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『無キ者(ノー・バリアント)』 ――五感を奪われた僕たちが、残酷な世界で『人間』になるまで。  作者: 黒崎 凱
第二章:外の世界

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第18話:亡霊たちの晩餐会

『ルナ』は一命を取り留めた……だが。

彼女の容態を完全な状態に安定させるためには

ナノマシンを中和する『高純度抗体薬』が必要だった。


それを手に入れるため『ジン』が導き出した場所は

『アジール』から北へ数キロ、常に赤黒い霧が停滞する

通称『廃都の心臓 』……それは

旧時代の『巨大総合病院』と呼ばれる場所の跡だった。


「いいか、1301……あそこはただの廃墟じゃねえ」


……『ジン』の顔が、これまでにないほど険しい。


「これは、生まれたばかりの『マザー』が

まだ『プラント』を稼働させる前の事らしい。


……最初の人体実験に失敗し、捨てられた

『第一世代』の生き残りたちが根を張っている……奴らは

自分たちを見捨てた『世界』を……今も呪い続けてるんだよ」


「……でも、其処に行けば『ルナ』を救える?」


「確証は持てねえ……だが『プラント』が倒れちまった今

救う力を持ってるのは彼処だけだ……それと、もう一つ。

済まねえが、俺の機体は出せねえ。


『故障』的な意味でもそうだが……どちらかと言うと『政治的に』不味い」


「分かった……ありがとう。

数キロ程度なら僕らは大丈夫だ……それより

『ルナたち』を頼んでもいいか?」


「そ、そりゃあ構わねえが……」


……この後

僕と『リア』……そして『カイン』は

『アジール』を出て『廃都の心臓 』と呼ばれる

霧の街へと足を踏み入れることと成った……だが。


『視覚』が捉えた景色は、等しく狂気に満ちていた。


……『病院』の廊下には、不自然に肥大化した肉体や

機械と肉が醜く癒着した『かつての人間』たちが

言葉にならない呻きを上げながら徘徊している。


「あ、ああ……おなかが、すいた……色が……ほしい……」


……すれ違った『第一世代』の男は

そう言って僕の手を掴んだ……言葉こそ発せてはいるが、反面

その瞳は濁り、視力は完全に失われている。


「悪いけど、離してくれ……」


「ああ……ああ……悪いけど……悪いけど……」


直後、虚ろなまま僕から手を離し

再び彷徨い始めた『第一世代の男』……


……僕たち『第十三世代』が、完成品を設計された後に

『奪われた能力を取り戻す権利』を与えられていたのに対し

彼らは最初から『壊されたまま』生み出され

そして放置された棄民なのだ。


「誰だ……? ……新しい……いい『匂い』がする……」


心に『嫌なもの』を感じた直後……奥の『診察室』から

優雅だが背筋が凍るような声がした。


其処から現れたのは、全身を白い包帯で巻き

豪奢な旧時代の『ドレス』を纏った女だった。


彼女の周囲には、欠損した手足を機械で補った異形の者たちが

まるで『従者』のように傅いている。


「ようこそ……我が『晩餐会』へ。

私は『マザー』が最初に愛し、最初に捨てた娘……『アリス』よ♪」


……アリスが嬉しげに微笑む。

そんな彼女の背後……『テーブル』には

泥のような汚物と、錆びたボルトが『食事』として並べられていた。


「……薬がほしいのでしょう? 『ジン』から通信があったわ?

いいわよ? いくらでもあげる……但し……それには『代償』が必要。


そうね……あなたの『目』をくれないかしら?

『第十三世代』の……その、輝く宝石のような『瞳』を」


「断る……そんな事はさせない。薬は、力ずくでも貰っていく」


僕が『振動剣』を抜こうとした瞬間『アリス』が笑い声を上げた――

 

「ふふっ♪ ……『力』ですって?

『第十三世代』……貴方たちは傲慢ね。


……貴方たちは『マザー』に望まれて生まれた。

でも私たちは、望まれる事無く『作られた』のよ。


この『怒り』が、この『絶望』が……ふふっ♪

どれほどの『重さ』か教えてあげるわっ!!!――」


――『アリス』が指を鳴らした直後

天井から降り注いだ無数の点滴チューブのような触手……それは

触れたものの感覚を『増幅』させ

神経を焼き切らんとする悍ましい『防衛システム』だった――


「ぐッ!?……あ゛ぁぁぁぁぁッ!!」


――直撃を食らった『カイン』は悲鳴を上げ、膝をつく。

強靭な肉体を持つ彼だが、神経への直接攻撃には弱い

掠った程度の僕でさえ視界が赤く染まり始めている。


『痛覚』が悍ましい程に膨れ上がる。

風が肌に触れるだけで激痛が疾走る――

 

(ぐッ!? ……これが、彼らの感じてきた世界なのか……?

 

『憎しみ』……自分たちは何故、こんな醜い姿なのか。

『苦痛』……自分たちは何故、こんな環境にいなければならないのか。

『渇望』……自分たちは何故、何も与えて貰えないのか。)


『感覚の増幅』に依って疾走った激痛と共に

彼らの思考とその『痛み』さえもが、滝のように流れ込んだこの瞬間


「ご……めんな……さい……っ」

 

不意に『リア』は『アリス』へと歩み寄った

激痛に顔を歪めながらも、彼女は

『アリス』の包帯で巻かれた手を、そっと両手で包み込んだのだ。

 

「謝罪? ……何をするのッ!? 『偽善』は無駄よ!?」

 

「ごめんなさい……『偽善』は分からない。

だけど……悲しい『旋律おと』が聞こえるの。


あなたから……貴女が……本当は誰よりも

誰かに『触れてほしかった』って……私が触れるから

私が……貴女を悲しみから助けるから……」

 

直後『リアの歌』が、病院内へと響き渡った――


――だが、それは『攻撃』では無く『鎮魂』の調べだった。


荒れ狂っていた『第一世代』たちの脳波

『増幅』され、流れ込み続けた波が急激に静まっていく。

 

「ああ……あぁっ……痛くない……

これは何?……一体何の……『薬』なの……? 」

 

そう言って『アリス』は力なく崩れ落ちた

直後、彼女を締め付け続けていた包帯の隙間から

滲んで落ちた一粒の涙……彼女は

僕たちへと『抗体薬』を差し出しながら

リアの歌を涙ながらに聞き続けた。


……薄暗くジメジメとした『院内』に微かな『変化』が訪れたこの瞬間

僕は――


「ねえ……『アリス』

いつか、この霧が完全に晴れる日が来たら

僕たちと一緒に太陽を見よう……僕は、君をも治したいんだ」

 

――そう言い残し、出口へと向かった。

未だ少し残る『痛み』を感じながらも

『苦しい笑い声』を上げることは無くなった『アリス』の

『満足げな泣き声』を背中に受けながら――

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