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『無キ者(ノー・バリアント)』 ――五感を奪われた僕たちが、残酷な世界で『人間』になるまで。  作者: 黒崎 凱
第二章:外の世界

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第17話:時限式の命

『アジール』の最下層……湿った空気が停滞する『隔離区画』

そこが、僕たちに与えられた『住処』だった。


『プラント』から救い出した三人の同胞のうち

一番年下だった『少女:ルナ』の異変に気づいたのは

『アジール』に来て三日目の夜だった。


「あ、つい……お兄ちゃん……身体の中が……燃えてるみたい……」


『ルナ』の肌が、見たこともない禍々しい赤紫色の発光を見せていた。

慌てて駆け寄った僕が彼女の胸元に触れると

心臓の鼓動が、まるで高速回転する『エンジン』のような

異常なリズムを刻んでいた。


「『ルナ』……しっかりしろ!」


僕の『視覚』が彼女の体内を透過する……絶句した。

彼女の脊髄に沿って埋め込まれた『ナノマシン』が

『マザーのネットワーク』から切り離されたことをトリガーに

『自己崩壊プログラム:焼却処分パージ』を開始していたのだ。


「くッ……な、なんて酷ぇ事をッ!!

『マザー』の野郎、自分から離れた個体は

一秒たりとも生かしておかないってことかよ! 畜生がッ!!」


様子を見に来たジンが、拳を壁に叩きつける。

このままでは『ルナ』は内側から焼き切れる……いや、それだけじゃない。


此処までに蓄積された高濃度のエネルギーが『臨界点』に達すれば

彼女の肉体は『アジールの下層部ごと吹き飛ばす爆弾』になりかねない。


「諦めない……必ず助ける。『ルナ』少し待ってくれ

僕が思いつく限りの方法を考え……」


«――警告:異常熱源を検知

これより『隔離区画』を完全封鎖し、処理を開始します――»


考えを纏めることさえ許さないかのように、直後

冷たい『アナウンス』と共に、区画の隔壁が閉じられ始めた。


『バロウズ』の息がかかった警備兵たちは

防護服に身を包んで銃を構える。


彼らにとって『ルナ』は救うべき少女では無く

『処理すべき不発弾』に過ぎなかったのだ。


「な゛ッ!?……ま、待ってくれッ!

僕が……僕の能力で彼女の『ナノマシン』を抑制する!

だから……封鎖は待ってくれッ!」


「無駄だ化け物ッ! ……お前らごと処分するのが一番確実なのだよ!! 」


『バロウズ』の怒号が響く……絶望が支配する中

『リア』は『ルナ』の手を強く握った。

 

「一人には、させない……1301、繋ぐのっ!!!

私の『声』を……『ルナ』の体内にっ!」


瞬間、僕はリアの『意図』を瞬時に理解した。

僕が中継役ハブとなり、リアの『高周波の歌』を


『体内のナノマシンへ直接送り込む』


それは、物理的な『破壊』ではなく

音の振動によってプログラムを強制的に『書き換える』と言う事。


高度な演算能力を持つ『マザー』が組んだ

『最悪で堅牢なプログラム』に真っ向から挑もうと言う事だ。


……それは、あまりにも『無謀』な試みだ。

だけど……絶対に


『無理』にはさせない――


「分かったッ! ……やるぞ、リアッ!」


――直後『ルナ』の背中に手を当て

『リア』と感覚を『共鳴シンクロ』させた。

 

ドクン……ドクン……ドドドッ……ドドドッ……


瞬間、三人の鼓動が重なった事でより鮮明に理解出来た

『ルナ』の体内で暴れ狂う、冷徹な死のプログラムの『動き』


……そこへ、リアの優しくも力強い『歌声』が

僕の神経を通じて流れ込んでいく……『視覚』が

『ナノマシン』の微細な振動を加速度的に正確に捉え始めた。


あと一秒……あと一ミリ……『捕まえたッ!!! 』

 

「止まれえぇぇぇッッッッッ!!!!!!!! ――」


全ての『感覚』を賭け、意識の底から『停止命令』を叫んだ直後――


「う……っ……」


――『パチン』と言う

小さく響いた音を境にルナの発光は消失した。


激しい蒸気が彼女の毛穴から噴き出し

嘘のように『ルナ』の身体は冷えていく。


「はぁ、はぁ……止まったッ……止めた……やった……ッ……」


静寂が戻った『隔離区画』……一方の『バロウズ』たちは

信じられないものを見る目で僕たちを見つめていた。

 

僕たちは『ルナ』の命を救い、結果として『アジール』の安全をも護った。

だけど『称賛』など一つもなかった。


この一件は、アジールの住人たちの『心』に

新たな『恐怖』を植え付けることになってしまったのだから――

 

「あ、あいつら……自分たちの意志で

他人の身体を書き換えられるのか……?」


――向けられる視線は加速度的に尖っていく。

同胞を救えば救うほど、僕たちは『人間』から遠ざかる。

 

この日『隔離区画』にさえ居場所がなくなり始めた僕たちは

薄暗い隔離区画の、更に暗闇の中

『家族』で手を握り合いながら誓った。


「たとえ世界中が敵になっても、この『絆』だけは離さない」……と。

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