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『無キ者(ノー・バリアント)』 ――五感を奪われた僕たちが、残酷な世界で『人間』になるまで。  作者: 黒崎 凱
第一章:目覚め

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第6話:支配者の模造品

ガギィィィン……ガシャンッ!!


空間を切り裂く青白い軌跡が

最後の一体となった『検疫官』の装甲を一刀両断した。


「はぁッ……はぁッ……」


荒い息を吐きながら、僕は『高周波振動剣』を振り抜いた姿勢のまま立ち尽くす。

足元には、先ほどまで僕たちを追い詰めていた数十台の機械の残骸が

火花を散らして転がっていた。


『視覚』が敵の軌道を捉え

『聴覚』が死角をカバーし

『触覚』が剣の威力を最大化する。


これが、五感を統合した『人間』の力なのか? ――だが。

そんな考えを巡らせる暇さえ与えられなかった。


……廃棄エリアの最奥、天を突くような上昇シャフトの前に

新たな『影』が立っていたのだ。


それは、僕たちと同じ『人間の形』……だが、その皮膚は透き通るほどに白く

血管の代わりに淡い青の回路が全身を巡っている。


何より異質なのは、その瞳だ……『左右で色が違う』のではなく

片方の瞳には、プラントの管理システム、絶対管理AI『マザー』と同じ

『赤い電子紋様』が刻み込まれていた――


【――第十二世代:個体名『カイン』

『検疫』を妨害するイレギュラーを確認……これより、排除を実行する】


――その声には、感情の機微が一切なかった。

まるで、スピーカーから流れる合成音声そのものだ。


「リア、下がって……!」


僕は高周波振動剣を構え、彼女を背後に庇った。

『カイン』と名乗ったその男は、腰に下げた無骨な『電磁警棒』を抜き放つ。


「――速ッ!?」


『視覚』を強化した僕の目ですら、彼の動きで追えたのは『残像』だけだった。

 

 ギィィィィィン!

 

剣と警棒が激突し、火花が僕の頬を焼く……重い。

一撃一撃が、重機に叩きつけられたかのような衝撃だ。

 

【汝らは、失敗作だ。

不完全な感覚、制御不能な感情……それは、新人類に必要のない『毒』である】


『カイン』が冷徹に告げる。

 彼は、第十二世代……僕たちの前の世代でありながら

システムにとって最も都合の良い『完成体』として

その精神をAIに明け渡した守護者だ。


……『目に刻まれた模様』がそれを物語っている。


(クソッ……読み切れない!)


超感覚ハイパー・センス』を駆使しても

カインの動きは『正解』の積み重ねであり、無駄が一つもない。

僕が攻撃を繰り出そうとする瞬間に、彼はすでに回避行動を終えている。


……圧倒的なスペックの差。

床に叩きつけられ、肺から空気が漏れる……視界が点滅し

意識が遠のきかけたその時――


「やめてッ!!」


――リアの叫びが、閉鎖されたシャフト内に響き渡った。

 

その瞬間、カインの動きが止まった……正確には

彼の『赤い瞳』が激しく明滅し『ノイズ』が疾走ったのだ。

 

【……ア……ガ……ッ!? ……個体名……1309……リ……ア……?……」

 

カインが、自らの頭を抱え激しく苦しみ始めた

システムの支配下にありながらも、恐らくその支配は『完全』では無い。


彼はきっと、リアの『感情』を伴った生身の音を聴いたことで

自らの中に残っていた『人間としての欠片』が共鳴したのだ。


「おっしゃ! 今だ、1301!」


――脳内に直接、誰かの声が響いた。

だが、これは『マザー』の声ではない。


もっと荒っぽく、どこか懐かしい響きだ……そして、少なくとも

僕の脳は、この声を『味方』だと判断した――


「はぁぁぁぁぁっ!!! 」


――僕は力を振り絞り『カイン』の足元

シャフトを制御するメイン・パワーラインへ向け、振動剣を突き立てた。


ドゴォォォォォン!!


爆発的なエネルギーが解放され、シャフト全体が激しく揺れる。

火煙の中で、僕はリアの手を掴んだ。


「……今の声、リアには聞こえた?」


「『カイン』……の声? ……それとも別の? 」


「ああ『別』の声だ……リアにも聞こえたんだね? 」


この瞬間、リアは何故か否定も肯定もしなかった。


……疑問を感じなかった訳じゃない

でも、僕は彼女と二人で一つだ……だから、今は良い。

彼女が何かを話したい時、伝えてくれる時

僕は全力で、それを『聴き』『見て』『感じ』れば良いのだから。


「っ……!」


瞬間、シャフトの上方から

かつてない『解放感』を伴った風が吹き下ろしてきた。

 

今は、進まなければ……『カイン』を

そしてこの階層を置き去りにして僕たちは上昇を開始した。


上に存在するのは『聖域』の心臓部……そこには

僕たちの『出生』に纏わる本当の『呪い』が眠っている。


僕はそれを……見つけるため

僕はそれを……確かめるため

僕はそれを……『破壊』するため。


真っ直ぐに天を睨んだ――

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