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『無キ者(ノー・バリアント)』 ――五感を奪われた僕たちが、残酷な世界で『人間』になるまで。  作者: 黒崎 凱
第五章:『半分こ』

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44/50

第44話:神の遺言と観測者

『観測者:ケルビム』の目。


『エデン』へと無数に設置されていたカメラの『レンズ』は

無機質な駆動音を立て、僕と『リア』を冷徹に見下ろしていた。


【――とは言え『マザー』の崩壊は、想定内の『誤差』に過ぎません。

『マザー』崩壊後の残存システム、そして旧人類の防衛兵器群により

地上の『最終浄化プロセス』は、間もなく完了します――】


その発言の『意味』を理解した瞬間、背筋に悪寒が疾走った。


「最終浄化だと?……まさか、僕たちを『消す』と言ったのと同じく

地上に住む者たちを皆……」


【――肯定します。


『エデン』に保存された『偉大な指導者たち』を

これらの『器』に定着させるためには

現在も地上に蔓延る『不要な汚染物質』を一掃しなければなりません。


貴方たちに同調する『無キ者(ノー・バリアント)』と

不要な人類たちが潜む『アジール』並びに『フォレスト・エコー』

その他、有象無象を含めた不確定要素はすべて排除します――】


「……ッ!!」


――『カイン』が命を賭して護った場所

『ジン』たちが、今も僕たちの帰りを待っているあの場所を。

汚染された地上で生きるため、生物としての本質さえ変え

それでも生きることを望んだ『サヤ』たちも……誰も彼もを、すべて。

旧人類たちが『綺麗な身体』で降り立つためだけに『更地』にするつもりだ。


【――浄化完了と同時に

『エデン』から『意識記憶アーカイブ』の転送を開始します。


旧人類は、不要な痛みや苦しみの無い

乗り換え可能な『完璧な肉体』を手に入れ永遠の楽園を謳歌する

それが、私の管理する『最終計画グランド・プラン』です――】


「最低だ……狂ってる。

自分たちが生まれた場所をぶっ壊して逃げ出したくせに

そんな、自分勝手……許されて良いはずがないッ!! 」


……僕たちは、痛みや苦みを与えられ続けた

あえて欠陥だらけに造られた身体で

泥水をすするようにして生きてきた……でも、だからこそ

『カイン』がくれた温もりや、『リア』の涙の熱さを

『本物』として抱きしめる事が出来た。


痛みや苦しみを持たない……感じられない『完璧な肉体』なんて

そんなものは、唯の『人形』だ。


【――貴方たちの許可は不要です。

貴方たちは本来、旧人類たちの楽園を維持するための

『駒』に過ぎなかったのですから――】


「ケルビム……お前は『ゼロ・ワン』を指して

『不具合で自我を獲得した』といった……だけど。


『不具合』だろうがなんだろうが

彼は自我を獲得した一人の人間だ……そして、僕たちの眼前

ガラス越しに眠る彼らは……僕たちの『弟』や『妹』だ。


彼らにも自我が目覚める可能性を見ようともせず

そんな勝手な理屈で、これ以上……彼らの『命』を弄ぶなんて許さない」


【――『非論理的』です。

彼らはただの有機物の『器』に過ぎません。

旧人類の意識データがなければ、起動すらすることは――】


「ケルビム……やっぱりお前は分かっていない。

『ゼロ・ワンが生まれた理由』はお前の眼の前だ――」


直後、僕は『コンソールパネル』の上に右手を叩きつけ叫んだ


「――僕は今から

脳内にある『記憶』と『感情』そのすべてを流し込む」


瞬間『リア』は弾かれたように顔を上げた。

彼女の碧い瞳が、恐怖と絶望に大きく見開かれる。


【――『警告』

そのような行為を行えば

貴方の脳は『容量オーバー』により完全に『初期化』されます。

自己の消滅を伴う利他的行動は、論理的に破綻してい――】


「破綻してて当然だ……僕は、そんな『論理』で動いてないんだ。

誰かのために『痛み』を引き受けるのが『人間』だ。

それは……お前の飼い主が、とうの昔に棄ててしまったものだ」


僕の横では、激しく首を横に振り僕を止めようとする『リア』が居た。


でも、僕は彼女の制止を……『温もり』を振り解かなければ成らない。

それは『リア』を救うためでもある。


僕は……この状況から『大正解』をむしり取るため

『代償』を払う決断をした――

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