16:天才ロリ
「昨日ぶりだな!」
「おひしぶりですユリウスくん、おじさま!」
「メアリーちゃんひさしぶり!」
翌日、マックスさん達がユリウスくん達の元へやってきた。
丁寧な敬語で話す彼女はメアリー・ハルトマン。マックスさん達の一人娘で、黄金のように輝く金色の髪に空のような碧い瞳を持った少女だ。
今日は子ども達の秘密の特訓のために大森林に向かうので我が家に集合した。
「メアリーちゃんはもう《回復系》の魔法が使えるようになったんだってね。すごいじゃないか」
「えっと、かあさまがおりょうりしていて、ちがでちゃって、いたいのとんでけっておもったら、それでまほうができました!」
「そうかそうか、お母さんを助けようとしたんだね。メアリーちゃんは優しいんだね」
「メアリーちゃんすごい!」
「メアリーには何度か魔法を見せていたが、まさかいきなり回復魔法を発動するとは思わなんだ!さすが我が愛娘だ!」
ユージーンさんの質問にメアリーちゃんがたどたどしくも答えると、マックスさんは喜色満面で娘を褒める。うーん、この父親達、同じ匂いを感じる……。
それにしても、《回復系》には何か条件みたいなものがあるのだろうか。生まれ持っての適性は別にあるみたいだし。
–ユリウスくん、《回復系》について、ちょっと聞いてみてくれない?–
–みんながいるのにアキトがしゃべった!–
–はは、ちょっと気になってね。なんで《回復系》になるか知りたいんだ–
–いいよ!ちょっとまっててね!–
ユリウスくんが誰かといるときは混乱を避けるために話しかけることは避けていた。が、今はメアリーちゃんの話題になっていたし、大丈夫だろう。
「ねえねえ、れめでぃってどうすればなれるの?」
「《回復系》の適性を持つ子は優しい子が多いと聞くな。誰かを助けたいと願ったとき、頭の中に魔法のイメージが浮かんでくるそうだ」
「そうだぞ!メアリーは優しい子だからな!ちなみに怪我を治す治療者と病気を治す治癒者がいるんだ!よく覚えておくがいい!」
「わたしはじゅにーる?みたいです!」
「なんだかすごそう!」
「そうだな、パーティに治療者がいるといないとでは大違いだ」
「メアリーちゃんはすごいんだね!」
「えへへ、ぜんぜんそんなことないです」
マックスさんはとても鼻が高いようだ。聞いてもいないことを嬉々として教えてくれた。ありがたいんだけどね。
治療者とやらはたしかに魔物と戦って怪我をしたときにはとても重宝されるだろう。
魔物が頻繁に出現する大森林も、街を覆う壁から近いわけではない。一刻も早く治療が必要な状況を想定すれば、そのありがたみがわかる。
とゆうか、ユリウスくんも《回復系》の適性あるんじゃないの?超優しいよ?天使だよ?
「よし。それじゃあ話はここらへんにして、そろそろ大森林に向かうか」
「おお!メアリーの偉業への道は今日から始まる!!」
「「おー!!」」
キリの良いところで会話が締められ、俺たちは大森林へと向かうことになった。
ーーーーーー
大森林といっても今日もまたその手前の草原地帯だ。
森林地帯に向かうまでの通り道ではあるものの、ここに用がある人は少ない。そのため人目につきづらく、魔物もあまり出現しないので訓練には最適なのだ。森の中で火の魔法なんて使うと下手すれば火事になりかねないしね。
「着いたら聞こうと思ってたんだが、メアリーちゃんの適性はなんだったんだ?」
「よくぞ聞いてくれた!なかなか聞いてこないから口が裂けそうだったぞ!」
「いいから早く言えよ……」
「なんと《強化系》だ!親子3人揃ってな!これぞ家族の絆だ!」
「それは珍しいな、適性は遺伝しないというのに」
「残念だがユリウスとメアリーは系統が違うから同じ訓練はできそうにないな!」
「いや、そのことなんだが、ユリウスは《放出系》だ。近距離戦闘に弱くなる恐れがある。だから俺が剣術を教えつつ、メアリーちゃんには稽古相手になってもらいたいんだがいいか?ちょうど《強化系》だしな。メアリーちゃんの訓練にもなるし一石二鳥だろ?」
「ふむ、それは構わんぞ!」
「助かるよ」
どうやら父親達の会議により訓練の方向性が決まってきたようだ。
それにしても《強化系》一家か、これは俺も学べるものが多いはずだ。
だいぶ先延ばしにしようとしていた魔法訓練だったが、これは俺にとっても大チャンスみたいだな。
「一緒にがんばろうね!」
「はい!がんばります!」
ちびっ子2人がやる気をみなぎらせ、父親達主導の下、訓練が始まった。
ーーーーーー
2人の適性が違うからといっても、離れて訓練するわけではない。
ちびっ子2人は1メルター程の距離を空けて横に並んだ。
「それじゃあ早速始めよう。メアリーちゃんは魔力の制御方法はわかるかい?」
「うぅ、きのうはきづいたらできたです…だからよくわかりません……」
「お前達と一緒にするんじゃない。普通は魔法を教えるにはまだ早いんだからな!」
「確認しただけだ。じゃあ魔力の確認から始めよう。これはどの適性にも共通しているからね。まずは身体の内側から力を引き出すイメージだ」
「は、はいっ!むむむ…っ」
「メアリーちゃんがんばれーっ!!」
「メアリーならできる!必ずできるぞー!!!」
一見マックスさんが負けず嫌いみたいに聞こえるけど、ルール違反してたのはユージーンさんだもんな。
そう考えるとマックスさんは意外に真面目なのかもしれない。いや、ユージーンさんが無茶苦茶なだけかも……。
メアリーちゃんが魔力を引き出そうとして、3分が経った頃。
「っっ!できましたっ!」
「さすが俺の娘だ!コツを掴むのは難しいはずなんだがな!」
「いや、ほんとに早すぎないか?普通は1日はかかるんだぞ?下手すれば2日かかる人もいるんだぞ?いくら一度回復魔法を使ったことがあるからって、自信を無くしそうだぜ……全く、最近の子ども達は……」
「やったねメアリーちゃん!」
メアリーちゃんは無事に魔力を引き出した。
俺が苦戦し、ユリウスくんの魂を見ることでようやく理解できたことから考えると、この子は本当に天才かもしれない。
「そういえばユリウスは魔力を引き出すのにどれだけかかったんだ?半日ぐらいか?」
「いや、それが…」
「なんだ、2日か?別に恥ずかしいことではないぞ?なんせまだ4歳だからな。メアリーが特別なだけだからな。ほら、言ってみ?」
「それが、俺が教えようとしたらすでに扱えていたんだ」
「扱えた?引き出すだけじゃなく?」
「そうだ。ばっちり制御できていた」
マックスさんは訝しむようにユージーンさんを見る。
ユリウスくんにはすでに俺が魔力の制御の仕方を教えてたからね。
まあでも、俺がユリウスくんの身体の中で魔力を訓練していたこともあってか、彼は魔力を引き出すのに1分もかからなかったことは記憶している。
あのときも彼の成長を喜んだものだ。
「おいおい、いくらなんでもおかしくないか?」
「俺もそう思ったんだが、1人で外にいるときに街の誰かに聞いたのかと思ってな。そもそもユリウスは俺に似て天才だから1人でやってのけたのかもしれんしな」
「変なとこでバカしてんじゃねえよ!…ったく、他に変な様子は無かったのか?」
「ユリウスは天才だぞ?これは事実だ。そうだな……うん、特にそんな様子はないな」
「…ならいいけどよ。一応気をつけろよ。何かあったら遅えんだぞ」
「心配してくれるのはありがたいが、メアリーちゃんも大概だからな?そもそも俺のあの説明で出来るようになると思ってなかった」
まさか俺のせいでユリウスくんが変な事件に巻き込まれていると疑われるとは。
だが、俺は彼を守るためにも訓練は怠らない。魔物なんてヤバイ生物がいるこの世界では、どれだけ強くても損はない。後悔先に立たずと言うし、彼の安全のためにも俺はなんとしてもユリウスくんを強くするのだ。
意外にも真面目なマックスさんと、意外にもポンコツなユージーンさんの会話を他所に、ちびっ子2人はハイタッチして踊っていた。
「それじゃあ、ユリウスは剣術の訓練を始めるぞ。うかうかしてると《強化系魔術師》にはすぐ追いつかれてしまうからな」
「はーい!」
「よし!メアリーも次は魔力の制御だ!ユリウスに負けるわけにはいかんぞ!」
「がんばります!」
ちびっ子ダンスも終わり、それぞれの訓練が始まった。
早くメアリーちゃんの魔法訓練が見たいものだ!




