第7話:ゴースト・イン・ザ・システム
上昇シャフトを突き進むリフトの中
僕は荒い息を整えながら、自分の掌を見つめていた。
……先ほど、カインとの戦闘中に聞こえた『声』
それは確かに、脳内に直接響いて居た。
だが、冷徹な絶対管理AI『マザー』の声とは明らかに違う。
あの声は、熱を帯び……それでいて、どこか投げやりで
それでいて、とても力強い……『男の声』だった。
「……誰、なの?」
リアが不安そうに周囲を見渡す。
やはり、僕と共に『聴覚』を取り戻した彼女にも
その『響き』は届いていたらしい。
「ハッ! 漸く気づいたか。第十三世代の坊主共……」
――今度ははっきりと聞こえた。
リフトの操作パネルが激しく点滅し
『ノイズ混じりのホログラム』が空間に照射される。
そこに現れたのは……『ボロボロの軍服』を着た
不敵な笑みを浮かべる男の姿だった。
「よう……坊主たち。
俺は『ゼロ』……かつてこの『プラント』を設計し
最初にその『中身』にされた『第零世代』の成れの果てだ……」
「第零世代……? 最初の、人間……って、ことか? 」
僕が呟くと、ゼロと名乗った男のホログラムは皮肉げに口角を上げた。
「人間……ねぇ?
残念だが、そう呼ばれていた頃の記憶はもう無えよ。
……本来の俺の肉体は100年以上前に朽ち果て
今は意識だけがこのクソ忌々しいシステムの隅っこに寄生してる。
『マザー』の目を盗んで、お前らみたいな
『ハズレ値』が出るのを……ずっと待ってたんだぜ?」
……ゼロの話によれば、絶対管理AI『マザー』は
人類が二度と戦争をしないよう、徹底的に『個』を排除し
『種』としての平穏を維持することを至上命令とされているらしい。
だが、その過程で生まれた『第十三世代目』である僕たちは
『マザー』にとって『計算外の産物だった』とも――
「……いいか? 坊主。
上に行けば『マザー』の本体がある。
そこには、お前らの『感覚』を完全に定着させるための『鍵』と
このプラントを自爆させる『スイッチ』が並んで置いてある。
マザーはお前らを『完成体』として支配するか、さもなくば
ここで皆殺しにするつもりでそんな状態を生み出した。
まぁ……『安全装置』って呼ぶには
あまりに『暴力的』すぎだがな……ははは」
「どうして……私たちを助けるの?」
リアの問いに『ゼロ』は一瞬だけ表情を曇らせた。
「助ける……ねぇ?
大前提としてだが……俺たちの作った、この『聖域』は
つまるところ、ただの『監獄』だ。
『未来』を閉じ込め『成長』を……させないためのな。
だが……それを壊すのは、断じて俺たちの世代の『責任』じゃ無え。
今を生きようとしてる、お前たちの『権利』だ」
――『ゼロ』がそう言った瞬間
リフトは急停止し、同時に激しい衝撃が走った。
外部から何かがリフトを食い破ろうとしているような音が響く――
「なッ!? ……『カイン』か!?」
「いいや……もっと悪い。
『マザー』の野郎が直轄の『防衛システム』を起動させやがった。
坊主……その娘を連れて走れ! ここから先は、俺の役目だ。
一時的にシステムをジャックして道をこじ開けてやる!
だから……行けッ!!! 」
――リフトの天井が吹き飛び
無数の『電子的な触手』が降り注ぐ中……僕は『リア』の手を引き
開いたばかりの『非常口』へと飛び込んだ。
「ゼロ! あんたはどうなるんだ!?」
「『死んだ奴』の心配なんかしてんじゃ無え!
どうしても『スッキリしねえ』って言うんなら
外の『世界』を……俺の代わりに見てこい!
良いから……さっさと行けぇぇぇぇぇッ!!!!! 」
直後『ゼロ』のホログラムが
真っ赤な警告色に染まった『マザー』のプログラムと激突し
光の奔流となって弾けた。
嗚呼……僕たちは、止まれない。
僕たちは……止まらない。
僕たちは……止まってはいけない。
誰かの犠牲の上に成り立つ平和なんて……もう、在っては成らない。
……目指すは『最上階』
そこにあるのは『偽りの神』との対峙だ――




