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『無キ者(ノー・バリアント)』 ――五感を奪われた僕たちが、残酷な世界で『人間』になるまで。  作者: 黒崎 凱
第四章:ゼロ~喪失~

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第31話:魂のデッドコピー

空を覆う黒き翼は、僕たちの覚悟を嘲笑うかのように

『不協和音』を増幅させた


僕が『振動剣』を『設置点アース』にして放つ

逆位相の『精神波』は、辛うじてアジールの人間たちが

『虚無』へ呑み込まれるのを食い止めていた……だが。

それは文字通り、僕の命を『燃やしている』に等しい暴挙だった。


「……が……はっ、ぁ……ッ」


肺からせり上がるのは、鉄の味がする熱い塊。

視界の右側は、すでに完全な暗闇と成った……左側の視界も

火花のようなノイズが走り『リア』や『カイン』の姿を捉えることさえ

酷く難しくなっていた。


「1301! もういい……もう、やめてっ!」

『リア』の悲鳴のような声が、ノイズの隙間から届く。

彼女は僕の肩を掴もうとして、その手が

僕の皮膚から滲み出た血で赤く汚れるのを見て、息を呑んだ。


「……ダメ……だ……ここで僕が手を離せば……みんな

また『人形』に戻ってしまう……アジールの皆さえ……

元々『人間』だった彼らさえも……みん……な……」


……僕の肉体は、もはや限界を超えていた。

超感覚ハイパー・センス』の過負荷によって

脳の神経は一線を超え、物理的に『焼き切れる』音が聞こえていた。

このままでは『ゼロ・ワン』を止める前に僕の脳が『炭』になってしまう。


死が怖いんじゃない……唯、物理的な『剣』では

『ゼロ・ワン』という『現象』が斬れない事が怖かったのだ。


……彼の中に渦巻く数千万の『悲鳴』を鎮めるには

僕自身が『信号ノイズ』となって、その深淵へ飛び込むしかない。


「ねぇ……ジン……『バベル』で

あの『案内人』が僕に持たせた……あの黒い箱を」


「……っ! 正気か!?

あれは旧人類が、肉体の死を超越するために開発し

そのあまりの非人道性ゆえに封印したと言う

意識の『強制写本デッドコピー』デバイスだぞ!

適合率が100%を超えれば、お前の意識は肉体という『重り』を失って

二度とこっち側には――」


「……このままじゃッ!!!

どのみち『最後の一粒』が落ちて終わる……だったら

僕の魂を『データ』に変換してでも

あいつの孤独の核に叩き込むしかないんだ。


……あいつを『独り』で死なせたくないんだ」


僕は、震える手で『ジン』が躊躇いながら差し出した

『銀色の端子』を受け取った……それは『案内人』が

『世界の再構築に失敗した時のための予備』として渡してくれた

自己の消失を意味する『禁忌の鍵』だった。


「1301……っ」


『リア』が、僕の手を両手で包み込んだ……その手の温もり。

生身の身体だけが持つ、柔らかくて、少しだけ汗ばんだ

愛おしい『熱』……この『銀色の端子」を自らに突き刺せば

僕は二度と、この温もりを『肌』で感じることは出来なくなる。

『視覚』も『聴覚』も……すべてが唯の『数値』に置き換わってしまう。


「ううん……大丈夫だ。

君の歌声は……僕を繋ぎ止める『アンカー』だ。


だから……必ず、戻ってくる」


僕は……一つ『嘘』をついた。

確証など何もないのに、まるで必ず『戻れる』かのように。


嗚呼あぁ……『土の匂い』『硝煙』

そして『リア』の微かな体温……それらすべてを

消えゆく脳細胞たちの一片一片に焼き付けよう。


「さよならだ……僕の、身体」


――ガチリ。


冷たい金属の感触が、僕の脳へと直接『接続コネクト』された。

瞬間、数千万の電子の叫びが脳を貫き

僕の意識は爆発的な光の中に吸い込まれた。


血を流し、激しく脈打っていたはずの僕の『肉体』は

魂を抜かれた抜け殻として、泥の中に崩れ落ちたのだ――

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