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『無キ者(ノー・バリアント)』 ――五感を奪われた僕たちが、残酷な世界で『人間』になるまで。  作者: 黒崎 凱
第二章:外の世界

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第16話:鋼鉄の揺りかご『アジール』

荒野の果て……砂塵の向こう

その『巨躯』が現れた瞬間、僕たちは言葉を失った。


それは、巨大なクレーターの縁にへばりつくように建設された

鉄と廃材の『城塞都市』だった。


かつての『巨大ダム』の遺構を基盤にして

無数の『簡易住居プレハブ』や『コンテナ』が

まるで『積み木』のように重なっている。


「やっと見えてきた……あれが

俺たち最後の砦――『アジール』だ」


『ジン』の声には『自嘲』と『誇り』が入り混じっていた。


飛行艇『渡鴉ワタリガラス』が着陸態勢に入ると

城塞の各所からは『サーチライト』が照射され

重厚な鉄の門がゆっくりと開かれた……だが。


降り立った僕たちを待っていたのは『歓迎の宴』では無かった――


「動くなッ! ……全員、そのまま跪けッ!」


――『渡鴉ワタリガラス』のハッチが開いた瞬間

十数人の武装した兵士たちが僕たちを包囲した。

彼らの銃口は『ジン』には一つとして向けられず

明らかに僕や『リア』『カイン』……そして

救い出した三人の同胞たちに向けられている。


「おいおいおいッ!!! ……待て待て待てッ!

こいつらは『プラント』から逃げ出した生存者だ。


別に『乗っ取られた』訳じゃ無え! ……俺が連れて来たんだよ!」


『ジン』が間に入ろうとするが

兵士たちの先頭に立つ初老の男は

冷酷に言い放った――


「……ジン、お前の功績は認めている。

だが『ルール』を忘れたか? ……『プラントの産物』は

『マザーの端末』である可能性を捨てきれん。


特に、昨今問題に成っているのが『十三世代共』だ。


こいつらは皆……『歩く爆弾』と同じだ」


――『アジール』の警備主任『バロウズ』

彼は、吐いて棄てるようにそう言った。


遅れること僅か、周囲に集まった『アジール』の住人たちの目。

そこには『慈しみ』や『温かさ』など微塵も無かった。

在ったのは『恐怖』『嫌悪』……そして

自分たちの平和を乱す『異物への排除心』だ。

 

『プラント』の中で僕たちが僅かでも抱いていた

『本物の人間なら分かってくれる』という淡い期待が

冷たい音を立てて崩れていく。


「違う……僕たちは『端末』なんかじゃ無い」


……僕は、銃口の前に一歩踏み出した。

超感覚ハイパー・センス』が、兵士たちの震える指先や

『バロウズ』の裏に隠された『政治的な野心』を克明に読み取った。


「僕たちには『心』がある……『痛み』も『悲しみ』だって感じる。

あなたたちと……『同じ』だ」


「貴様……口を慎め、化け物がッ!!!」


『バロウズ』が銃のストックで僕を殴りつけようとした

その時――


「――止めなさいバロウズ!!!

彼らは……私たちの『鏡』よ」


――人だかりの中から現れた、車椅子に乗った一人の女性。

白髪混じりの髪を上品に結い

その瞳には深淵のような知性が宿っている。


彼女こそ『アジール』の『最高評議会議長:エマ』だった。


「ぎ、議長ッ!? しかし、こいつらは! ……」

「バロウズ……彼らの『瞳』を見なさい。

『マザー』に支配されてしまった『人形』が

こんなにも『哀しい光』を宿すと思うのですか?」


『エマ』は、僕の前に車椅子を止め

震える手で僕の頬の傷に触れた……彼女の手は

『サヤ』の植物的な温かさとも『ジン』の荒っぽさとも違う

どこか『旧人類の慈愛』を想起させる感触だった。

この感覚が正しいか否かはどうでも良い……ただ『温かかった』のだ。


「……ようこそ『アジール』へ。

ここは『地獄の底』……だけど、少なくとも

あなたたちが自分を『人間』だと証明する

そのための時間くらいは与えてあげられる場所よ……」


僕は『エマ』の瞳をじっと見つめ返した。

『マザー』という絶対的な支配者がいなくなった場所。

そこに待っていたのは『自由』という名の

より複雑で不条理な『人間の理』だった。

 

……僕たちは、この『鉄の揺りかご』の中で

自分たちが何者であるかを問い直されることになる――

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