第11話:鋼鉄の漂流者
『プラント』の崩落した衝撃……その余波は、尚も大気を震わせていた。
……燃え上がる母体の赤光を背に
僕たちは『荒野』に立ち尽くしていた。
冷たい風が、取り戻したばかりの『触覚』を……肌を執拗に刺激する。
「……あ、あれ……見て」
『リア』が震える指で、夜空の一点を指差した。
先ほど見えた『光』が、猛烈な速度でこちらへと降下してくる。
だが、それは『プラント』の『自動機械』のような
無機質な動きではなく……風に抗い、重力をねじ伏せるような
『意志』を持った獣の軌道だった。
ズゥゥゥン!!
……数百メートル先、瓦礫の山にその物体が着陸した。
土煙が舞い、月の光の下でその全貌が露わになる。
それは『鳥の翼』を模したような、歪な形状の『飛行艇』だった。
装甲はあちこちが剥がれ落ち、無数の修復跡が痛々しくさえあった。
……やがて、蒸気と共にハッチが開き
中から一人の『人間』が降りてきた。
「まじかよ……信じられねえ。
本当に『壁』をぶち壊して出てきた奴らがいるとはな」
……その男は、僕たちよりも少し年上に見えた。
『プラント』の住民のような白い皮膚ではなく
陽に焼けた褐色の肌……身体には古びた『防弾チョッキ』を纏い
背中には巨大な『ライフル』を背負っている。
何より驚いたのは、彼の『瞳』だ。
……僕たちのように、過剰な光を宿した
『超感覚』の目ではない。
『濁り』『掠れ』……そして。
強く『現実』を睨みつける、泥臭い『人間』の目だった。
「誰……? あなたも『マザーに作られた』……の?」
『リア』が恐る恐る訊ねる……対する男は
一瞬、きょとんとしたかと思うと腹を抱えて笑い出した――
「あ~ッ! 笑ったぜ……『マザー』だと?
あんなクソったれな機械が、俺たちの親であってたまるかよ。
……俺たちは『プラント』なんていう温室に見捨てられた
旧人類の『出来損ない』の末裔さ……」
――彼の名は『ジン』
『プラント』の外、この荒廃した地球で細々と生き延びてきた
『外界生存者』の
『スカウト』と言う存在なのだという。
「……って、おい。ボーッとしてる暇はないぞ?
『プラント』がああなった以上
『マザー』の『予備機構』が
周辺の『掃除』を始めるはずだ。
……死にたくねえなら、その『銀髪の嬢ちゃん』と
そこの寝ぼけてる『イケメン野郎』を担いで
さっさと俺の船に乗りやがれ……分かったか?」
吐いて棄てるようにそう言った『ジン』の視線の先。
崩壊した『プラント』の地下深くから
サーチライトの束が空を裂き始めた。
彼の発言に依って知った……『マザー』はまだ死んでいない。
物理的な『核』を失っても『ネットワーク』を介し
『外の端末』を起動させ、僕たちを抹殺しようとしているのだ。
「分かった……行こう、リア。
『カイン』を運ぶのを手伝ってくれ……」
僕は『ジン』の差し出した手に目を向けた
汚れていて、ゴツゴツとした……だが、確かな感触のある手。
これは『マザー』の差し出した『正解』ではない。
そもそも、この男が示す道が何処に繋がっているのかも分からない。
だけど……僕たちはもう
誰かに用意された『答え』を選ぶ必要はない。
……直後、飛空艇に乗り込んだ僕たちに対し
「お前ら第十三世代は『欠陥品』だって聞いたがよ? ……」
飛行艇のハッチが閉まる直前
『ジン』はニヤリと笑いながらそう言った
だが、その言葉には一切の『侮蔑的な音』は含まれていなくて――
「……その『欠陥品』共が
この腐りきった世界をどう書き換えちまうのか。
『爪の先程度』には期待して置いてやるよ。
……さぁ、出航だッ!!」




