第6章:導師
# 第6章:導師
創業時代3528年6月25日。朝。
朝の光がカーテンを通り抜け、エリアンの部屋を徐々に満たしていった。窓の外では木々の梢がざわめき、冷涼な風が湿った土と夏の草の香りを運んでくる。ウォルター家の屋敷に新たな一日が始まろうとしていた。
エリアンはすでに目を覚まし、ベッドの端に腰掛けていた。眠気の名残で少し乱れた白銀の髪に、薄灰色の瞳が注意深く部屋を見渡す。明るく、ほとんど磁器のように滑らかな肌が、その少年の異質なまでの美しさを際立たせていた。七歳という年齢にもかかわらず、そのまなざしには子どもらしからぬ深刻な真剣さが宿ることがあった。
ベッドの脇には、あらかじめ用意された服が置いてあった。エリアンは細かい襟のついた薄手の明るいシャツと、ダークカラーのズボンを選んだ。足には履き慣れた革靴を履く。高価な装飾こそないものの、服は清潔で、サイズも体にぴったりと合っていた。
今日の日はいつもと違うものになるはずだった。父から、自分の本格的な訓練を引き受ける人物が屋敷にやって来ると聞かされていたからだ。新しい導師から何を期待すべきか、エリアンにはまだ分からなかったが、すでにいくつかの選択肢を頭の中で検討していた。
(ようやく父さんが教師を見つける気になったか。一体、あの男に何が教えられるというんだ?)
ケイルの記憶の中には、剣術や魔法、数々の戦闘技術の知識がしっかりと残っている。だが、今のこの肉体は依然として彼の可能性を制限していた。どれほど複雑な技を覚えていようとも、七歳のエルフの少年がそのすべてを実行できるわけではなかった。
エリアンは立ち上がり、窓辺へと歩み寄った。外には古い庭園が見え、その向こうには森の帯が広がっている。ウォルター家の屋敷は質素なものだったが、過ぎ去った年月の中で彼にとってかけがえのない本当の「家」となっていた。ここには両親がおり、弟がおり、ミレルがいた――彼が何としても守りたいと願う者たちが。
ドアがノックされた。
「若様、お目覚めですか?」ミレルの声が響いた。
「ああ、入っていいよ」エリアンが答えた。
侍女は扉を開け、トレイを手にして部屋に入ってきた。ミレルはきちんとした黒っぽい侍女服を着ており、その上には清潔な白いエプロンをつけていた。長い灰銀色の髪はきつく三つ編みにまとめられ、長いエルフの耳には小さな銀の耳飾りがきらめいている。細いダークグリーンの瞳が部屋をひと通り見回してから、少年に留まった。
「お朝食をお持ちしました。今日はしっかり食べておいたほうがよろしいですよ。アーウェン様があなたと一緒に訓練をするご予定ですからね」ミレルはそう言って、トレイを机の上に置いた。
そこには、熱いオートミールの皿、新鮮なパンの切れ端、少量のバター、そして小さなボウルに盛られた木の実が置かれていた。すぐ傍らには温かいミルクの入ったマグカップもある。
「ありがとう、ミレル。父さんはもう起きたかい?」エリアンは席につきながら尋ねた。
「アーウェン様は早朝から中庭にいらっしゃいます。武器の点検をなさって、訓練の場所も整えておられましたよ。今日はかなり本気のご様子です」
エリアンはかすかに笑みを浮かべた。
「それなら、僕も気を引き締めないとね」
「あまり無理をなさらぬよう、若様。ご存知でしょう、メリッサ様はあなたが訓練でお疲れになって戻られるのをとても心配なさるのですから」
「わかっているよ」
ミレルは机のクロスを整えると、エリアンを一人残して部屋を出ていった。彼は急かされることもなく落ち着いて朝食をすませ、これからのことについて思考を巡らせた。
朝食後、エリアンは訓練用の服に着替えた。普段着の薄手のシャツの代わりに、袖の短い頑丈なシャツと、動きやすい暗色のズボンを身につける。足元はいつもの訓練用ブーツだ。動きを制限せず、運動の邪魔にならない服装だった。着替えを終えると、彼は部屋を出て中庭へと向かった。
アーウェンが訓練場のそばで待っていた。彼は袖をまくった簡素な灰色のシャツに、黒いズボン、そして高い革靴を履いていた。その漆黒の髪は後ろにきれいにまとめられ、顔にはいつもの厳格な表情が張り付いている。
彼の傍らには2本の木剣が置かれていた。1本はもう1本よりも少し短く、エリアンのためのものだった。
「少し遅れたな」息子を一瞥しながら、アーウェンが言った。
「たったの二分だよ、父さん」
「二分も同じことだ。実際の戦いでは、敵はお前が準備できるまで待ってはくれない」
エリアンは静かにその指摘を受け入れた。父が自分を意図的に責めているわけではないことは分かっていた。アーウェンはただ訓練に対して厳格なだけだった。
「まずは準備運動からだ」父は続けた。「最初に走る、それからバランスと構えの訓練だ。そのあとに剣を取る」
エリアンはうなずき、メニューに取り掛かった。
彼は訓練場の周りを何周か走り、徐々にペースを上げていく。それからストレッチと下半身を鍛える運動を行った。アーウェンは一つひとつの動きを注意深く観察し、時折間違いを指摘した。
「全体重を前の足に乗せるな。相手が急に攻撃の方向を変えたときでも、バランスを保てるようにしなければならない」
エリアンは姿勢を修正した。
「これでいいかい?」
「ましになった。今度は私が肩を押すから、その体勢を維持してみろ」
アーウェンが慎重に息子の肩を押した。エリアンは重心をわずかにずらしながらも、見事にバランスを保ち続けた。
「悪くない。踏ん張りが利くようになったな」父は評価を下した。
準備運動が終わると、二人は木剣を手に取った。アーウェンが長い方を選び、エリアンに短い訓練用ブレードを渡した。
「今日は基本の動きの反復だ。複雑な技を使おうとするな。まず、基本をどれほど体に叩き込めているかを見せろ」
エリアンは構えをとった。その手は自信を持って柄を握り、足はいつもの位置におさまっていた。父が教えてくれるようなものよりもはるかに複雑な技法を彼は記憶していたが、今の自分の身体能力に合わせて動きを抑え込まざるを得なかった。
アーウェンが単純な正面突きから仕掛けてきた。エリアンは剣を側方に逃がし、相手の力を直接受け止めないようにいなす。続いて2撃目、今度は斜めからの斬撃。エリアンは一歩下がり、剣を元の位置に戻した。
「いいぞ。だが、肩に力が入りすぎている」アーウェンが指摘した。「そんな動きを戦闘中ずっと続けていたら、すぐにバテてしまう」
エリアンは肩の力を抜いた。
「分かった」
訓練が続いた。アーウェンは徐々に攻撃の速度を上げ、息子の剣先の動きをより厳しく見張らせた。エリアンはケイルの記憶を利用して次の攻撃の軌道をあらかじめ予測したが、今の身体では到底実行できないような高度な技をあえて見せびらかすような真似はしなかった。
時折、木剣同士が鈍い音を立てて激突する。エリアンは下がり、受け流し、そして再び攻撃に転じた。無駄な動きを省き、極力体力を消耗しないように心がける。
アーウェンが鋭い斜めからの斬撃を繰り出したとき、エリアンは後退しなかった。彼はわずかに剣の角度を変えて攻撃線をそらし、短い反撃を試みた。動き自体は素早かったが、その直前の手首の捻りが少し早すぎた。
アーウェンは次のの一撃で彼の動きを止め、後退を余儀なくさせた。
「反撃を焦るな。私の剣を逸らせたのはいいが、攻撃に移るのが早すぎる。相手がまだ次の行動に移れない隙を本当につけているのか、まず確かめろ」
エリアンはその言葉をじっくりと咀嚼した。ケイルの記憶の中にはこのような隙をつく手段がいくつもあったが、今の自分の肉体にふさわしいものはそのうちのごく一部だった。
「分かった。適切な瞬間を待つんだね」
「その通りだ。すべての隙にすぐ飛びつく必要はない。時には姿勢を保ち、次の動きに備える方がいい場合もある」
二人はその動作を何度か繰り返した。エリアンは余計な構えの変更を避けながら、自分のミスを修正しようと努めた。父の前に自分の全力をさらけ出す気はなかったが、意図的に手を抜くこともしなかった。
訓練の終わり頃には、彼の額に汗がにじみ、呼吸もわずかに荒くなっていた。
「今日はここまでだ」アーウェンは剣を下ろしながら言った。「足さばきはかなり良くなった。だが、防御面はまだ改善の余地がある」
エリアンは刃を下げ、袖で額の汗を拭った。
「訓練を続けます」
「ああ。ただ覚えておけ、一日ですべてを習得しようなどと思うな。どれほど才能のある剣士であっても、基礎なしでやっていくことはできんのだから」
エリアンはうなずいた。言われなくてもそれは百も承知だったが、父の言葉に反論するつもりはなかった。
訓練を終えると、二人は木剣を片付け、家へと向かった。昼食の時間まではまだ少し余裕があった。
食堂ではすでに家族の食事が準備されていた。メリッサは窓際に座り、ミレルがテーブルの準備をしているのを見つめていた。彼女は上品な刺繍が襟元にあしらわれた、淡い緑色の長袖ドレスを着ていた。明るい髪は緩やかにまとめられ、その顔立ちは穏やかで優しげだった。
リオールはすぐ傍らの子供用椅子に座っていた。その漆黒の髪が日光を浴びて輝き、灰色の瞳で周囲の様子をじっと見つめている。兄の姿を見つけると、彼は嬉しそうに体を揺すり、両手を伸ばした。
「エリアン!」メリッサが優しく声をかけた。「おいで、リオールがずっと待っていたのよ」
エリアンは弟に歩み寄り、そっとその小さな手を握ったやった。
「やあ、リオール。お利口にしていたかい?」
赤ん坊は嬉しそうに声をあげ、少年の指を掴もうとした。
「今日のあの子はいつもよりあなたに会いたがっていたみたいね」メリッサが微笑んだ。
「僕が来るといつもこうだよ」エリアンが答えた。
やがてアーウェンも席に加わった。家族全員が揃い、ミレルが昼食を運び始めた。
テーブルには根菜とともに煮込まれた肉料理、濃厚な野菜スープ、焼き立てのパン、そして緑黄色野菜の皿が並んだ。傍らにはベリーのジュースが入った水差しが置かれている。贅沢とは言えないが、愛情を込めて作られた食事だった。裕福ではない小貴族の家庭の昼食としては十分すぎるものだった。
食事の最中、メリッサがエリアンの訓練について尋ねた。
「どうだった? 父さんがあまり無理をさせたりしなかったかい?」
「大丈夫だよ。いつも通り、剣の基礎を繰り返していたから」とエリアンは答えた。
アーウェンが満足そうにうなずいた。
「あいつの動きは悪くない。だが、まだまだ肉体を鍛え、技を洗練させる必要がある」
「一番大切なのは、身体を壊さないことよ」メリッサが釘を刺した。
「ちゃんと見ている」アーウェンは静かにそう返した。
エリアンは両親の会話に口を挟まなかった。彼らの心配がもっともであることは分かっていた。彼らにとって、自分はまだ多くのことを学ばねばならない七歳の息子なのだから。
昼食の後、家族はしばらくテーブルを囲んでいた。ミレルに連れられて眠たくなったリオールが部屋を出ていくと、静けさが戻ってきた。
そのとき、アーウェンが、間もなくエリアンに話していた「人物」が到着するはずだと告げた。
「もうすぐ着くはずだ。そろそろ顔を合わせることになるだろう」と父は言った。
エリアンは興味深そうに視線を向けた。
「父さんは彼を昔から知っているの?」
「お前の教育を任せるのに十分なほどにな。だが、詳しい話は本人に会ってからだ」
エリアンはそれ以上詮索しなかった。
午後の半ば、屋敷の中庭に小さな馬車が乗り付けてきた。その車輪が石畳の上でぎいと音を立て、1頭の馬が玄関のポーチのところで停止した。
アーウェンが客を迎えるために外へ出ていく。エリアンはその少し後ろをついて歩いた。
馬車から降りてきたのは、四十代ほどの男だった。銀灰色の髪がきれいに刈り込まれ、後ろに流されている。深い青の瞳が中庭を鋭く見渡し、その顔には穏やかだがどこか厳格な面持ちが浮かんでいた。はっきりとした鼻筋、引き締まった顎のライン、そして目を細めたときにだけ見える目じりの浅いシワが特徴的だった。
男はがっちりとした体格で、広い肩幅と力強い腕をしていた。その立ち居振る舞いには、日頃の過酷な肉体労働や訓練が染みついていることが窺えた。無駄な緊張感はなく、かといって不作法な緩みもない。
身なりは実用的だった。黒っぽいシャツに厚手のベスト、動きやすいズボンと高いブーツ。腰には剣を収めた鞘が提げられている。高価な装飾品はないが、衣服はどれも手入れが行き届いており頑丈そうだ。王宮の宴会に慣れた者ではなく、道中と鍛錬に生きる男であることは一目で分かった。
「また会えて嬉しいぞ、アーウェン」男は声をかけ、右手を差し出した。
「こちらこそだ、ギャレット。道中は平穏だったか?」アーウェンはその手をしっかりと握り返した。
「大きな問題はなかったさ。最後の数マイルほど少し荒れていたがね」
アーウェンはかすかに笑みを漏らした。
「この辺りの道はいつだってまともになったためしがない。さあ、中へ入ってくれ。待ち人がいる」
ギャレットは主人のあとについて歩き出した。その視線が中庭を滑り、訓練場や壁際に立てかけられた木剣にとどまる。
そして彼はエリアンに気づいた。
少年は父の傍らに立ち、静かに客を観察していた。白銀の髪、薄灰色の瞳、そしてほぼ磁器のように白い肌が、その外見をひと際目立たせている。身につけているのは訓練用の質素な服――袖をまくった薄手のシャツと暗いズボン、革靴だった。
ギャレットは鋭い視線を少年に向ける。まずはその姿勢、次に手の位置、そして父に対する佇まいを確認する。エリアンは怯えた様子もなく、戸惑うこともなく、まっすぐに視線を返した。
(七歳のエルフにしては、なかなかに落ち着き払っているな)とギャレットは心の中で思った。
だが、外見だけで早計な判断を下すつもりはなかった。この少年の身のこなしがどれほどのものか、剣の腕がどの程度か、そしてマナをどう扱えるのか、すべてはこれから自分の目で確かめるべきことだった。
客が息子のほうを見ていることに気づき、アーウェンが二人を紹介した。
「ギャレット、こいつが私の息子、エリアン・ウォルターだ。話していたのはこの子だよ。エリアン、こちらがギャレットだ。今日からお前の指導にあたってくれる」
エリアンは軽く頭を下げた。
「はじめまして、ギャレット様」
「こちらこそ、エリアン」男は答えた。「お前の父親からは色々と言い含められている」
「悪い噂でなければいいのですが」少年は冷静に言った。
ギャレットはわずかに口元を緩めた。
「お前が飲み込みが早く、訓練に熱心だとは聞いていた。だが、本当にお前がどれだけのものか、この目で確かめてからでないとなんとも言えん」
エリアンは新しき導師をじっと見つめた。
「がっかりさせないよう努力します」
「私に気に入られようなどと思わなくていい。私が知りたいのは、お前がどれほど基礎的な訓練をこなせるかだ。すべての本当の学びはそこから始まるのだから」
エリアンはその言葉に異議を唱えなかった。内面では、この男が最初から過剰な褒め言葉を並べるようなタイプではないことを評価していた。
(賢明なやり方だ。私の実力を実際に目にするまでは、評価を下さないというわけか)
アーウェンは客を室内に案内した。まもなく全員が居間に集まることになった。
ウォルター家の居間は広々としていたが、家具の配置は控えめだった。壁際には古い黒檀の戸棚があり、その傍らには数冊の本が置かれた小ぶりな机がある。窓の近くには二つのアームチェアと、使い込まれたソファが置かれていた。壁にはかつての古い家紋が掲げられている。
メリッサはすでにそこで彼らを待っていた。彼女は深い青色のドレスに着替え、髪を上品にまとめていた。客の姿を見ると、彼女は歓迎の笑みを浮かべた。
「我が家へようこそ、ギャレット様。長旅で疲れたでしょう」
「ご挨拶に感謝します、ウォルター夫人。道中は十分に耐えられるものでした」と彼は軽く一礼して応じた。
「どうぞお掛けになって。今夜は簡単な家族の夕食を用意していますから、ぜひご一緒に」
「喜んで」
アーウェンとギャレットが席につき、エリアンはその近くに座った。会話は自然と訓練の話題へと移っていく。
「私としては、まずは基本から始めてほしい」とアーウェンが切り出した。「エリアンはすでに私と訓練を積んでいるが、剣の指導において私が教えられることには限界がある」
「当然だ」ギャレットはうなずいた。「指導者によって得意分野は異なるからな。私の方でも、彼がまず何を伸ばすべきか見極めさせてもらう」
「あやつの素質をどう見る?」アーウェンが尋ねた。
ギャレットは再び少年に目を向けた。
「今のところはまだ何とも言えん。立ち居振る舞いは見事だが、それだけでは戦える証拠にはならんからな」
エリアンは眉をかすかにひそめたが、すぐに平穏な表情を取り戻した。
(その通りだ。一目見ただけで本当の技量が分かるはずもない)
「明日、さっそく最初の訓練を行おう」とギャレットは続けた。「まずは簡単な基礎運動からだ。彼の得意不得意を見極める必要がある」
「頼む。あやつの教育は君に任せる」アーウェンはそう言って同意した。
メリッサは息子の方に目を向けた。
「新しい先生ができるのね。最初は少し戸惑うかもしれないけれど」
「大丈夫だよ、母さん」
エリアンは議論に加わらなかった。前世の知識があろうとも、きちんとした指導を受ける必要があることは彼自身が一番よく分かっていた。ケイルの記憶は大きなアドバンテージだったが、今の成長途上の肉体には段階的な成長が不可欠だったのだ。
夜が更けるころ、家族は再び夕食の席に集まった。ギャレットも残り、メリッサが手配した食事がテーブルに並ぶ。
今夜の料理は昼とはまた違っていた。ハーブを効かせて焼き上げた鶏肉、タマネギと一緒に煮込んだキャベツの煮物、塩漬け野菜の小鉢、そして焼きたての薄平らなパン。別の器にはキノコ入りの濃厚な粥が盛られている。飲み物として、乾燥果実とハーブを煮出した温かいお茶が用意された。
素朴ではあるが変化に富んだメニューだった。ウォルター家で豪華な饗宴を開く余裕はなかったが、メリッサはいつも家族の食卓に温もりを与えようと心を配っていた。
ギャレットは静かに食事を進めながら、時折アーウェンと昔の旅の思い出や周辺の治安、今後の交通事情などについて言葉を交わした。
エリアンは基本的に聞き役に徹していた。新しい指導者の人柄をもっと知りたいとは思っていたが、無理に質問攻めにしようとは思わなかった。
「明日、朝食が終わったらすぐに始めるぞ」ギャレットが言った。「お前がどうやって剣を振るうか見せてもらい、そのあとで持久力を試させてもらう」
「わかりました」とエリアンは答えた。
「それからな」と導師は付け加えた。「自分の弱点を隠そうなどと思うな。私が求めているのは改善すべき点を見つけることだ」
「承知しています」
アーウェンは満足げに息子を見た。
「大切な教訓だ。自分ができないことを認めるのを恐れてはならん」
エリアンは小さくうなずいた。
(自分の弱さを隠すつもりはないさ。だが、前世で培ったすべてのものを忘れるつもりもない)
ギャレットが自分を普通の弟子として扱うことは分かっていた。今の彼には、それで十分だった。
夕食はしばらく続いた。ミレルが短時間だけ連れてきたリオールはすぐに眠そうになり、侍女に連れられて寝室へと戻っていった。メリッサが客に穏やかな夜を告げ、アーウェンがギャレットを客室へと案内した。
深夜、エリアンは自室に戻っていた。ゆったりとした白いシャツと柔らかなズボンに着替え、窓辺に腰を下ろす。
ガラスの向こうでは夕闇が完全に世界を覆い隠し、庭の木々がかすかに揺れ、遠くの森から夜の気配が漂っていた。
エリアンはこれから始まる訓練について考えていた。ギャレットは物事を性急に決めつけない、信頼できる人物に見えた。ひょっとすると、この新しい指導者はアーウェンだけでは教えられなかった部分を補ってくれるかもしれない。
しかし、エリアンは完全に他人に頼り切るつもりはなかった。自分が何者であったのか、彼は知っている。いつの日か、通常の訓練では到底太刀打ちできない相手と対峙しなければならない時が来ることも分かっていた。
黒い円の影はいまだに消えてはいない。ヴァルデルの存在も脳裏から離れていなかった。ケイルの死の真相が明らかになるまで、彼は過去を忘れるわけにはいかなかった。
彼は自分の手のひらを見つめた。少年の小さな指は、彼が思い描くすべての技を繰り出すにはまだあまりにも幼かった。だが、月日が経つにつれて肉体は頑丈になり、マナの経絡も確実に広がりつつあった。
(強くならなければならない。名誉や賞賛のためじゃない。いつの日か、何者にも大切なものを奪われないために)
エリアンは目を閉じ、瞑想に入った。原初を通り抜けるマナの流れを慎重にコントロールし、経絡に負担をかけすぎないように注意を払う。今夜は複雑な紋様を展開するつもりはなかった。自分の内なる力が、変わらず自分の意志に従うことだけを確認できれば十分だった。
窓の外ですっかり闇が深まっていた。
明日から新しい訓練の段階が始まる。そしてエリアンは、それを全力で自分のものにするつもりだった。




