↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日本の怖い話  作者: こうた


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/21

宮城・第二話

地下にある五階


そのビルには、


地下四階までしかなかった。


俺は、


何度も確認した。


地下駐車場。


B1。


B2。


B3。


B4。


それより下はない。


管理会社からも、


設計図からも、


消防設備の表示からも、


間違いなくそうなっていた。


だから、


あの夜、


エレベーターの表示に


「B5」


が現れたとき、


俺は最初、


故障だと思った。


それだけだった。


まさか、


その階に、


「人が住んでいる」とは思わなかった。


---


仙台駅から少し離れた場所に、


古いオフィスビルがある。


俺はそこで、


設備点検の仕事をしていた。


築四十年以上。


何度も改修されているため、


外観は古いが、


中はそれなりに綺麗だった。


ただ、


地下だけは別だった。


B1からB4まで、


すべて駐車場。


夜になると、


ほとんど人はいない。


管理人からは、


一つだけ注意されていた。


「地下四階には、


夜十時以降、


一人で行かないでください」


「何でです?」


「古い設備が多いからです」


「それだけ?」


「……それだけです」


管理人は、


それ以上説明しなかった。


---


その日、


俺の仕事が終わったのは、


午後十一時を過ぎていた。


忘れ物をしたことに気づき、


地下四階まで戻る。


エレベーターに乗る。


ボタンを押す。


B4。


扉が閉まる。


エレベーターが下降する。


ゴウン。


ゴウン。


そして、


B4。


扉が開いた。


誰もいない。


俺は、


駐車場を歩いた。


忘れ物を回収する。


戻る。


エレベーターに乗る。


「……」


扉が閉まる。


上へ戻ろうとして、


「1」


を押した。


だが、


エレベーターが動かない。


「?」


もう一度押す。


反応しない。


そのとき。


ピッ。


聞いたことのない電子音。


表示を見る。


B5


「……」


俺は、


固まった。


表示は、


確かにB5。


ボタンを見る。


B5のボタンなど、


存在しない。


なのに、


エレベーターは、


ゆっくり下降し始めた。


---


ゴウン。


ゴウン。


ゴウン。


地下四階を越える。


俺は、


非常停止ボタンに手を伸ばした。


その瞬間。


アナウンス。


『地下五階です』


女の声。


機械音声ではない。


人間の声だった。


「……」


扉が開く。


そこには、


廊下があった。


白い壁。


蛍光灯。


古い病院のような、


長い廊下。


俺は、


動けなかった。


「……」


エレベーターの中に戻ろうとする。


しかし、


扉が閉まった。


「待て!」


ボタンを押す。


開かない。


扉の向こうから、


声。


『降りてください』


俺は、


叫んだ。


「誰だ!」


返事。


『あなたが、


最後です』


「……」


『早く』


俺は、


エレベーターから出た。


---


廊下には、


扉が並んでいる。


右。


左。


右。


左。


すべて同じ。


その一つに、


プレートがある。


501


「……」


地下なのに、


501。


おかしい。


その隣。


502。


503。


504。


普通の部屋番号。


さらに進む。


505。


506。


507。


そして、


突き当たり。


508


俺は、


足を止めた。


扉の前に、


紙が貼ってある。


「本日、


在宅確認」


その下に、


名前。


俺の名前だった。


佐々木健司


「……」


俺は、


後ずさった。


紙の下には、


チェック欄。


在宅


そこに、


赤い丸がついている。


---


俺は、


走ってエレベーターへ戻った。


ボタンを押す。


開かない。


「開け!」


何度押しても、


開かない。


そのとき、


廊下の奥から、


足音。


コツ。


コツ。


コツ。


誰かが、


歩いてくる。


俺は、


隠れる場所を探した。


だが、


廊下には何もない。


足音が近づく。


コツ。


コツ。


コツ。


そして、


止まった。


俺の目の前。


人影。


スーツを着た男。


顔が見えない。


「……」


男が、


俺を見る。


「こんばんは」


「……」


「今日も、


帰らないんですか?」


俺は、


答えなかった。


男が笑う。


「そうですか」


そして、


廊下の奥へ歩いていく。


俺は、


その背中を見ていた。


すると、


男が突然、


振り返った。


「ところで」


「……」


「あなた、


ここに何人いるか、


知っていますか?」


「……一人だ」


男は、


笑った。


「そう思っているんですね」


そして、


消えた。


---


エレベーターの扉が開いた。


俺は、


飛び込んだ。


ボタンを見る。


1。


2。


3。


4。


閉じる。


上へ。


ゴウン。


B4。


通過。


B3。


通過。


B2。


通過。


B1。


通過。


1階。


扉が開く。


ロビー。


明るい。


警備員がいる。


俺は、


走って外へ出た。


夜の街。


車。


人。


信号。


すべて普通。


俺は、


何度も振り返った。


誰も追ってこない。


---


翌日。


管理人に話した。


「地下五階に行きました」


管理人は、


黙った。


「B5です」


「……」


「エレベーターに、


表示が出ました」


管理人は、


顔を上げた。


「誰かに会いましたか?」


「男に」


「顔は?」


「見えませんでした」


管理人は、


しばらく黙った。


「……そうですか」


「何なんですか?」


「知りません」


「嘘ですよね?」


管理人は、


答えなかった。


俺は、


強く聞いた。


「B5って、


昔からあるんですか?」


「ありません」


「でも――」


「ありません」


管理人は、


断言した。


そして、


一言。


「この建物に、


地下五階は存在しません」


---


俺は、


納得できなかった。


その日の昼。


設計図を確認した。


B1。


B2。


B3。


B4。


確かに、


B5はない。


しかし、


古い設計図を見ると、


奇妙なことに気づいた。


建物の中央。


地下四階の下。


小さな空間が描かれている。


部屋ではない。


ただの空白。


寸法だけ。


高さ2.7m


幅18m


奥行32m


その横に、


赤い文字。


「施工対象外」


「……」


俺は、


さらに古い図面を探した。


見つけた。


建設当時の図面。


そこには、


B5があった。


しかし、


階数の表示は、


普通の数字ではない。


「第五層」


となっていた。


その下に、


手書き。


「人を住ませないこと」


---


俺は、


その日の仕事を終えた。


もう地下には行かない。


そう決めた。


だが、


午後八時。


会社の電話が鳴った。


「佐々木さんですか?」


女性の声。


「はい」


「地下五階の件ですが」


「……」


「忘れ物があります」


「誰ですか?」


「あなたです」


「……」


「昨日、


部屋に忘れていきましたよ」


「部屋?」


「508号室です」


電話が切れた。


---


俺は、


その夜、


ビルへ戻ってしまった。


なぜ戻ったのか、


今でも分からない。


ただ、


確かめなければいけない気がした。


エレベーター。


地下四階。


扉が開く。


俺は、


何も押していない。


それなのに、


表示が変わる。


B5。


扉が開く。


昨日と同じ廊下。


だが、


一つだけ違う。


部屋番号。


501。


502。


503。


504。


505。


506。


507。


508。


そして、


509。


昨日は、


なかった。


俺は、


近づく。


509号室。


扉が少し開いている。


中から、


テレビの音。


「……」


ニュース番組。


聞き覚えのある声。


俺の声だった。


『宮城県で発生した――』


「……」


テレビから、


俺自身がニュースを読んでいる。


『行方不明になった男性は――』


名前。


俺の名前。


「……」


俺は、


ドアを開けた。


部屋の中には、


テレビ。


机。


椅子。


そして、


大量の写真。


壁一面。


写真。


写真。


写真。


北海道。


青森。


秋田。


山形。


宮城。


見覚えのある場所。


見覚えのない場所。


そして、


そこに写っている人間。


全部、


俺だった。


---


一枚を手に取る。


北海道。


雪山。


俺が立っている。


撮影日は、


十年前。


俺は、


その頃、


北海道へ行ったことがない。


次。


青森。


古い家。


俺。


さらに、


秋田。


湖。


俺。


山形。


川。


俺。


そして、


宮城。


海。


俺。


どの写真も、


俺はカメラを見ている。


笑っている。


だが、


一つだけ違う。


すべての写真で、


俺の隣に、


同じ女がいる。


顔は見えない。


白い服。


濡れた髪。


俺は、


その写真を落とした。


「……」


その瞬間。


背後から、


声。


「見つけた」


俺は、


振り返った。


誰もいない。


テレビだけが、


ついている。


『次の県は――』


テレビ画面。


地図。


宮城。


その隣。


福島。


そして、


画面の端に、


赤い数字。


「残り41」


---


俺は、


部屋を出ようとした。


ドアを開ける。


廊下。


しかし、


そこには、


無数の人間が立っていた。


全員、


俺と同じ顔。


スーツ。


作業服。


私服。


老人。


子供。


若者。


全員、


俺。


全員が、


俺を見ている。


「……」


一人が言った。


「やっと来た」


別の一人。


「遅かったね」


また一人。


「もう、


四十一個目だよ」


俺は、


叫んだ。


「何の話だ!」


全員が、


同時に笑った。


そして、


一番前の俺が、


口を開いた。


「俺たちは、


お前が忘れた人生だよ」


「……」


「北海道で、


一人」


「青森で、


一人」


「秋田で、


一人」


「山形で、


一人」


「宮城で、


一人」


俺は、


後ずさった。


「違う」


「何が?」


「俺は一人だ」


全員が、


首を傾げた。


そして、


一斉に言った。


「本当に?」


---


その瞬間。


エレベーターの音がした。


チン。


扉が開く。


中に、


一人の女性が立っている。


白い服。


濡れた髪。


顔が見えない。


俺は、


動けなかった。


女性が、


俺を見る。


「乗って」


「……」


「次へ行くんでしょう?」


俺は、


首を横に振った。


「行かない」


女性は、


笑った。


「でも、


もう始まってるよ」


「何が?」


女性が、


俺の胸を指差す。


「あなたの中で」


---


気がつくと、


俺は一階のロビーにいた。


朝。


警備員が、


俺を見て驚いている。


「大丈夫ですか?」


「……はい」


「昨夜から、


ずっとここにいましたよ」


「え?」


「何度も地下へ行こうとしてました」


俺は、


時計を見る。


午前六時。


「俺は、


地下に?」


「はい」


「何時間?」


警備員が、


困った顔をする。


「三日です」


「……」


俺は、


笑った。


「そんなわけない」


スマホを見る。


日付。


確かに、


三日経っている。


そして、


写真フォルダ。


一枚の新しい写真。


地下五階。


俺が立っている。


その隣に、


白い服の女。


さらに、


その後ろに、


大量の「俺」。


写真の下に、


文字があった。


宮城 5


福島 6


残り41


俺は、


画面を閉じた。


その瞬間。


スマホが震えた。


着信。


表示された名前。


「俺」


俺は、


電話に出なかった。


何度も鳴る。


やがて、


留守番電話に切り替わった。


数秒後。


通知。


録音されたメッセージ。


再生する。


『もしもし』


俺の声。


『今、


福島にいる』


俺は、


凍りついた。


『お前が来る前に、


一つだけ教える』


沈黙。


そして、


最後の言葉。


『地下五階は、


宮城にしかないと思ってる?』


録音が終わる。


俺は、


ゆっくり顔を上げた。


ロビーの壁にある、


日本地図。


その地図の上。


宮城に、


赤い点。


そして、


その隣。


福島にも、


小さな赤い点が灯った。


――宮城・第二話 終。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。