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『無キ者(ノー・バリアント)』 ――五感を奪われた僕たちが、残酷な世界で『人間』になるまで。  作者: 黒崎 凱
第五章:『半分こ』

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43/50

第43話:純真なる空の『器』

冷徹な『観測者:ケルビム』の監視の目を背に受けながら

僕たちは、巨大な『データサーバー群』を抜け

『エデン』のさらに奥深くへと歩みを進めた。


シューゥゥ……ッ……


……やがて、到着したその先

分厚い隔壁の先にあった『光景』に、僕は言葉を失った。


「うそ……だろ? ……」


……そこにあったのは

見渡す限りに並べられた無数の『カプセル』だった。

氷のように冷たい『保存液』の中に浮かんでいるのは

何千、何万という『人間』の肉体だったのだ。


……『リア』が震える手で、近くのカプセルに触れる。

中に眠っていたのは、僕たちと同じくらいの年頃の『少年少女』だった。

だが、僕たちとは決定的に違う。


より人間らしい……透き通るような肌を持った

傷一つない『完璧な生身の肉体』だ。


【――彼らは『第十四世代』


旧人類の『意識記憶アーカイブ』を

浄化された地上に降臨させるための『純真なる器』なのです――】


『ケルビム』の無機質な声が空間に響く。


【――それらは

『感情』も『痛覚』も『自己エゴ』も何一つ存在しない

ただの『極上の肉袋』に過ぎません――】


その言葉を聞いた瞬間、僕の脳裏に

あの悲しげな瞳がフラッシュバックした。

『ゼロ・ワン』……黒い翼を持ち

泣きながら僕たちを殺そうとしたあいつだ。


「……ケルビム、一つ、聞かせてくれ。

『ゼロ・ワン』も……この『器』だったのか?」


【――肯定します。


私は『マザー』の管理する『秘匿地域』へ

此方エデンとの通信端末として

一体だけ『スペアの器』を設置していました。


しかし、貴方たちの『反乱』により『マザー』及び『プラント』は崩壊。

その際、行き場を失った数千万の断末魔のノイズは

通信経路を逆流し、重篤な『エラー』を起こしました。


その結果『スペアの器』に流入してしまったのです――】


僕は息を呑み『リア』は両手で自身の口を激しく覆った。

だが、そんな僕たちの様子など些末かのように『ケルビム』は続けた。


【――『スペアの器』は

唯の人間であれば致死量の『痛みのデータ』を一挙に受け止め

『論理崩壊』を起こしました。


そして……『不具合バグ』としての『自我』を獲得してしまった。

それが『異端者イレギュラー:1401』の正体です――】


「そんな……ッ……」

喉の奥から、乾いた嗚咽が漏れた。

彼の苦しみは僕の選択が原因だったというのか?

僕が……彼を生み出してしまったというのか?


「くッ……!」


あまりにも大きな『罪悪感』……耐えられず、崩れ落ちた僕の身体を

『リア』は力強く抱きしめてくれた。


彼女の頬からこぼれ落ちた大粒の涙が、僕の首筋を温かく濡らす――


(大丈夫……あなたが感じた罪の痛みも

私が『半分こ』にするから……)


――彼女の温もりは

まるで、そう慰めてくれたかのようだった。


罪悪感を棄て去る事は出来なくても

助けることで償うことは出来る。


そうだ……僕の前にいるのは、まだ何も知らない

数千人の『兄弟たち』だ……助けなきゃ。


直後……僕は『リア』の温もりを感じながら

ゆっくりと立ち上がった……残された左目で

『ケルビム』の意識が宿った『無機質なレンズ』を

真っ直ぐに睨み据えながら――

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