15:ヒロイン候補
−ーーうぅっ−
俺が周囲を警戒していると、ユリウスくんが声を漏らした。
–っっ!!ユリウスくん?!–
–あきと…?ここどこだっけ–
–大森林で魔法の訓練をしてたんだよ。それより大丈夫?–
–ん〜なんかしぱしぱするけどだいじょうぶだよ?なんで?–
–お、覚えてない?……ごめん、俺がユリウスくんを傷つけちゃったみたいなんだ–
–アキトはそんなことしないよ?
–わざとじゃないんだけどね、君を傷つけてしまっことは本当だよ–
ユリウスくんの意識が戻って本当によかった。しかし、全力の信頼が辛い……。想像通りに俺の魔法が原因なら、俺の見通しの悪さが招いた結果だ。
無事だから、なんて言葉は無事だったからこそ言えるけど、取り返しのつかない事態になっていた可能性もあるんだ。
今回の件は肝に命じておかなければならない。
–でも、アキトがぼくをまもろうとしてくれてたのはわかったよ?–
–それはそうだけど…え?わかったの?–
–なんかね、あったかかったんだ〜–
–あったかい?–
–あんまりおぼえてないけど、アキトがまもってくれてるっておもった!–
俺は魂の状態でいるときにユリウスくんの感情はわからない。ユリウスくんの反応から彼の気持ちを予想しているだけだけど、気絶していた彼は俺の反応なんて見ていないだろうに。あれか?前世は天使だったりするのか?いい子すぎない?
それはさておき、ユリウスくんが無事で本当に良かった。ユリウスくんが死んでしまったら俺はどうなるかわからない。けど、彼のためなら俺は命を投げ出すだろう。
もっと彼の力になれるよう努力しよう。少なくとも魔力は動かせるわけだし。
–ねぇ、とっくんはもういいの?–
–俺が特訓するとユリウスくんがいたくなっちゃうからね、いまはやめとくよ–
–いたいのはやだな…–
–しばらくはまた魔力の訓練をするよ。それより!ユリウスくん!俺と魔法の開発しよう!パパを驚かせよう!–
–なにそれ!する!–
《強化系魔法でのユリウスくん強化作戦は一時中断したが、ユリウスくんの魔法を強化することで彼の助けになるはずだ。
俺には前世の知識がある。外に出ることのなかった俺のザコ知識でも少しは役に立つことができるだろう。
「よし、じゃあまずは炎の壁を作ってみようか!」
そうして、俺たちは魔法の訓練を再開したのだった。
ーーーーーー
「ユージーン!いるか!」
あれから数日後、家でゆっくりしていると近所に住んでいるマックスさんが家にやってきた。
マックスさんは狩人で、ユージーンさんの同業者ということになる。
「なんだ、騒々しいぞ。魔物でも攻めてきたか?」
「ちげぇよ!聞いて驚け!メアリーに《回復系》の素質があることが判明した!」
「なに?メアリーちゃんはユリウスと同い年だろう?」
「ふはは!メアリーは天才なんだ!俺たちの狩りを見ていただけで魔法を使ったんだ!」
メアリーちゃんとはこのマックスさんの娘で、金髪碧眼の女の子だ。マックスさんも狩人で、そんな親同士の繋がりからユリウスくんとも何度か会ったことがある。まあ、そんなに深い仲ではない。普通のご近所さんって感じだ。
「ねえねえ、れめでぃってなあに?」
「ああ、ユリウスにはまだ言ってなかったな。《回復系》は…そうだな、傷ついた人達を癒す力だ」
「ほぇ〜なんかすごそうだね!」
「ふはは!そうだぞユリウス!よくわかってるじゃないか!メアリーはやらんがな!」
「それはそうと、もしかしてメアリーちゃんは他にも魔法が使えるのか?」
「魔水晶で適性を図るのは5歳になってからだろう?メアリーはまだ4歳だ。適性もわからないのに魔法を教えてるわけがないだろう」
「ぐっっ、そ、そうだな。そうだよな」
《回復系》か。回復魔法ってところかな。なにそれめちゃくちゃ優秀じゃないの…
しかも話を聞いている感じだと、回復系の他にも適性があるのか?チートすぎるだろふざけんな!
それにしても、魔法の適性を図るのって5歳からなんだ……しれっとルールを無視してるユージーンさんだが、それほど自分のようになりたいと言うユリウスくんに感動したのだろうか。やはり親バカは健在のようだ。
「なんだその反応は。お前まさか…」
「いやいや、そんなわけないだろ。5歳に適性を図るっていうのはただの暗黙の了解だが、一応みんな守っていることだしな」
「ユリウス、お前魔法は使えるか?」
「え?ひのたまならだせるよ!」
「ユリウス!!」
時すでに遅し。純粋無垢なユリウスくんはあらかじめ止められていない限り素直に返事をするのだ。
「火の玉を出すっつーと、《放出系》か……てめえユージーン!なにやってんだよ!」
「……ははは!実はユリウスが俺のようになりたいと言ってくれてな。それはもうキラキラした瞳だったぞ!そんなユリウスのためなら、暗黙の了解なぞ知ったことか!俺は周りに白い目でみられようとも構わんからな!」
「こ、こいつ…開き直りやがった!」
「ふん!ユリウスはもう魔法も使えるぞ!どうだ!メアリーちゃんにも負けんぞ!!」
ユージーンさん…格好悪すぎるよ…親バカが炸裂しすぎて残念な大人になってしまうのが玉に瑕だ…
「ぐぬぬ…しかしこのことがバレたらユリウスも白い目で見られるんだぞ!お前はそれでもいいのか?!」
「な、なんだと?!」
「当たり前だろうが!逆になんで大丈夫だと思ってるんだ!?」
「いや、だってこんな可愛い子にひどいことするやつがいるはずないだろ?人のすることじゃないだろ」
「お前……」
マックスさんのゴミを見るような視線がユージーンさんに刺さる。ユージーンさんはなぜそんな目で見られているかわからないようで、首を傾げていた。
ユージーンさんはね、息子と嫁のことしか見れてないからね。しょうがないね。魔法は超一流らしいんだけどね。
「ぱぱ、ぼくきらわれちゃうの?」
「大丈夫だ、そんな奴らは消し炭にしてやるぞ」
「まあ待て。そこで天才なメアリーのパパで天才のマックスさんの出番だ」
まあユリウスくんが嫌われることはないけどね、可愛いからね。
ユージーンさんが物騒なことを言い始めると、悪い顔をしたマックスさんが話を切り出した。
「要はバレなきゃいいだけの話だ。今日みたいな調子じゃいつバレるかわからんぞ?お前も無駄に生きづらくなりたくないだろう」
「それはそうだが……」
「そこでだ。俺もメアリーの魔力適性を図る。そして俺とお前で2人を鍛えるぞ。俺はユリウスくんのことは黙っていてやるし、お前もメアリーのことを黙ってろ。そうすれば情報が漏れることはないだろう。それに、メアリーに悪い虫も寄ってこなくなる」
「なるほど、つまりはメアリーちゃんの適性を早く知りたいだけだな」
「ふはは!そうとも言う!」
マックスさんは笑いながらそう言った。
…そもそも魔法の発動には【神秘】と唱える必要があり、日常的に使うことはあまりない。
だから人に見られてバレる可能性は少ない。
そして知り合いに見られない限り、ユリウスくんが4歳か5歳かなんてわからないだろう。
だから適性を調べていることがバレるなんてことは今日が特別で、滅多に起きない。
にも関わらずこんな取引を持ちかけてきたのはユージーンさん、引いてはユリウスくんを安心させるためだろう。
メアリーちゃんの魔法適性を図ることをユージーンさんと共有する意味はないはずだ。自分たちが弱みを見せることと引き換えにユージーンさんを安心させる、そのためだけの取引。マックスさん側にはなんの得もない。
マックスさんもわかりづらい人だ。親バカのユージーンさんはこの気遣いに全然気づいてなさそうだ。ユージーンさん……。
「じゃ!俺は早速愛しのメアリーの適性を見てくるぜ!魔水晶はあるだろう?寄越せ!」
「はいはい、また明日そっちの家に向かうよ」
「おう!娘はやらんがな!」
「おじさんまたね!」
ユージーンさんから魔水晶を受け取り、マックスさんは颯爽と帰って行った。
さて、明日はどうなることか。ユリウスくんは同年代の子と訓練するのは初めてだ。良い刺激になれば良いな。
…そういえばマックスさん、全然娘の自慢せずに帰ったな……。




