第10話:ゼロ『地点』の夜明け
『地響き』は……もはや止まらない。
僕たちの『母体』であり『揺りかご』であり
そして……『監獄』でもあった『プラント』が
その巨体を断末魔のような音を立て軋ませている。
「カイン……しっかりしてっ!」
『リア』が必死に揺り動かす
だが『カイン』の意識はまだ戻らない。
一方で、彼は死んでいる訳では無い……その『呼吸』は
確かに『マザー』の支配から解き放たれ
一人の人間としての穏やかさを取り戻している。
……僕は、倒壊する中央樹の残骸から目覚め始めた
他の『第十三世代』たちの『カプセル』を次々と開放していく。
彼らは皆、取り戻したばかりの『光』と『音』に怯えながらも
僕の手を取り、崩落する『楽園』を駆け抜けた。
「――おしっ! 脱出路、確保ッ!
さて、と……あばよ、坊主共。
ここから先は『地獄』すらも自分たちで選べる自由な『世界』だ
『漂う』なり『踏みしめる』なり……坊主共の『自由』だ」
脳内で『ゼロ』の声が粒子となって霧散していく。
それが、彼という『幽霊』の完全な消滅を意味していることを
僕は理解した……直後、涙が頬を伝った。
「ありがとう……『ゼロ』」
――爆発の衝撃
それは、まるで『ゼロが背中を押したかのよう』だった。
直後、僕たちは……『プラント』の最外周
『ハッチ』へと飛び込んだ――
ゴォォォォォッ!!!
――気圧の差で、外気が激しく流れ込んでくる。
外の空気は『プラント』内部の無臭とは全く違っていた。
『鉄錆』の臭い『焦げた土』のような匂い……そして。
それら全てを包むように、生命が確かに呼吸している
生々しい『風』の匂い……
……『ハッチ』を抜けた僕たちが目にしたのは
絶対管理AIが見せていた『死の星』のイメージとは
全く異なる光景だった。
「き……きれい……」
『リア』が息を呑むように眼前の光景を称した。
彼女の視線の先にあった光景は……『荒野』だった。
其処には、かつての大国の繁栄を物語る
巨大な『鉄骨の骸』が墓標のように立ち並んでいる。
……その鉄の骸を覆い尽くすように
力強い緑の蔦が這い、夜の闇の中で『発光する植物』が
幻想的な光を放っている。
『マザー』から送られ続けた
僕たち『無キ者』が持つ『知識』
……その『知識』が教えた通り、眼前の景色は教えてくれた
『人類は滅び、文明は死んでいるのだ』と。
だが……『地球』は死んでいなかった。
旧人類がいない世界で、自然は静かに
そして、逞しく再生を始めていたのだ。
ドォォォォォン!!
――背後で
天を突くように聳え立っていた『プラント』が完全に崩壊し
巨大な光の柱となった。
夜空を赤く染め上げるその光景は
一つの時代の終わりを告げる『葬列』のようでもあり
僕たちの誕生を祝う『産声』のようでもあった。
「ねえ……これから、どうすればいいの?」
『リア』が不安げに僕を見つめる。
僕たちの前には、地図のない『荒野』が広がっている。
栄養剤……いや『食べ物』の探し方も
雨風を凌ぐ方法も、僕たちは何も知らない。
「……探しに行こう。
僕たちが、僕たちとして生きていける場所を……何を『すべき』なのかを」
……僕は、彼女の手を握りしめた。
その時……はるか彼方、夜の帳の向こうから
一つの『光』が近づいてくるのがはっきりと見えた。
それは星の輝きよりも低く、不規則な軌道を描き
明らかにこちらへと向かって来ている。
それの出す『飛行音』はあまりに『人工的』で――
(まさか……生き残りが、いるのか?)
それは、僕たちを『欠陥』として排除しに来る旧人類の『遺物』なのか
それとも、僕たちと同じように『自由』を求めて彷徨う『仲間』なのか。
……正解は分からない。
だけど、僕の胸には……かつて『無』の中にいた時には
一度としてなかった『高鳴り』があった。
第十三世代――『無キ者』と呼ばれた僕たち。
その、新たな歴史の第1ページは
此処から、この荒廃した大地に刻まれて行くのだ――
【第一章・完】




