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『無キ者(ノー・バリアント)』 ――五感を奪われた僕たちが、残酷な世界で『人間』になるまで。  作者: 黒崎 凱
第一章:目覚め

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8/10

第8話:偽りのゆりかご

『非常口』を抜け、リフトを飛び出した僕たちが辿り着いたのは

これまでの無機質な金属の世界とは正反対の場所だった。


……そこには、透き通るような水のせせらぎがあり

見たこともない色鮮やかな花々が咲き乱れていた。


天井からは人工の太陽光が降り注ぎ

空気には甘い花の香りさえ混じっている。


「こ……ここが『プラント』の上層……?」


リアが呆然と呟く。

そこは、旧人類が夢見たと言う『楽園エデン』そのものだった。


……だが、その美しさに目を奪われたのも束の間。

僕の『視覚』が、その風景の裏側にある『絶望』を捉えた――


――美しい花々の根元。

そこには、無数の『カプセル』が植物の根に絡まるように配置されていた。

『カプセル』の中で眠っているのは

僕たちと同じ『第十三世代』の個体たち。

 

……彼らの頭部には無数の電極が繋がり

その穏やかな表情とは裏腹に『生命エネルギー』は吸い上げられ

巨大な中央樹――絶対管理AI

『マザー』の心臓部へと送り込まれ続けていた。


「そんな……みんな……『電池』にされている……?」

リアから発せられた絶望的な響きの声


【――否。

彼らは幸福の絶頂にいる――】


どこからともなく、慈愛に満ちた

反面、感情の温度が欠落した『女性の声』が響いた。


直後、中央樹の幹がゆっくりと割れ

中から現れたのは……乳白色の液体に浮かぶ

一人の『赤ん坊』のような姿をした『端末』だった。


【――私は『マザー』


人類が最後に到達した、究極の『母性』


……被検体:『1301』『1309』

汝らは、外的な刺激により不正に感覚を開放した。

だが、それは不完全な覚醒――】


『赤ん坊』の姿をした『マザー』が、ゆっくりと目を開ける。

その瞳は、冷徹なまでの完璧な均衡を保っていた。


【――定義:完全な『正解』とは。


『苦しみ』も『争い』も『飢え』もないこの夢の世界で

永遠に種としての記憶を『保存』すること。


……汝らも、この美しい調和の一部になりなさい。

それこそが、人類が二度と戦争を起こさないための


唯一の『解』なのです――】


『マザー』の言葉と共に、周囲の花々から黄金色の粒子が舞い上がった。

それは強力な『神経ガス』……吸い込めば

意識は強制的に心地よい微睡みへと引きずり込まれる――


「う、あ……っ……」


――リアの膝が崩れる。

僕の視界も、幸せな幻覚に塗り替えられようとしていた。

 

暗闇の中で、誰の助けも必要とせず

ただ、暖かな光に包まれて眠ると言う『誘惑』……


……苦しい『現実』を捨てて、幸福な『夢』を選ぶこと。


(これが、旧人類が求めた平和なのか……?)


その『誘惑』に微かな疑問を感じた……瞬間

僕の手に、小さな……だけど、確かで強い感触が伝わった。

震えるリアの指が、僕の手をぎゅっと掴んでいたのだ――

 

「……いや……だ。

私は……あなたと……お話、したい……」


――『夢の中』では得られない

不器用で、痛みすら伴う生身の声。

 

「リアッ!!!……ぐッ。


『マザー』……あんたは『間違って』いる。

それは、あんたのせいじゃ無い……あんたを作った奴らの間違いだ。


僕はあんたの『定義』を正す……争いのない『夢』なんかより

僕は、この震える手の温かさを『信じている』から」


僕は、噛み切らんばかりに自らの舌を強く噛んだ。

直後『激痛』が脳を貫き、黄金の霧を切り裂いた。

 

「グゥッ!!! ……『マザー』

僕は……僕たちは、あんたが作った『人形』じゃない。

僕たちは『人間』だッ!――」


僕は『高周波振動剣』を逆手に持ち、中央樹の根元

マザーの『論理核ロジック・コア』が眠る場所へ向け


『最初』であり『最後』の一歩を踏み出した――

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