14:ビギナーズアンラッキー
ユージーンさんから魔法と剣術の訓練を受けて少し経った頃、ユリウスくんは1人で街の外ーー大森林に出ていた。
この世界の国、というより人間の領域は巨大な壁によって覆われている。
狩人を生業としている人達は、いくつかある門を通って大森林に向かう。
もちろん門番もいるが、人の行き来は自由なようで4歳児でも1人で通ることができた。あくまで魔物の侵入を防ぐことが目的のようだ。それにしても危険すぎる気はするけど。まあ国が認めているんだから門番は悪くないだろう。
今日はここで俺が魔法を発動できるかどうかの実験にユリウスくんに付き合ってもらうのだ。
街からそんなに離れていない場所で行う予定だし、そこまで危険はないだろう。
現に今までの訓練中でも、草原地帯では魔物を見かけることがない日が大半で、見かけても小型の魔物を数匹、といったぐらいだ。
–じゃあユリウスくん、早速始めていいかな?–
–うん!アキトもまほうできるといいね!–
–はは、ダメ元だけどね–
俺は期待半分不安半分で、ユージーンさんたちの魔法を思い出しながら、イメージした魔法を口にする。
–【神秘】レインフォースサンダー–
すると、魔法は無事に発動しユリウスくんの身体を雷が覆った。
やった!俺でも魔法が使えるんだ!これでユリウスくんの役にも立てる!
そう、俺が思ったときだった。
「うあああああああああああああ!!!!!!」
–ユリウスくん?!–
ユリウスくんは急に苦しみ、叫び出した。何が起こったんだ?!尋常じゃない苦しみ方だぞ?!
ーーーいや、まて、こんなときこそ落ち着かないといけないはずだ。落ち着いて原因を判明させなければ。とりあえず魔法を解除。
まず、俺の魔法が原因であることは疑いようもないだろう。
俺はユリウスくんの中にいる異質な存在であることに自覚はある。
そして、魔力を扱えるんだから魔法も使えるんじゃないかーーそう思い、実験した結果がこれだ。
ユリウスくんの適性外の魔法を俺が使ったことが問題なのか?
俺が頭を悩ませていると、更なる異変が起きた。飛び切りの異変が。
激痛が走った。
「ぐぅっっっ…!」
痛いーーー。全身が焼けるように痛い。なんだ?脂汗が止まらない。
全身?魂だけになった俺に?俺はこの状態になってから痛みなんて感じなかったはずだ。視覚と聴覚でしか外と繋がりを持てなかったんだ。
それがなんで急に痛みを感じるようになった?理解不能な状況に頭が追いつかない。
頭は追いつかないが、手が動く。足が動く。
「え?なんで?」
まさかーーー。
そう思い、改めて全身を確認する。
「や、やっぱり……」
頭がおかしくなりそうだ。
なんでこんな訳の分からないことばかり起こるんだ。
魔法の世界だからってなんでもありすぎるだろ。
なんでーーー
「なんで俺がユリウスくんになってるんだよっ…」
痛みも大分マシになってきたが、状況は全く好転していない。一体なんでこんなことに……。
まてよ、俺がこんな状態になっている以上、ユリウスくんはどうなってしまったかが心配だ。最悪の想定もありうる。
そのとき、ふと閃いた。俺が話しかけたときユリウスくんは答えてくれていたじゃないか!
なら俺にも同じことはできるはず!
–ユリウスくん!大丈夫かい!?–
だが、返事はなかった。
俺が頭を抱えていると、こんなときに限って魔物が現れた。一角兎だ。小型だが角がちょっと危険なザコ魔物である。
「キュー!!」
「うるさい!!それどころじゃないんだよ!!」
飛びかかってきた兎を怒りのままに魔力で作った腕で殴り飛ばした俺は、初めて動物を殺した感触に吐き気を覚えた。が、今はその気持ちにも蓋をして考えなければならないことがある。
目を瞑り身体の中にあるであろうユリウスくんの魂が現れるよう念じる。すると以前と同じように光り輝く球体が現れた。
よかった、魂は無事なようだ。
魔法が原因でこの状況になったとするなら、もう一度発動してみるか?一周回って元に戻るかもしれない。いや、でもそれでユリウスくんの身体になにかあったらーーー
悩んだ末、俺はもう一度この事態の原因となった魔法を発動することにした。
「【神秘】レインフォースサンダー」
魔法を発動し、俺の身体を雷が覆う。すると、
「がぁぁぁぁああああ!!!!」
神経が焼け切れるような痛みが俺を襲う。しばらく俺はのたうち回った。前世で病気の激痛を味わっていなければ気を失っていたかもしれない。
俺はユリウスくんが戻ってくることを願った。だが、
「これでも駄目か…」
身体は元に戻らなかった。どうすればいいんだ。
ユリウスくんの身体に傷をつけただけの結果になってしまった。
いや、まてよ…
「本当に強化系魔術師は毎度この痛みに耐えてるのか?もしかすると適性外の魔法を使ったからじゃなくて、そもそも魔法の発動方法が間違っていたのかも……」
そう考えると、あの激痛にも納得がいく。
襲い来る痛みに対して何の準備もしていなかったユリウスくんが耐えられるはずもないことも。そもそも彼はまだ4歳児だ。痛みに強いわけがない。
「これ以上何かするよりも、一旦様子を見るか…」
そう考え、周囲に注意を張り巡らせながらしばらくの時を過ごした。
思い通りに動かせる身体を手に入れることが夢だった俺は、こんな状況では微塵も喜べなかった。




