第42話:エデンの墓標
永遠のような『上昇』の果て、昇降機の扉は重々しい音を立てて開いた。
ズゴォォォォン……ッ!
『エデン』……旧人類が
争いと汚染に依って穢された地球を見捨てて逃げ込んだ
宇宙の果ての『楽園』……だが、扉の向こうに広がっていたのは
僕たちが想像していたような『希望の箱舟』などではなかった。
「なんだ、これ……」
……見渡す限り続く、無機質で冷たい『金属の塔』
規則正しく並んだ無数の巨大な『サーバー群』が
不気味な青い光を点滅させながら、低い駆動音だけを響かせている。
血の通った生命の気配など、ただの一つも存在しない。
そこは、文字通りの『データの墓場』だった。
……頭上には、誰のためなのかすら分からない
『立体投影映像』で投影された『偽りの青空』が
チカチカとノイズ混じりに瞬いている。
『カイン』が命を賭して護ってくれた
あの痛いほど眩しい『本物の空』とは違う
ひどく薄っぺらで、吐き気がするほど『綺麗』な空だ。
……僕の右手を握る『リア』の手が、微かに震えていた。
物理的な『寒さ』じゃない。この空間を満たしている
徹底的な『死』と『停滞』の匂いが
生きている僕たちの『本能』を怯えさせているのだ。
【――観測。
ようこそ『論理破綻』した『異端者』たちよ――】
不意に、空間の四方から、一切の抑揚を持たない声が響いた。
だが……その声には、あの『マザー』のような神を騙る威圧感はない。
唯、ひたすらに『温度』を排除した冷酷さだけだ。
「お前は誰だ?……お前が『マザー』の本体か?」
『振動剣』を構えながらそう問うた直後
サーバー群の間に、青白い光の束が人の形を成した。
【――否定します。
私は『エデン』を管理するシステム『観測者:ケルビム』です。
『マザー』は、地球の『清掃』を担当する『下位プログラム』に過ぎません――】
「下位プログラム、だと……?」
【――ええ。
『マザー』の行動原理は
すべて、この『エデン』に保存された旧人類のエリートたちのため。
彼ら『オリジナル』の『意識記憶』が目覚めるその日まで
地球上の不要な汚染物質を焼き払う事
そして、彼らの『駒』となる人類の『再定義』です――】
直後『ケルビム』の青白い瞳が、僕と『リア』を冷徹にスキャンする。
【――旧人類の『指導者たち』は、争いと汚染に満ちた肉体を捨て
自らを『データ』としてこの『エデン』に保存しました。
すべては、綺麗に浄化された地球で
再び、今度は永遠の命を謳歌するため……しかし。
『マザー』の論理を破壊し、ここまで到達する
『不具合』などが存在しようとは。
貴方たちは、非常に興味深い『エラー』です――】
「僕たちは……『不具合』なんかじゃないッ!
『カイン』も『ジン』も……『アジールの皆』も
皆、皆ッ!!! ……血を流して生きてる『人間』だッ!!!
お前らみたいに、安全な箱に逃げ込んでふんぞり返ってる
『亡霊』なんかが……命を、舐めるなッ!!」
……僕の怒号が、冷たい墓場に虚しく反響する。
だが『ケルビム』は、まったく動じることなく
唯、冷ややかに僕を見下ろしていた。
【――『感情的』で『非論理的』な生体反応ですね。
成程……良いでしょう。
貴方たちは直ちに『排除』予定でしたが
予定を変更し、貴方たちのその『生存本能』が
この先の『真実』に耐えうるか……少しだけ。
『観測』させてもらいましょう――】
ゴゴゴゴゴ……ッ。
――直後、青白い『立体投影映像』は消え
サーバー群の奥へと続く、分厚い隔壁が開かれた。
隔壁の奥から漏れ出してきたのは……凍りつくような『冷気』だった。
「……行こう、リア。
この、ふざけた箱舟を……終わらせよう」
僕が右手に力を込めると『リア』は強く頷き返し
僕の見えない右側を補うようにピタリと身を寄せた。
……開かれた道の先、過去の亡霊たちが眠る墓標の最奥へ
僕たちは、静かに足を踏み入れた――




