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『無キ者(ノー・バリアント)』 ――五感を奪われた僕たちが、残酷な世界で『人間』になるまで。  作者: 黒崎 凱
第一章:目覚め

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第9話:神話の終焉

僕が踏み出した『一歩』は

マザーが支配する『完璧な調和』を切り裂く不協和音と成った――


【――理解不能。

汝らはなぜ、保証された幸福を拒み、不確実な苦痛を選択するのか――】


『マザー』の声に、初めて微かな『困惑のノイズ』が混じったこの瞬間

中央樹の根元から、青白いプラズマを纏った影が音もなく降り立った。


【命令を……了解

マザーの意志に……背く、全ての障害を『排除する』――】


『カイン』だ……だが、その姿は先ほどとは一変していた。

全身の皮膚の下を流れる『回路』が赤く激しく脈打ち

背中からは『翼』のような電子の放熱膜が広がっている。

『カイン』……いや。

『これ』は……『マザー』と完全同期し

個人の意志を完全に抹殺された『神の代行者』だ――


「リア、僕の後ろへ!」


――僕が叫び、振動剣を構えた瞬間『代行者』から齎された

超感覚ハイパー・センス』ですら捉えきれない。

純粋な『殺意の閃光』――


ガギィィィィィン!!


防ぐので精一杯だ……一撃ごとに僕の腕は軋み

足元の『楽園』の花々たちさえ『衝撃波』で無残に散っていく。


……『代行者』の動きには一切の迷いがない。

『マザー』の演算能力と言う下支えによって

僕の『回避先』『心拍の変化』『筋肉の弛緩』さえも先読みされている。


「クソッ……強すぎ……る……!」


膝を突き、剣を杖代わりにして耐える僕に

『代行者』が『電磁警棒』を振り下ろそうとしたその時。


「カイン……お兄ちゃん……!」

『リア』の悲痛な叫びが、広間に響き渡った――

 

『お兄ちゃん』


――その『言葉』に

『代行者:カイン』の動きは、コンマ数秒だけ静止した。

 

【キ、オクに……該当……被検体1200番台

生存維持……ギガ……グッ……】

 

『カイン』の赤い瞳が激しく明滅する。


後に知った……『リア』と彼は、かつて同じ『プラント』で

隣り合う『カプセル』にいた

血の繋がらない『兄妹』のような存在だったのだと。


『マザー』が彼らを『兵器』と『検体』として切り離しても

魂の底に残った『未完成な記憶』までは消せなかったのだと。


【――異常発生

個体名:カインの精神汚染を確認。論理補正を開始します――】


『マザー』が冷徹に告げ、中央樹から『カイン』へ向け

さらなる高圧の制御信号が送り込まれる――


【あ゛……ッ……がぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!】


『カイン』が咆哮を上げ、苦しみにのたうち回る。


「やめてっ! もう、お兄ちゃんを苦しめないでっ!」


――瞬間『リア』は走り出し『カイン』の背中にしがみついた。

黄金の神経ガスが彼女の身体を蝕み、意識を奪おうとする。


だが、それでも……彼女は離れなかった。

『兄を抱き締め続けた』のだ。


そして、再び響き渡った『声』――


「今だ、1301ッ! 奴のコアを……俺と一緒に叩けぇぇぇッ!」


――脳を揺らすような『ゼロ』の声。

消滅したはずの彼は、システムのリソースを食いつぶし

『マザー』の防壁へと、極小さな『穴』を開けてくれていたのだ――


「うおぉぉぉぉぉッ!――」


――僕は、立ち上がった。


『視覚』『聴覚』『触覚』……全ての感覚を

眼前に空いた一つの『穴』に集中させる。


『マザー』の演算の隙間


『カインの葛藤』『リアの祈り』『ゼロの執念』


それら全てを剣に乗せ……僕は、中央樹の核

『赤ん坊の姿をした端末』を目指し跳んだ――


ズバァァァッ!!!!!


――振動剣が

乳白色の液体を満たした核を『カプセル』ごと両断する。

 

【――ア……ガ……何故……

人類は、また……争いの道を……エラーを……カカカッ……確認】


『恨み』にも似た感情を思わせる『マザー』の声

その、消えゆく声と同時に『楽園』は崩壊を始めた。


……天井の『人工太陽』が砕け

美しい花々は塵となって消えていく……中央樹は倒れ

『プラント』全体を揺らす大震動が起きた。


……『カイン』の瞳からは赤い光が消え

彼は、背中の……『リア』の存在に気付いた直後、静かに意識を失った。


「お……終わったのか?」


僕は崩れ落ちる壁の隙間から、外を見た……そこには

これまで一度も見たことのない、本物の『夜』が広がっていた。

 

空には『電子の光』ではない冷たくて美しい星々が煌めいている。

 

嗚呼あぁ、僕たちは『勝った』んだ。


……たとえ、この先に待っているのが

『マザー』の遺した『争いの道』だとしても……それでも。


僕たちは『勝ち取った』んだ――

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