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エラリア:300年の虚無を経て、ゼロから歩む人生  作者: interwal228


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第2章:最初の歩み

# 第2章:最初の歩み


時が色褪せた鉄ギャル記インクの文字一字一句を通し、エリアンにこの世界の仕組みを教えていた。


彼は書室の冷たい床板の上に膝を折り、低い窓から吹き付ける隙間風も、指先に積もる埃も気に留めず座り込んでいた。『魔術の基礎』という本は呪文集ではなく、無機質で、ほとんど科学的な論考であった。


本の著者は、マナを自然界のものでありながらも攻撃的な媒体として描写していた。それは世界の隅々まで満ちているが、誰もがそれを自分の身体に通せるわけではない。それには二つの条件が必要だった。胸のなかにある霊的中心――「原初(イストク)」**の存在と、神経系や血管に張り巡らされた微細な回路である**「経絡(жилы)」の発達である。


だが、肝心なのはそこではなかった。魔法は言葉に従うものではないのだ。


*「言葉や呪文など、心を無理やり集中させるために作られた弱者のための松葉杖にすぎない。――黄ばんだ羊皮紙にはこう記されていた。――真の魔法創造とは幾何学である。魔導師の意志が原初の中に精神的構築物――『紋様(ウゾル)』を築き上げる。紋様の線が緻密で強固であればあるほど、マナはより純粋に世界の肉体へと変換される」*


エリアンはこの言葉を三度読み返した。後頭部に再び鈍く、かろうじて聞き取れるほどの痛みが走った。まるで記憶の奥底で誰かが重々しい返響を鳴らしたかのようだった。彼はそれをすでに知っていた。彼の理性は、今それを学んだからではなく、彼の魂が過去に何百回もsetTo実践してきたからこそ、この精神的構築物を組み上げることができたのだ。


---


秋が去り、短い冬が訪れると、創世暦3526年の早春がやってきた。エリアンは五歳になった。


ウォルター家では誕生日を盛大に祝う習慣はなかった――単に余分な余裕がなかったからだ。しかし、その日の夕食時、食堂には特別で家庭的な温もりが漂っていた。重厚な青銅の燭台に立てられた三本の蜜蝋燭が揺らめき、ミレルはほとんどすり減った一族の刻印がかろうじて残る深い錫の皿を使って、四人分の夕食を整えていた。


夕食に出されたのは、パースニップの根、野生のネギ、乾燥タイムと共に土鍋でじっくりと煮込まれた鹿肉の濃厚なスープだった。肉と香草の匂いが肌寒い食堂を満たしている。その傍らには、香ばしくわずかに焦げ目のついた焼き立ての麦と小麦のパンの塊と、かすかに燻製の香りが漂う固くて乾いたヤギのチーズが置かれていた。


アーウェンは自分とメリッサのために、水で割った渋い果実酒を杯に注いだ。エリアンには、乾燥したローズヒップと野クランベリーの温かい煎じ汁が入った重い錫のマグカップが用意されていた。


「五歳か」アーウェンはパンを割り、大きい方を妻に差し出しながら言った。燭台の炎の向こうから、その灰色の瞳が息子を落ち着いた眼差しで見据えている。「エルフにとって、これはほんの端緒にすぎない。お前はまだ成長の入り口に立ったばかりだ。だが、時は矢のように過ぎ去る」


メリッサは穏やかに微笑んだ。彼女は疲れが取れてすてきな血色を取り戻していた。白銀の髪はシンプルな三つ編みにまとめられ、片方の肩に垂れている。黄昏色の瞳は柔らかな温もりを帯びて輝いていた。


「そんなに急かさないで、アーウェン」彼女は手を伸ばし、エリアンの手のひらにそっと指先を触れさせた。彼女の皮膚は温かく、乾いていた。「学ばせてあげて。エリアンはこの辺りの貴族の子どもたちの誰よりも、書室で多くの時間を過ごしているんだから」


「本を読むのはいいことだ」アーウェンはスプーンでスープをすくい、咀嚼してから厳しげに目を細めた。「だが、いざ屋敷を離れる時が来たとき、本ばかりでは身を守れない。男なら一撃に耐え、しっかりと足を踏み張れなければならん。明日からだ、エリアン。夜明けに起きろ。まずは基礎的な鍛錬から始める」


「まだ五歳よ」メリッサは眉をひそめた。


「五歳なら、正しい呼吸と重心の維持を学ぶ頃だ」当主は反論した。「剣を持てとは言っていない。だが、身体を仕上げておかねばならん」


エリアンは黙ったまま温かい煎じ汁を一口飲んだ。酸味のあるクランベリーの風味が舌を焼いた。


「わかりました、父上」少年はよどみなく答えた。


アーウェンはその答えに満足したのか、わずかにうなずいた。食器棚の傍らで土製の水差しから煎じ汁を注ぎ足していたミレルは、ただ小さく息をついた。


「まったく……厳しいお方だねえ。お祭りの喜びもなければ、甘いものをねだることもない。ほかの五歳の子どもなんて蜂蜜の菓子に夢中だってのに、この子は『わかりました、父上』さ」


エリアンは何も言い返さなかった。ただ自分の分のスープを平らげ、肉とパンの身が持つしっかりとした栄養を堪能した。この肉体にはカロリーと力が不可欠であり、彼は食物を拒むつもりなど毛頭なかった。


---


五歳の誕生日から数週間後、メリッサは初めて息子の魔法の素質を試してみることにした。


二人は庭の奥まった一角へと向かった。そこは萎れかけたアジサイの生け垣と古いモミの木々に隠され、小道からは見えない場所だった。春の風は冷たく、湿った土と古びた針葉樹の匂いを運んできていた。


「魔法とは稀有な贈り物なのです、エリアン」メリッサは息子の前に片膝をつき、静かに語りかけた。その素朴な麻のドレスの裾が昨年の枯草に触れている。「多くの者は、マナを感じ取れることが魔導師である証だと勘違いする。その間違いよ。その共鳴を感じ取れるエルフや他の種族はごまんといる。だがそれを導き、従わせ、呪文を紡ぎ出す……それができるのはごく一部の者だけ。千人に一人よ。この地方で本物の魔導師など、指折り数えるほどしかいないの」


「母上は魔導師なのですか?」エリアンは彼女をまっすぐ見つめながら尋ねた。


「ええ」メリッサは優しく微笑んだ。「偉大な詠唱者というわけではないけれど、私は水と植物の系譜を操る。そして確かめたいの。あなたに、ただ世界の声を聞くだけでなく、それを従わせる力があるかどうかをね」


彼女は手のひらを上に向けて持ち上げた。その指先が空中に滑らかな弧を描く。


「思考を収斂させるために、初心者は常に言葉を必要とするの。それが調整の詠唱よ。心の中で、あるいは声に出して私に続けなさい――*『アエリエル・スン・マラ……』*目を閉じなさい。胸の奥にある温もりが手のひらの先へと流れていくのを想像するのよ」


エリアンは彼女の手を見つめた。メリッサの手のひらの上の空間で、湿った春の空気からかき集められた薄く透明な水の球体がぐるぐると回り始めた。彼女は低く、歌うような声で詠唱を紡いでいた。


少年はぎゅっと目を閉じた。


*『アエリエル・スン・マラ』*という詠唱は、彼にとって意味のない子供のたわごとにしか思えなかった。理性を雑音で埋め尽くすだけの無駄な騒音にすぎなかった。


他人の言葉を囁く代わりに、エリアンは意識を自分の内側深くに沈めていった。


胸の真ん中、胸骨のすぐ裏側で、小さく未発達ではあるが完全に純粋な「原初」が静かに脈打っていた。エリアンは意志の力でエネルギーの糸を引っ掛け、それを上へと引き上げた。


その反作用は痛みを伴うものだった。


子供の、もろく細い右手の「経絡」が一瞬にして張り詰めた。マナが管の中を内側から焼き焦がすように流れていき、まるで血管に熱湯を流し込まれたかのような感覚に襲われた。前腕に鋭い痙攣が走り、痛みで指が握り拳に曲がりそうになったが、エリアンは顔色一つ変えなかった。彼は歯を食いしばり、息を殺してエネルギーを従わせた。


彼の理性の中に、言葉など一切なしで、硬質な幾何学が瞬時に組み上げられた。交差する三つの精神的線条、その中央を結ぶ結節点。もっとも単純な共鳴のマトリクス。


*言葉なし。音なし。ただ純粋な意志の構築物のみ。*


エリアンはまぶたを開き、小さな手のひらを前方に突き出した。


子供の手のひらの上には、水など一滴も現れなかった。その代わり、空間の中で乾いた、静かな破裂音と共に、純粋で凍てつくような銀白色の光の球が燃え上がった。それはクルミほどの大きさしかなかったが、周囲のモミの木の幹にくっきりと影を落とすほど均一に、そして眩しく輝いていた。球体の周囲の空気は、その瞬間にはっきりと冷え込んだ。


メリッサが凍りついた。


彼女自身の手のひらの上で回っていた水の球体は一瞬で弾け飛び、水飛沫となって草の上に降り注いだ。女性は息子の手のひらの上に浮かぶ銀色の球体を凝視し、その黄昏色の瞳をショックで見開いた。


「無……無詠唱で……?」彼女はやっとの思いで声を絞り出し、その声は初めて微かに震えていた。「調整の言葉も唱えず……囁きすらしなかったわね!」


エリアンは手をグッと握り締めた。球体がかき消えた。


その直後、激しい脱力感が彼を貫いた。右手が痺れ、右の鼻の穴から温かい一筋の血が唇へと伝い落ちた。子供の肉体の細い回路が、これほど純粋な濃度の集中に耐えられなかったのだ。


「エリアン!」メリッサは咄嗟に膝をつき、彼の両肩を支えて鼻の下に絹のハンカチをあてがった。彼女の手はかすかに震えていた。「なんと恐ろしい……どうやってやったの? どうしてその紋様の構造を知っているの?」


「本から」血を拭いながら、エリアンは淡々と答えた。「言葉はいらないって書いてありました。必要なのは幾何学だと」


「本から……?」メリッサは五歳の息子を、誇らしさと、言葉にならない深い恐怖が入り交じった眼差しで見つめていた。「本に書かれているのは理論だけよ! 口頭の焦点なしに紋様を形作るなんて、魔導師たちは何十年もかけて学ぶのよ! これは……アカデミーのアデプト級のレベルよ!」


「じゃあ、良い本だったということですね」少年は疲労で重くなる頭を感じながら、静かにつぶやいた。


メリッサは彼を強く抱きしめ、自分の顎をその白銀の髪に押し付けた。エリアンには、彼女の心臓が激しく脈打つのが感じられた。彼女は息子の信じられないほどの才能を喜ぶ一方で、真のエルフであるならば誰しもが知る真理を恐れていた――あまりにも強烈な光は、必ずや極めて濃い影を引き寄せるものなのだ。


---


アーウェンとの朝の鍛錬は、その翌日から始まった。


父親は彼に武器を持たせなかった。森の上に青白い冬の太陽がようやく顔を出す頃になると、毎朝アーウェンはエリアンを馬小屋の裏の踏み固められた広場へと連れ出した。


「真の戦士は剣からなど始めん」アーウェンは両手を背中に組み、厳めしく言い放った。彼はウールのカフタンの上に簡素な革のベストを着ていた。「まずは大地からだ。自分の重心を感じられなければ、どんな小さな衝撃でも足元をすくわれる。正しく呼吸ができなければ、戦いの三分で息切れしてくたばるだろう」


アーウェンは基本の構えを示した――足を肩幅に開き、膝をわずかに曲げ、足裏を地面に食い込ませ、肩の力を抜き、呼吸は深く、均等に、鼻から下腹部にかけて行う。


普通の五歳児にとって、このような静的姿勢を三十分間維持することは文字通り拷問だった。筋肉が焼き付くように痛み、骨がきしみ、意識が散漫になる。


しかし、エリアンは最初からその構えを完璧にとりきった。


彼は父親の動きをただ模倣しただけだった。そして、自分の足裏が踏み固められた土に触れ、呼吸が整ったとき、ケイルの持つ古い筋肉の記憶が再びその奥深くから呼び覚まされた。背骨が自然と伸び、肩が理想的なバランスで収まり、重心がまさに必要な場所へとぴたりと定まった。


アーウェンは息子のまわりをぐるりと回り、その身体を鋭い眼光で観察した。


父親は横から近づき、前触れもなく、エリアンの肩を手のひらで短く、しかししっかりと突き飛ばしてバランスを試した。


普通の子どもなら泥の中に転がっていたはずだ。だがエリアンは膝のバネを使ってわずかに衝撃を逃し、反対側の足へと体重を移動させ、その場にびくともせず立ち続けた。


アーウェンが動きを止めた。そのダークグレーの瞳が細められる。


「お前……どこでこれを習った?」父親の声には偽りのない驚愕が響いていた。「側方からの衝撃を受けたときにどう体重を移動させるか、まだ説明すらしていないというのに」


「倒れないように立っただけです」エリアンは乱れのない呼吸のまま答えた。


アーウェンは数秒間沈黙した。それから、漆黒の髪をゆっくりと手のひらでなでつけた。


「お前には信じられない本能がある、エリアン」男は静かに言った。「お前はまだほんの子供だが、戦士の体躯を持っている。続けよう。明日は歩法を加えるぞ」


---


時は流れた。五歳半を迎える頃には、エリアンは書室を完全に自分の拠点へと変えていた。


ある秋の日のこと、窓の外でうっとうしい雨が際限なく降り続く中、少年は脚立を使って一番上の棚へとよじ登り、重い鉛の装丁が施された一冊の古文書を引きずり出した。表紙には銀の型押しでこう記されていた――*『大いなる諸家および貴族分家の記録』*。


本からは押し固められた蝋と、古い羊皮紙、そして湿気の匂いが漂っていた。


エリアンはその重い大著を机まで運び、オイルランプに火を灯すと、紋章や血統図、簡潔な歴史的記録が描かれた黄ばんだページをゆっくりとめくりはじめた。


彼は答えを探し求めていた。ウォルター家とは一体何者であり、なぜ彼らはこの衰えゆく屋敷に住んでいるのかを理解しなければならなかった。


少年の指がページを繰り、やがて彼は最高位貴族のエルフ諸家に捧げられたセクションに行き当たった。そして、そのページの最上部に一つの紋章が描かれていた――**純白の背景に茨の枝が絡みついた銀の剣**。


その紋章の下には、大書体でこう記されていた。

**『エラリス』**


その言葉に視線が落ちた瞬間、エリアンのこめかみで何かがはじけた。


*「ブッ……!」*――頭蓋骨の内部で、鈍く耳をつんざくような反響が響き渡った。


視界がぐにゃりと歪んだ。オイルランプの光がぼやけた黄金色の染みへと変わっていく。雨音のかわりに、何百もの絡み合い、囁き、こだまする声が耳を打った。それは他者の、傲慢で冷酷な声だった――


*「見ろ、あれがケイルだ……本家筋の跡取りが!」*

*「また基本の紋章の構築に失敗したぞ! なんて見世物だ……」*

*「エラリス家の三千年の歴史に、こんな出来損ないの末裔とは……あいつは無能だ!」*

*「評議会に一族の恥をさらす前に、分家に放り出しておけ!」*


エリアンは机に肘をつき、両手で自分の頭を必死に押さえた。歯が鳴るほどに顎が食いしばられる。胸の内で、野蛮で、毒気を含んだ怒りと絶望の濁流が沸き上がった――他者の、古い痛みであり、思わず叫び声をあげたくなるような感情だった。


*「俺は無能じゃない……お前たちに見せてやる……」*――それは彼のものではない思考が脳裏をかすめた。


少年は数回深く、荒々しい呼吸をし、アーウェンの鍛錬の教えに従って自分の息を無理やり整えた。頭の中の音声は徐々に遠ざかるざわめきへと変わり、やがて消えていった。痛みが引いていく。


エリアンは額の冷汗を拭い、再びページに目を落とした。


エラリスの血統図の下に、小さな活字で乾燥した歴史的注記が添えられていた。


*『エラリス家――創世暦1年(3500年以上前)にその歴史を遡る、最も古きエルフの名家の一つ。大いなる大陸において最高位の身分と広大な領地を有する……』*


そして、ページのいちばん下、その末尾には小さな追記があった。


*『……創世暦2021年(1500年前)、エラリスの本家から、ウォルターという血名を与えられた零落した分家が公式に分流した』*


エリアンは硬直した。指先が羊皮紙の端に食い込んだ。


頭の中のパズルが、乾燥した数学的正確さをもって組み上がっていった。


エラリス家は三千五百年。ウォルター家は千五百年。彼らは、かつて偉大で強大だったエルフの名家から切り捨てられ、道端に投げ出された零落した分家なのだ。


そして、悪夢の中の男は……ケイルという名を背負っていた。そして彼は、エラリス家と繋がっていた。


---


エリアンが満六歳を迎えたその夜、悪夢が信じられないほどの、まるで手で触れられるかのような生々しさを伴って舞い戻ってきた。


彼が見たのは、ただの抽象的な夢ではなかった。それは記憶だった。


周囲では凍てつく猛吹雪が荒れ狂っていた。雪の針が青白い顔の皮膚を切り裂く。ケイル――引き裂かれ、血に染まったマントを纏った大人のエルフが、折れた剣に重そうに体を預けながら、雪に覆われた山岳の峠に立っていた。


胸の傷が焼けるように痛む。呼吸ができない――肺は血と凍てつく空気で満たされていた。


彼の目の前の吹雪の白い帳から、重厚な黒い頭巾を被った人影がゆっくりと姿を現した。人影は急ぐことなく一歩を踏み出し、革手袋をはめた手を持ち上げた。手の甲の皮膚に縫い込まれた「黒い円」の紋章が、不気味で禍々しい光を放っている。


「お前は踏み込みすぎておる、ケイル・エラリス」他人の、魔法で歪められた声が告げた。「お前は、お前に属さざる答えを探求した」


「裏切り者め……」ケイルは血を吐き出し、折れた剣の柄を握りしめようとした。「貴様ら全員……売り払い……」


「歴史は敗者を記憶せん」人影は冷たく言い放った。


そしてその直後、目をくらませる黒い炎の閃光、麻痺するような冷気、そして底知れぬ凍てつく深淵への墜落が訪れた――


---


「ケイル!」


エリアンはその名を大声で叫びながら、ベッドの上で跳ね起きるように上体を起こした。


荒く、激しい息を繰り返す。胸元のシャツは冷や汗でぐっしょりと濡れていた。部屋の中は夜の静寂に包まれ、窓の庇を叩く雨粒の規則正しい音だけが響いていた。


扉が激しくノックされ、一瞬後にはミレルが手にした灯火を片手に敷居に現れた。彼女の銀灰色の三つ編みはほどけており、引き締まった顔立ちは深い懸念に満ちていた。


「エリアン! どうしたんだい?」彼女はすばやくベッドに歩み寄り、燭台をナイトテーブルに置いて彼の額の皮膚に手のひらをあてがった。「また悪夢かい? 一階にまで聞こえるほどの声で叫んでいたよ!」


エリアンは自分の小さな子供の手のひらを見つめた。雪深い峠の幻の冷たさが、指先の震えとしてまだ残っていた。


「お前、今なんて名前を叫んだんだい?」使用人は自分の袖で彼の額の汗を拭いながら、低く尋ねた。「ケイルって誰さ?」


エリアンはゆっくりと彼女に視線を向けた。その燭台の光に照らされた薄灰色の凍てついた瞳は、まるで完全に盲目で、そして見知らぬ他人のもののように映っていた。


「誰もいません、ミレル」少年の声は子供らしい抑揚が一切なく、完全に均質だった。「古い本に載っていた名前です」


使用人は疑わしげに眉をひそめたが、それ以上は追及しなかった。彼女は彼の布団を直し、夜更かしの読書はほどほどにするんだよと小言を呟きながら、ナイトテーブルに燭台を残して部屋を去っていった。


エリアンは暗闇の中にひとり取り残された。


彼は手を持ち上げ、自らの胸に手のひらをあてた。肋骨の裏側で、マナの原初が正確に、リズミカルに脈打っているのが感じられた。


霧は晴れた。モザイクは完成した。


三百年前、雪に覆われた峠で命を落としたエルフ……裏切られ、歴史の記録から抹殺されたエルフ……ケイル・エラリスという名のエルフ……


それは他でもない、彼自身だった。

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