第21話:鉄の灰、緑の芽
『マザー』の総攻撃が止み『アジール』には静寂が戻った。
……だが、この静寂は平和を意味してはいなかった。
崩れた外壁、黒煙を上げる居住区……そして何より
自分たちが『旧人類の身勝手な実験体に過ぎなかった』という
真実を知らされた僕たちの中へと芽生えてしまった
小さくも馬鹿に出来ない『喪失感』
「お前達……これから、どうするつもりだ?」
瓦礫の上に座り込み『ジン』が低く訊ねた。
彼の愛機『渡鴉』もまた
先ほどの戦闘で大きく破損し、今は物言わぬ鉄の塊と化している。
『バロウズ』率いる軍部派にしても『マザーの崩壊』に依って起きた
地下動力室の変圧異常に巻き込まれ、その殆どが死亡していた。
この日……それが善であれ悪であれ
『指揮者』と呼べる者たちを急激に失う事と成った『アジール』は
今や、漂流を続ける『難破船』のような状態だった。
「どうするって……なら『作り直せば』いい。
この場所を……もう一度、住むことの出来る『家』に」
無責任にも思える僕の言葉に
周囲で怯えていた住人たちは顔を上げた。
彼らの瞳には、まだ僕たちに対する『恐怖』が残っている。
だけど、その感情の『半分くらい』は自分たちを救った
『光』への期待、みたいなものも確かに感じられた。
「そんなこと、出来るわけがないっ……!
資源も、食料も、今の騒ぎで全て消え去っちまったんだぞっ!?」
そんな中、一人の男が叫ぶ。
「確かに、簡単だとは思わない……でも、僕らには
皮肉にも『プラント』の技術がある。そして……」
そんな彼に対し、僕は遠く離れた『緑の街』の方角を指し示し――
「この世界で、汚染に耐えながら生きる術を知っている友人たちがいる」
――直後、僕は『リア』の手を取り
彼女の『声』を、今や『アジールの通信網』と化した
『希望之増幅器』に乗せた。
それは『叫び』ではなく
遠くにいる仲間を呼ぶ、穏やかなハミングだ。
……数時間後。
アジールの門の外に……少なくとも
アジールの民たちにとっては『異様な光景』が広がった。
『サヤ』率いる『フォレスト・エコー』の人々が
巨大な『植物の獣』を従え『大量の種子』と
『浄化された水』を持って現れたのだ。
「……呼んだわね、1301。
あなたの奏でる旋律が、風に乗って聞こえて来たわ」
『サヤ』が微笑む。
……一方、アジールの住人たちは
肌に緑の紋様を持つ彼らに最初こそ怯えていた。だが
サヤたちが差し出した新鮮な果実や
荒野の毒を分解する特殊な苔の効能を目の当たりにするにつれ
頑なだった心が溶けていく。
「……『鉄』と『植物』……『管理』と『野生』
相反する両方がないと、この世界では生きていけない」
……僕は、崩れた議事堂の跡地に立ち
集まった人々を見渡しながらそう告げた。
「……僕たちでは、旧人類が望んだ
『完璧な平和』は作れないかもしれない。
でも、互いの違いを認め、補い合える『新しい場所』なら
今、ここから作れるはずだ」
……静かに、唯静かに。アジールの民たちは
僕の言葉に否定も肯定もせず、聞き入っていた。
その日の夕暮れ……アジールの中心部
『マザー』の残骸が転がる広場に、一本の苗木が植えられた。
『プラント』が有する『ナノマシン技術』で土壌を急速に浄化し
『フォレスト・エコー』の歌で成長を促す……夕日に照らされ
小さな緑の芽が、鉄の灰を突き破って伸びる。
……それを見た『リア』が、心からの笑顔を見せた。
だが。その平穏を嘲笑うかのように……はるか北の空、黒雲の中から
数百の『赤い眼』が『新生アジール』の光をじっと見つめていた――




