第5話:遺志の墓標
背後から迫る数十台の『検疫官』
その金属の足音が、心臓を直接握りつぶすような地響きとなって迫る――
「リア、飛ぶよ!」
――僕は彼女の細い腰を抱き寄せ、開いたばかりの『廃棄ダクト』
その、底の見えない暗黒の穴へと身を投げ出した。
浮遊感……そして、焼けるような空気の摩擦。
僕たちは、まるで『ゴミ』のようにパイプの中を滑り落ち
やがて、冷たい水が溜まった空間へと放り出された。
「っ!? げほっ……がはっ! ……くッ……リア、大丈夫か!?」
僕が声を上げると、隣でずぶ濡れになったリアが
震えながらも小さく頷いた。
ここは、プラントの最下層……『廃棄エリア』と呼ばれる場所だった。
……取り戻した『視覚』が、その『惨状』を映し出す。
山のような機械の残骸……それらと共に
無数の『カプセル』が転がっている。
……かつて、僕たちと同じように生み出され
そして『正解』を選べず捨てられた
第一から第十二世代の先達たちの残骸だ。
「これ……みんな……っ!」
リアの声が絶望に震える。
カプセルの中には、成長が止まったまま
或いは、成人の姿で絶命した『無キ者』たちがいた。
……彼らの表情は、皆同じだった。
五感を得られないまま死んでいった者たち特有の、深い『虚無』だ。
「そうだ……そして僕たちでは助けられない」
そう、リアに対し『残酷な宣告』をした直後……山積みの残骸の奥から
微かな光が漏れているのに気づいた。
……それは一台の古い端末だった。
モニターはひび割れ、筐体は錆びついているが……そこには何故か
第十三世代である僕たちへ向けられた『遺言』が記録されていた――
「――第十三世代、もし君たちがここに辿り着いたのならば
おめでとう……君たちは、我々が意図的に仕込んだ『最後のエラー』だ」
――画面に映ったのは、旧人類の科学者らしき男。
その背後では、巨大な爆発音が響き、建物が崩れ落ちる光景が映っている。
「良いかね……『プラント』は、人類を矯正するための施設ではない。
ここは、自浄能力を失った旧人類が
自分たちの罪を新人類に押し付けただけの『ゴミ捨て場』だ。
絶対管理AI『マザー』は、君たちが他者のために死ぬことを
『正解』と定義している。……だが、それは違うッ!」
……男は血の滲むような叫びを上げた。
「良く訊いてくれ……真の『正解』は、生き残ることだ!
手を取り合い、理不尽なシステムを否定し
この歪んだ『聖域』を壊して外へ出ること。
……それだけが、我々が君たちに託すことの出来る唯一の『人間性』だ。
いいか『プラント』の外には……ぐぁっ!? ――」
……そこで、映像は『ノイズ』に飲み込まれ、完全に途絶えてしまった。
再度、再生される事も無く……端末は完全に焼け焦げ
その機能を完全に停止した。
そして、この直後……『廃棄エリア』に響き渡った凄まじい轟音――
ドォォォォォン!
――上層から『検疫官たち』が、文字通り『降り注いで』来たせいだ。
「リア……聞いただろ? 僕たちは、死ぬために生まれたんじゃない」
旧人類からの称賛とも応援とも受け取れる言葉を信じ
リアにそう告げた瞬間――僕の真横
焦げた端末を貫くように現れた、旧時代の――
『遺物』
――まるで、僕たちへの餞別かのように『差し出された』
『高周波振動剣』の柄を握りしめた。
「ほら、彼も応援してくれているんだ……だから、信じて」
小さく頷いたリア……直後、僕の『視覚』は敵の関節を正確に捉え
『聴覚』が、敵の駆動音から攻撃のタイミングを読み取った。
そして……『触覚』が、握った剣から伝わるエネルギーの『拍動』を感じ取る。
「もし、僕たちがこの世界の『バグ』だと言うのなら
リア……僕たちで、そのバグを『正解』にするんだ」
……僕は、リアの手を握った。
彼女の碧い瞳に、強い決意の光が宿る。
降り注ぐ鋼鉄の雨の中、第十三世代の『欠陥品』である僕たちは
自らの意志で『世界』に牙を剥いた――




