第4章:記憶の代償と新しい生
# 第4章:記憶の代償と新しい生
創業時代3526年11月24日。夜。
エリアンは図書室の敷居をまたいだ。重いオークの扉が背後で音もなく閉まり、廊下を深い暗い影へと沈めていく。
冷たい寄木細工の床をわずか数歩進んだところで、後頭部の熱せられた弦がピンと張りつめた。ページの一番下に焼き付けられていた「黒い円」が、まるで網膜に直接焼き印を押されたかのように目の前に立ち現れた。
「くっ……!」
エリアンは息を呑み、手にしていたランプを床に落とした。
ランプが鈍い音を立てて絨毯の上を転がる。少年はよろめき、彫刻の施された木の壁板に掴まりながら、重そうにその場にしゃがれ込んだ。
それは、曖昧な残響や途切れた断片などではなかった。過去の記憶を押しとどめていた精神のダムが、耳をつんざくような轟音と共に崩れ落ちたのだ。
五歳の子供の未発達な脳に、百年に及ぶ前世の過酷で重厚な記憶の層が押し寄せてきた。
無数の顔、大広間、そして戦いの光景が、狂おしい万華鏡のように目の前を駆け抜けていく。幼い頃から無能の烙印を押してきたエラリスの本家筋の冷ややかな視点、閉ざされた書庫の埃っぽい古文書、息の詰まるような無力感、そして脳内で描き続けた幾何学的なマナの構造体――。
そしてついに、裏切りの全貌が浮かび上がった。
ヴァルデルという名の男との六十年間にわたる友情。禁止された書物について尋ねてくる彼の奇妙な質問。三十年経っても老いることのない彼の顔……。そして、雪の峠へ一人で来るよう呼びかける偽りの手紙。
エリアンは歯を食いしばった。氷の吹雪の唸り声、折れた剣を蹴り飛ばしたブーツの感触、手の甲に「黒い円」の紋章を刻んだフードの男の姿を、彼は細部に至るまで思い出した。そして、男の静かで哀しげな声――「正しい質問は、『なぜお前はそもそもエラリスとして生まれたのか』だ」――、さらに死の直前に脳裏をかすめた未知の塔と忘れ去られた陽光の閃光までもが鮮明によみがえった。
ケイル・エラリスの人生のすべてが、最後の一日まで、あらゆる痛みのひと雫に至るまで戻ってきた。
エリアンは床に座り込んだまま、荒く激しい息を繰り返した。こめかみから冷や汗が一筋伝い落ちる。
彼はもはや、断片的な夢を見るだけの子供ではなかった。彼はすべてを記憶していた。マナの幾何学のすべての数式を、叩き込まれたエルフの剣術の規則を、三百十一年前の奇襲の細部を、そして最大の仇敵の名前を。
(記憶が完全に戻った……。ヴァルデルは寿命を延ばす方法を見つけ出したのだ。もし彼が「黒い円」と繋がっているなら、この三世紀の間に彼らの支配者の一人になっていてもおかしくない。だが、今の私のこの身体は……)
彼は意識を原初に向け、第一位階の最も単純な戦闘用構築物を展開しようとしたが、その瞬間、前腕のマナの経絡に激しい焼けるような痛みが走り、少年は歯が砕けそうになるほど奥歯を噛み締めた。
制限は何も変わっていなかった。百年を生きるエルフの蘇った精神が、五歳児の脆弱な器に閉じ込められているのだ。彼の経験は完璧なコンパスだったが、回路は細く、腱は柔らかいままであった。もし今すぐ思い出したアルカナを使おうものなら、彼の原初は内側から引き裂かれてしまうだろう。
(ならば、何も変わらない。知識は頭の中にある。今すべきなのは、それに耐えうる道具を作り上げることだ)
彼は呼吸を整え、ランプを拾い上げると、自分の部屋へと廊下を進んだ。
両親の寝室の前を通り過ぎる際、エリアンは足を緩めた。ドアがわずかに開いており、その隙間から押し殺したリズムのある音、メリッサの女性らしい囁きとアーウェンのかぎろような低い息づかいが漏れ聞こえてきた。
ケイルの蘇った大人の理性は、子供の幻影など一切交えず、目の前で何が起きているかを一瞬で理解した。五歳の少年の唇に、乾いた、ごく微かな笑みが浮かんだ。
(アーウェンとメリッサも時間を無駄にしていないな……ウォルター家は大きくなるわけだ)
彼は音もなく通り過ぎ、自分の部屋に入るとベッドに横たわり、いつもの夜の瞑想の姿勢で静止した。細いマナの糸を送り込み、経絡をゆっくりと、安全に拡張していく。
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創業時代3527年5月15日。朝。
半年ほどの月日が流れた。秋の長雨や冬の吹雪は去り、暖かい五月の太陽が、ウォルター家の庭を咲き誇る桜と新緑の香りで満たしていた。
この数ヶ月の間に、エリアンは目に見えて変わっていた。彼はさらに無口で、落ち着いた少年になっていた。毎晩二時間をマナの経絡を広げる瞑想に費やし、昼間は子供の身体の限界を引き出す過酷な身体訓練に励んでいた。
だが、屋敷の雰囲気そのものは、ここ数週間で妙に慌ただしく、同時に繊細なものになっていた。
メリッサは朝の散歩を欠かすことが多くなった。彼女の顔立ちはきつい匂いを嗅ぐたびに青ざめ、普段は厳格で無口なアーウェンは、妻に対して異様なほど優しく細やかな気配りを見せるようになっていた。彼は自分で熱い煎じ汁を運び、重いものを持ち上げさせないよう常に目を光らせていた。
朝食の席は静まり返っていた。錫の皿にはバターを落とした大麦の粥が湯気を立てていたが、メリッサは吐き気を必死に抑えながら、自分の分にはほとんど手をつけていなかった。
アーウェンはスプーンを置き、妻を一瞥してから、冷徹で厳しいグレーの瞳を息子に向けた。
「エリアン」アーウェンのはっきりとした声が響いた。「スプーンを置きなさい。お前に大事な話がある」
六歳になったエリアンは、落ち着いた動作で錫のスプーンをテーブルに置き、背筋を真っ直ぐに伸ばした。何週間も前から事態の行方は完全に察していたが、彼は何も知らない子供の役割を完璧に演じ続けていた。
「何かありましたか、父上?」
メリッサは優しく微笑み、夫のゴツゴツした手の上に自分の手を重ねた。その青白い顔には、隠しようのない温かな光が満ちていた。
「悪いことじゃないわ、お前」エリアンの薄灰色の瞳を見つめながら、彼女は静かに言った。「秋の終わり頃にはね……お前に弟か妹ができるのよ。私たちの家が大きくなるの」
アーウェンは息子の反応を見逃すまいと、鋭く観察していた。子供特有の嫉妬や戸惑いがあるかもしれない。
だが、エリアンはほんの一瞬だけ動きを止めただけにすぎなかった。
その胸の内で、深い転換が起きていた。前世のケイル・エラリスは孤独なはみ出し者だった。自分を守ってくれる家族などおらず、すべてを犠牲にして守るべき存在もいなかった。彼は皆に見捨てられ、凍てつく吹雪の中で死んだのだ。
だが今、目の前には厳格だが誠実な父と、愛に満ちた母がいる。そしてこの家にはもう一つの、ウォルターの血を引く命が加わろうとしている。
少年の薄灰色の瞳に、暗く、揺るぎない炎が灯った。
(「黒い円」とヴァルデルは私の前世を奪い去った。だが、この人生には守るべき家がある。どんな屍の上でも歩んでやるし、どんなアルカナも焼き尽くしてやる。二度と、誰一人としてこの場所に手出しはさせない)
「良い知らせですね、母上」エリアンは母の目を真っ直ぐに見据え、穏やかで力強い声で答えた。「この家は僕が守ります。母上も、生まれてくる子も」
アーウェンのような子供離れしたきっぱりとした口調に、父親は驚いたように目を細め、メリッサは胸に手を当てて愛おしそうに息をのんだ。
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創業時代3527年7月10日。昼。
夏の激しい熱気が、馬小屋の裏の訓練場に立ちこめていた。空気には乾いた土、樹脂、そして熱せられた木材の匂いが染みついている。
エリアンは踏み固められた円の中央に立っていた。麻のシャツは汗でびしょ濡れになり、白銀の髪が額に貼りついている。その両手には、重い木剣が握られていた。
その正面にはアーウェンが立っていた。
「もう一度だ、エリアン!」父の号令が飛んだ。「真っ直ぐな構えから、払ってからの突きだ!」
エリアンは一歩踏み出した。彼の頭の中で、ケイルの蘇った経験則が瞬時に作動した。過去の記憶が、エルフの剣術書にある複雑な軌道――手首を連動させて回転させ、攻撃線を外すことで相手のガードをすり抜け、無防備な喉元を捉える技法――を提示した。
エリアンはその動きを実践しようとした。
トネリコの剣を弧を描くように回し、腰を急激に捻る。頭の中の計算は完璧だった。だが、発達途上の子供の手の細い腱は、その激しい捻りモーメントに耐えられなかった。
ポキリ。
手首に鋭く裂けるような痛みが走った。エリアンはバランスを失い、木剣が音を立てて指から離れ、土埃の中に落ちた。
「そこまでだ!」アーウェンが一歩で間合いを詰め、息子の前腕を荒々しく掴んで関節の状態を確認した。「何をやっている? 誰がそんな無茶苦茶な角度で手首をひねれと教えた?」
エリアンは奥歯を噛み締め、手首の激しい脈打つ痛みを無視しながら、荒い息を整えた。
「不意を突くために……」
「敵に届く前に自分の手をぶっ壊すような不意打ちは、ただの愚行だ!」アーウェンは厳しく切り捨て、少年の指を揉みほぐした。「お前の関節はまだ柔らかすぎる。腱がそんな負荷に耐えられるわけがない。覚えておけ、技は自分の筋肉の力に見合ったものでなければならん。骨がしっかり固まる前に、分不相応なまねをするな!」
「わかりました、父上」エリアンは静かに答えた。
アーウェンは彼の腕を離し、厳めしく首を横に振ると、土埃の中から木剣を拾い上げた。
「今日はここまでだ。母のところへ行き、薬草の湿布を貼ってもらえ。明日からは基本のまっすぐな突きに戻るぞ」
エリアンは剣を受け取り、ゆっくりと家へと歩き出した。
手首の痛みは徐々に和らいでいだが、彼の頭脳は冷徹で現実的な分析に満ちていた。
(結論は明白だ)傷ついた自分の指を見つめながら、彼は思った。(記憶は完全に蘇ったが、生理学の法則をごまかすことはできない。今のこの身体で複雑な剣技を使おうとすれば自壊するだけだ。私にはまだ、何年もの基礎的な持久力、ストレッチ、そして夜の瞑想が必要なのだ。骨と経絡が完全に強靭になったとき初めて、私が知るすべての技を実戦で振るうことができる)
彼は屋敷のポーチへと階段を登っていった。その先にはまだ長い人生が待っており、エリアン・ウォルターは一歩一歩、自らの身体を完璧な武器へと鍛え上げる決意に満ちていた。




