたい!」
「よかろう。どんどん俺から吸収するが良い」
「お前ら親子はどこに向かってるんだ……」
「とおさま!メアリーもがんばります!」
「メアリー…お前は天才だが、適度に成長するんだぞ?」
「?わかりました!」
ユージーンさんが魔法をぶっ放し、ユリウスくんがそれを真似する形で訓練は続いた。
メアリーちゃんはまた魔力制御訓練に戻ったようだ。
しばらくすると、森から魔物が出てきた。
透明に輝く鎧を纏った巨大な象だ。口元からは角のように長い牙が伸びていた。全長5メルターはあるかもしれない。
とにかくユリウスくんが見上げる程度にはでかい。
この草原地帯にあんな魔物が現れるのは珍しいが、散々魔法を乱発していたから騒音にムカついてやってきたのかもしれない。
「バォォオオオオオオ!!!」
「おお!『金剛毛象』じゃないか!メアリーの新たな成長の日に相応しい魔物だな!」
「確かに縁起がいいな。どうだ?たまには二家族一緒に飯でも食うか?」
「悪くない!今日はお前達を我が家に招待しよう!」
「ユリウスくん!ど、どうしましょう!」
「ぱぱたちはつよいからだいじょうぶだよ!」
どうやら彼(魔物)がかねてから噂の『金剛毛象』さんらしい。
ユリウスくんの第一声記念パーティーで食卓に並びかけたあのお方だ。めちゃくちゃでかいが、あのときユージーンさんが1人で狩りに出たことを考えると十分対処できる魔物なんだろう。威圧感すごいけど。
そんな会話をしていると、『金剛毛象』は地面を踏みつけた。
ズシンと地面が揺れ、父親達は咄嗟に子ども達を抱えて後ろに飛んだ。
すると、何もない地面から石柱が伸びた。そこに向かって『金剛毛象』は突進し牙を突き上げる。
「あぶねえあぶねえ。普段だったら楽に避けられるが、子ども達がいるとそうもいかねえな」
「ああ、手早く済ませよう。メアリーちゃんは俺に任せろ。遠距離主体の俺が見ていた方が良いだろう」
「「うぇぇぇぇぇぇぇん!!!!」」
……もしかしなくても、『金剛毛象』って結構強くないか?
石柱で標的を空に突き上げ、空中で身動きが取れないところを狙って牙で串刺しにする。シンプルだがエグい技だ。でかいだけでも面倒なのに魔法も使えるなんて卑怯だろ!
いや、ていうか魔物も魔法使えるのかよ!ユージーンさんやジェシカさんからそんなこと聞いてないぞ!
いや、そもそも大森林にユリウスくんが1人で行っていることを知らないから言わなくて当然か……。
それにしても地中から突撃してくる巨大蛇といい、でかいモンスターは初見殺しが多い気がする。クソが。
子ども達は驚いて大泣きしていた。
「お前は素材としても高く売れるからな!綺麗に殺してやるぜ!【神秘】レインフォースウインドアーマメント!」
「【神秘】バーストウインドスラッシュ」
「バオオオオオオオ!!!」
マックスさんが全身に風の鎧を纏う。
かっこいいな。漫画とかでよく見る、全身を竜巻が覆う感じだろうか?
ユージーンさんはその隙にダイヤモンドマンモスの左足の関節に向けて風の斬撃を放つ。
鎧に覆われていないマンモスの関節部分は一撃で切り飛ばされた。
そして、体勢を崩したダイヤモンドマンモスにマックスさんが襲いかかる。
「必殺!!爆風旋回!」
マックスさんがダイヤモンドマンモスの首下から風を纏わせた剣を大きく振り上げると、ブォンという音と共に明らかに剣の間合いを超えたマンモスの首が斬り落とされた。
本当に瞬殺だった。
あの油断も頷けるほどに、圧倒的だった。
改めて魔法の無限の可能性を感じた。ユリウスくんもあのぐらい強くなるんだろうか。
俺も頑張らないといけない。こっそりマックスさんを師匠だと思っておこう。
「とおさまもおじさまもすごいです!すごすぎます!!」
「かっこよかったー!!」
「ははは!こんな森の手前に出てくるような雑魚に遅れを取ったりしねえよ!」
「その通りだ。あの程度はお前達でもすぐにできるようになる」
子ども達の語彙力が死んでいく中、大人達は本当に何でもないことのように言う。
大きいだけである程度の脅威を感じてしまうからな、子ども達はまずはそこから慣れていかないといけないのかもしれないな。
「よし。今日はでかい獲物も取れたし、そろそろ帰るか」
「だな!一旦家に帰ってから俺の家に来るといい!今日は宴会だ!」
「えんかいです!」
「わーい!えんかい!」
お祭り騒ぎの子ども達を連れて俺達はそれぞれの家に帰った。
今日は得るものが多かったから非常に良い一日だった。もう一度俺も《強化系魔法》を練習したいものだ。
ちなみに、巨大な『金剛毛象』の遺体は魔法で身体を強化したマックスさんが持ち上げて持って帰った。
化け物かよ。




