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『無キ者(ノー・バリアント)』 ――五感を奪われた僕たちが、残酷な世界で『人間』になるまで。  作者: 黒崎 凱
第四章:ゼロ~喪失~

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第36話:『盾』の終焉

――視界が『ノイズ』で埋め尽くされていく。


診療所のタイルに額を押し付けたまま

僕は血を吐くような思いで『超感覚ハイパー・センス』を繋ぎ止めていた。


『激しい』なんて可愛い表現では足りない戦況

僕の意識が捉える戦場は、もはや地獄そのものだった――


「次……後、何体だ……ッ……」


――『カイン』の肉体は、すでに限界を越えて久しい。

右腕の筋肉はズタズタに裂け、左脚からは血が滲んでいる。


それでも彼は、襲い来る殺戮機械の群れをその身一つで弾き返し

『アジール』への進軍をただ独りで食い止めていた――


(カイン……っ、もういい、もう止めてくれッ!!!

死んじゃう……死んじゃうよカイン……ッ!)


――僕の思念が、絶叫となって彼に突き刺さる。

だが、僕が力を振り絞るたび、僕自身の脳細胞もまた炭化し

最後の一粒だったはずの『寿命』が

猛烈な熱を持って蒸発していくのが判った。


「五月蝿いのはお前だ、1301……感情みたいな『柔らかい物』

捨て去っちまえば『盾』として『強くなる』んだよ」


脳内に返された『カイン』の思念は

無機質な声では無く、聞き慣れた『兄貴』の声だった。

彼は……『笑って』いた。

無数の刃に貫かれ、血を流し……雪を赤く染めながら。


(カイン……感情を棄てるなんて言わないで

もう良いから……戻ってきて……ッ……)


「全く……仕方ない弟だなお前は……お前の『熱』は……

俺の……固まっちまった身体を溶かす……最強の……』


カインの『超感覚ハイパー・センス』を通じ

彼の視界が明瞭に流れ込んでくる。


……真正面。数千、数万という機械の軍勢が

最後の殲滅のため、一斉に熱線を充填させているのが見えた。


(ダメだカインッ!! 逃げてッ!!……)


「馬鹿が……逃げられるかよ。


俺は、お前らの『盾』なんだ……ここを突破されたら

『リア』の『歌』が……消えちまうだろ?』


瞬間……『カイン』の全身から、凄まじい光が放たれた。

それは、第十二世代の唯一の完成体として

その、生体エネルギーをすべて『防御力』へと変換する

文字通り『命の燃焼』だった――


「1301……よく聞け。

『自由』ってのは、独りで抱えるには重過ぎる。


だから、あいつと……『リア』と、半分こしろ。

お前らの『本物の空』は……俺が絶対に護ってやるから」


(待って……カイン、待って……ッ!!)


――僕が手を伸ばそうとした、その時だった。


「あばよ……自慢の弟」


『ブツッ』


脳内を貫いていた激しい振動はすべて消え去った

『カイン』と……彼の『熱』と共に。


彼は自らの手で、僕との『共感覚シナプス』を物理的に切断したのだ――


………


……



「カイン……? カイン……カインッ!!

嫌だ、繋がって……カインッ!!!」


――僕は。


暗闇の中、狂ったように叫び続けた。

繋がらない……『右側』と同じ

冷たくて……底の見えない『無』が広がるばかりだった。


窓の外……遥か遠くの北の空は

闇夜を真昼に変えるほどの強烈な閃光に包まれていた。

 

……地響きが『アジール』を揺らし

診療所の窓ガラスはビリビリと揺れた。


それは……『最強の盾』がその使命を全うし

消えてしまった悲しみの『揺らぎ』だった――


「ぁ……あ……ぁぁぁぁぁ……ッ!!」


――喉が張り裂けるような絶叫さえ、僕の口からは出なかった。

動かない左腕を抱き、僕は泥のような静寂の中に沈んでいく。


僕は……僕たちは、大切な人を失った。

共に空の青さを見つめてくれる、最高の『兄』を――

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