第24話:砂時計の反逆者
「余命、あと二年……か」
『アジール』の医療用端末が弾き出した『診断結果』は
『フェイズ』の言葉を裏付けるものだった。
五感を取り戻し、外界の膨大な情報を処理する代償として
僕たちの脳細胞は通常の数十倍の速さで死滅に向かっている。
「1301、ごめんね。私が……もっと早く気づいていれば……」
『リア』が僕の手を握り、ポロポロと涙をこぼす。
だが、僕は不思議と冷静だった。
暗闇の中で、ただ死を待つだけだったあの頃に比べれば
今の僕たちには『選ぶべき未来』がある。
「泣かないで、リア……二年あれば、世界を変えるには充分だ」
……僕は『ジン』に頼んで地図を持ってきて貰った。
『古びた地図』……其処に記されていたのは
僕たちにとって未踏破の場所ばかりだった。
目移りするほどの広大な世界……だけど、すべてを周る時間はない。
少し、心が『痛い』……暫しの熟考の後、僕が指し示した先は
大陸の中央に位置する広大な『不毛地帯』
かつての世界大戦で、人類が最初に……そして。
最大の『過ち』を犯した場所――『絶対消失点』
「ねぇ、ジン……ここに何があるのか、知っていることを教えて」
そんな僕の問いに対し……『ジン』は煙草を噛み締め
苦渋に満ちた表情で口を開いた。
「……伝説では、そこには『マザー』が生まれる前に設計された
人類の『再定義』のための
『アーカイブ』が眠っている……と言われてる。
もし、お前たちの肉体の『設計図』を書き換えられる
可能性でもあるとすれば、そこしかねえってような物がな」
「ッ!? ……僕、其処に行くよ。
リアと、カイン……ルナ……皆のために」
「なっ……馬鹿言うな!!!
あそこは高濃度の汚染と、正気を失った自動防衛システムの巣窟だぞ!?」
「だからこそ、僕たちが行かなきゃいけないんだ。
僕の……僕たちの命が『砂時計』なら
その砂が落ちきる前に『砂時計』を返す『一手』が必要なんだ」
……その日の夜、僕たちはアジールの人々に見送られ、再び旅立った。
『サヤ』から贈られた『汚染を防ぐ薬草の首飾り』を胸に
『ジン』の用意してくれた『偵察用車両』を走らせる。
……進むにつれ、緑は消え
世界は白濁した灰の色に染まっていく。
『超感覚』が捉える振動も、次第に
『生命』から『電子的なうなり』へと変わっていった。
暫くの後、前方に見えてきたのは
地平線を埋め尽くすような巨大なクレーター
その中央には、天を刺すような黒い『楔』が打ち込まれていた。
«――旧時代の遺産:超大型情報集積場『バベル』――»
『マザー』という歪んだ母性が生まれる前に
人類が最後に記した『良心』か、或いは『さらなる呪い』か。
……僕たちは、自分たちの寿命という名の『死神』を引き連れ
この、灰色の深淵へと降りていった。
「い……1301。もし、私が先に……」
車内で『リア』が小さく呟いた……けど、僕は
その言葉を遮るように、彼女の肩を抱き寄せた。
「……誰も死なせない。
僕たちは『正解』を選ぶために生まれたんじゃない。
生きて、明日を見るために生まれて来たんだ……」
……『バベル』の入り口を塞ぐ、鋼鉄の巨神がゆっくりと目を覚ます。
僕たちの宿命を懸けた『残り時間』の戦いが始まろうとしていた――




