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『無キ者(ノー・バリアント)』 ――五感を奪われた僕たちが、残酷な世界で『人間』になるまで。  作者: 黒崎 凱
第三章:砂時計

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第25話:父たちの墓標

『バベル』の入り口、其処に鎮座していたのは

見上げるほどの威容を誇る『鋼鉄の門番』だった。


……さらにその後方、灰色の霧の奥からは

旧時代の『多脚重戦車』が、砲身に致死量の熱を帯びながら此方を睨んでいる。


最悪だ……何処にも逃げ場がない。

僕の『超感覚ハイパー・センス』が

空気を焼き焦がす高出力のエネルギー充填音を捉えた。


「――伏せろッ!! 回避不能だッ!!」


『カイン』が叫び、僕たちを庇うように巨大な瓦礫を構える。

だが、直撃すれば彼の強靭な肉体さえ消し去られ

僕たちは一瞬で『炭化物』へと変えられるだろう。


直後、絶望の中放たれた、圧倒的な光の奔流――


ドォォォォォォォォン!!


――鼓膜を突き破る程の爆音。

だが……僕たちを覆い、灼き尽くすはずの『熱』は

何故か僕たちには届かなかった。


代わりに、僕たちの視界を覆い尽くしたのは

濃密な『白い霧』と……むせ返るような『腐臭』だった。

 

「だ……誰だ!?」


霧の奥から這い出てきたのは、数多の『異形の影』たち。

機械と肉を醜く接合し、全身に薄汚れた包帯を巻いた彼らは

かつて『廃病院』で出会った『アリス』の同胞。


あの……『第一世代』の生き残りたちだ。


「往け……第十三世代よ……」


弱々しく……だが強くそう言った彼らは

直後、崩れかけた自らの肉体から高濃度のジャミング効果を持つ

亡霊之息吹ファントム・スモーク』を吹き出しながら

防壁となって『巨神兵』のセンサーを狂わせ、そして――


「ここは……我らが『父』の眠る墓標……『最後の希望』たるお前達を

ここで……絶たせるわけには……いかない……」


――無慈悲にも『マザー』に捨てられた

『最初の欠陥品』たちである彼らは……この瞬間、自らの命を削り

『最後の欠陥品』である僕たちのため道を切り拓いてくれた。


「……ありがとう。

君たちの意志を無駄にはしない……行こう。リア、カイン」


僕たちは、決死の背中に別れを告げ

バベルの『最下層』へと向かう堅牢なハッチへと滑り込んだ。


……深く、底の見えない階段を降り

底知れない恐怖を感じながらも僕たちは歩みを止めなかった。


そうして進んだ道の先……数百を超える

永遠とも思える階段の後に広がっていたのは

『プラント』の無機質な白とも『アジール』の錆びた赤とも違う

ひたすらに冷たく深い、底知れぬ青……『深海色ダークブルー』だった。


『バベル』――神の領域へと至るための、天に届く塔。

だけど、この場所は天空などでは無く

地の底へ……底へと向かって伸びている。


……理由は、すぐに分かった。

自らの手で空を焼き尽くし

天を見上げる資格を失った旧人類は

自分たちの『罪の結晶アーカイブ』を

光の届かない『地底深くへ隠すしかなかったのだ』……と。


ここは『塔』なんかじゃない。

人類が自ら掘り進めた、巨大な『墓標』だ――


「なに……これ……この人たち……みんなっ……!」

どこまでも続く通路の両側、そこに並んでいたのは

巨大な『培養槽シリンダー』だった。

……『リア』が震える手で、透明なガラスに触れ

怯えたように口を抑えた。


母体に於ける『羊水』のような液体の中で眠っていたのは

僕たちよりもずっと年上の『壮年の男』たち。


そして……彼らは皆『同じ顔』をしていた。

 

それは、この狂った世界を設計し

『プラントの廃棄場』で出会った『ゼロ』と同じ顔。


『第零世代』の『原初之複製体オリジナル・クローン』たちだ。


「ああ……これは『ゼロ』だ。

彼の過去だ……彼の『苦しみ』だ」


……まだ、僅かに狼狽える『リア』を落ち着かせるため

敢えてそう告げた僕……だが。

この直後――


【――『来訪者』を確認。

『プロジェクト・バベル:最終管理プログラム』を起動します――】


――通路の奥から発せられた脳を揺らすような声


現れたその存在は……『実体』を持った

機械人形アンドロイド』だった……そして。

その顔は『培養槽シリンダー』の中で眠る男たちの

『若き日』の姿に、恐ろしいほど酷似していた。


「お、お前は……」


【――私は、父たちが遺した『記録装置』にして『案内人』。


『第十三世代』……汝らが此処に至ったという事は

汝らの『命の灯火』が、既に尽きかけているという事ですね?――】


『案内人』は、一切の感情を排した双眸で

僕の目をじっと見つめながらそう問うた。

そして――


【――汝らの短命は『不具合バグ』ではありません。

それは、汝らが『人間』へと回帰するための最終的な条件なのです――】


「じ……条件、だと?」


【――


肉体という『器』を捨て、純粋な『情報思念ゴースト』として

『マザー』を上書きし、この星の『新たなシステム』となるか。


それとも『人間』として、僅か数年の後に命を燃やし尽くし

『土に還る』か、歩める道は二者択一……さぁ。


『選んで』ください――】


……提示された、究極の二択。


『永遠の命』と『絶対的な力』を得て『心』を機械に捧げるか。

それとも『リアの指の温もり』を感じられる『人間』のまま

二年後に必ず訪れる『死』を迎えるか。


嗚呼あぁ……馬鹿げている。


「そんなの、決まってる――」


……僕は。

僕の手を、震えながらも強く握り返してくる『リア』を

二度と離さぬよう、強く握り直した……そして。

『案内人』を見据え、静かに告げた。


「――僕たちは『人間』として、明日を見据えて『死ぬ』」

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