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『無キ者(ノー・バリアント)』 ――五感を奪われた僕たちが、残酷な世界で『人間』になるまで。  作者: 黒崎 凱
第四章:ゼロ~喪失~

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30/50

第30話:黒き翼の『救世主』

世界が『個』として目覚め

その暴力的なまでの情報の奔流に溺れかけていた時、その『現象』は起きた。

アジールの北方『マザーの聖域跡地』に浮かび上がった漆黒の少年


――個体名『ゼロ・ワン』


彼の背中に広がるドローンの残骸で出来た鋼翼からは

耳をつんざくような不協和音が放たれた。

だが『音』ではない――


【……イタ……イ。コワ……イ。

ダカラ……モウ、ヤメヨウ? ……ヒトツニ、モドロウ? ――】


『ゼロ・ワン』の意志も声も『単一』ではなかった。


……それは『マザー』という『揺りかご』を失い

外界のノイズに耐えきれなくなった数千万の同胞たちの

『泣き声』を重ね合わせた、巨大でおぞましい『苦痛』と『逃げ』


現界してしまった、唯独りの『第十四世代』……彼は

『マザー』が消滅した空白のネットワークに

行き場を失った『無キ者(ノー・バリアント)』たちが

『殺到』したことで産み落とされた、悲鳴の『器』だった。


「……ッ、が、ああああっ!」


僕の『超感覚ハイパー・センス』は

その強烈な『回帰信号リターン・コード』をまともに受信し

脳髄の内側で火花を散らした。


……眼球を直接焼かれるような激痛。

『リア』が喉を枯らして繋ぎ止めたはずの

同胞たちの『共感覚シナプス』が

『ゼロ・ワン』という名の巨大な虚無へと……まるで

磁石に吸い寄せられる鉄屑のようにずるずると引き摺り込まれていく。


アジールの周囲にいた同胞たちは

一瞬で糸の切れた人形のように静まり返った。


彼らは、一切抵抗していない。

寧ろ、剥き出しの自由がもたらす『生の痛み』から逃れるために

自ら進んで『ゼロ・ワン』という救済の中へ溶けようとしていたのだ。


「な……何をしたんだ、あいつはッ!」

『カイン』は動かない右腕を庇いながら

空を埋め尽くす黒き翼を睨み、そう叫んだ。


「違う……カイン。あの子……『攻撃』して……ない」

血の混じった唾液を吐き捨て

『リア』は震える声でその本質を読み解いた。


「……唯の『空っぽ』なの。

数千万の『孤独』を詰め込まないと、今にも消えてしまいそうなほど

あの子自身……寂しくて『空っぽ』なの……」


【―― コッチヘ、オイデ?

私ノ中ニ戻レバ……モウ、何モ感ジナイ

私ガ、君タチノ『ユリカゴ』ニナッテアゲル ――】


『ゼロ・ワン』の翼が激しく発光したこの直後

人間であるはずのアジールの住人たちまでもが

恍惚とした表情で彼の方へと歩き始めた。


それは……『救済』という名の、圧倒的な『個の抹殺』


「い……行かせ……ないッ……」


……僕は、止めどなく溢れる血を手の甲で拭い踏み出した。

視界の半分は、すでに完全なノイズに食い破られている。

脳の血管が何本も焼き切れ、砂時計の最後の一粒が

今にも落ちようとしているのが分かる。


「……僕たちが選んだ道が……正しいとは言……わない。

だけど……一人で立ち、泥を啜ってでも

誰かの手を握る事は『悪』じゃない……君の腹の中に

逃げ込む事は『善』じゃ……ないッ!」


僕は、壊れかけた『超感覚ハイパー・センス』を

強制駆動オーバードライブさせ、再び『振動剣』を地面に突き立てた。


『ゼロ・ワン』の放つ『統合の波』を弾き返すための

逆位相の『精神波』――


バリバリバリッ!!


――空中で、数千万の『孤独』と

僕の『命の熱』が激突し、電子の塵が荒野を白く染め上げる。


「……ぐ、ァァァァァァッ!!」


全身の皮膚から血が滲み出す……『マザー』という神を失った世界で

産み落とされてしまった哀しき『孤独』と

それを食い止めようとする不完全な『欠陥品ぼく

悍ましい程の『本当の空』の下、僕は意識を込めた――

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